私が患者さんの朝食担当で早朝から仕事の日、女性主任が定休日だったので、産婦人科医院の調理室では、皆で話が盛り上がっていた。
職場の空気が変わる、主任の定休日は皆の言葉づかいも違う。
昨日の主任の熱弁話などを議題に、手元の仕事を進めながらも、5人で互いの正直な気持ちを告白し合っていた。

 年配の女性主任の好きな芸能人は、一流俳優のKで、以前、船でのファンツアーに参加した時のことを嬉々として話していた。
私は、人気歌手グループのNが好きだと言うと、3才歳下の薫さんは、アイドル歌手のSがいいと言う。
皆で女子らしく、きゃっきゃと彼らの何処が好きとか言い合っていたら、管理栄養士の資格を持っている私の2才歳上の未希さんは、自分の夫以外興味ないと、言い放った。
未希さんは、学生時代に同級生だった夫との結婚に持ち込むため、かなりの事を実行していたのは聞いている。
同じ年の先輩の公乃さんは静かに笑っているだけだった。
公乃さんの彼氏は、滅多に見かけないくらいルックスの良いバツイチ男性で、時折、彼の話を聞くと、ほぼ返す言葉は見つからない。
例えば、久しぶりに、二人で一泊旅行に行くと決めていたのに、当日ドタキャンした理由が、いきなり前日にコンパに誘われて二日酔いとか。
何より、公乃さんはそんな話をさらりと、時には笑いながらする。
よく別れないでいると思うものの、彼女は理想を持たない主義らしい。
平常心が服を着て歩いている様な公乃さんに、一般的な感覚は通用しない。
 一番歳下の葉月さんはとても素直で、彼女の表情は、見ているとすぐに何を思っているかわかる。
可愛い彼女も彼氏がいて一度偶然、量販店で買い物中の二人を見かけた時、近くにいるこちらに全く気が付かなかった。
彼氏のことしか見えてない様子が可愛いかったので、黙って見ていて後日報告してあげたことがある。

 それで昨日は、同じ調理師でとても仲の良いらしい彼氏のいる薫さんの、好きなアイドルSの方に花が咲いていたら、主任は、急に俳優Kの話に無理矢理持っていった。
過去の船上ファンツアーで、こんなことやあんなことがあって…と延々と聞かされて、かなり長く感じた。
 今日の皆の告白では、前にも同じ話を聞いていた未希さんは、疲れを隠してニコニコ反応してあげていたらしい。確かに昨日も、いちいち凄いとか、いいなぁとか、言っていたのを思い出す。
流石、一番長い付き合いの関係だと讃えると、
「機嫌を損ねると本当に面倒だからね」と、昨日とは、まるで別人の表情をして未希さんは言った。
 そういえば自分が、ここに入りたての頃、地雷を踏んだ過去を思い出す。
主任には、交通事故を起こして交通刑務所に入っていた経歴のある長男がいて、それを知らずに、自動車の運転で死亡事故を起こしたら終わり、とか真面目顔で発言したら、それからは主任と長い間、まともな会話が出来なかった。
そんな感じで、先輩、後輩との主任対策の打ち合わせの話し合いが重要だった。
でも後になって、自分もまた、試される時が来るのを知った。


 先日、翔子さんに誘われていたコンパに行ってから、心がざわついている。
当日の翔子さんは、何処で買ったのか聞きたくなる様なガーリーなピンクのワンピースに身を包んで待ち合わせ場所に現れた。
一言、可愛いとお世辞を言いながらも不意打ちを食らった気分になって、話をしていたら、翔子さんの知り合いの女性も二人来て、一緒にお店に入った。
久しぶりのことに緊張しながら、4対4で相手男性達と顔合わせを済ませると、翔子さんはお酒が強いし、たくみに喋って慣れた様子だった。
その後、全員でカラオケに行ったら倉内さんという一番目立つ男性が、よく歌って盛り上げてくれていた。
全てに慣れてる感じが、とても大人に思えた。
彼は一言で言うと、スタイルがいい。
服の上からもわかるくらい、ちょっと見たことない様な逆三の体型で、すらりとしている。歌も上手く、ノリの良い楽しい人と思った。
帰る時間が来て、少しホッとしていたら、翔子さんの知り合い女性二人は、倉内さん達と連絡先を交換し合っているので、自分もと、交換し合った。
女性二人が帰ると、翔子さんは、何を思ったのか、倉内さんのアパートで男性四人と飲み直すと言い出した。
酔っていても驚いた私は、戸惑って(女性が一人で行くには、ちょっと危ない時間だと…)と心配した。
翔子さんは普通の表情で話して、皆でタクシーで行くと話している。
流石に、どうかと思ったので、自分もついて行くと言った。
アパートに着くまでに車中で、男性達はオムライスを作って食べようと言い出した。
昔、料理人だった人もいて、倉内さんの家に着いたら、私と、もう一人の男性で足りない材料を買いに歩いて近くの深夜スーパーに行くことになった。
途中、自分が何をしているのか分からない気分になったけど、翔子さんを置いて帰る訳にはいかなかった。
オムライスを皆で、ひと通り作って食べて、少し飲んで、もう寝ることになって、翔子さんを家に帰るのに誘うと、翔子さんは、ほぼ酔ってない様子なのに、
「私はもう、ここに泊まるから。由夏さんは帰って休んでね」と言った。
驚いたけれど、大丈夫と、言う彼女の表情を見ていると、ついに帰るしかないと思った。

 私は結局、一人で家に帰り、今までは思ってもみなかった彼女の言動に動揺しながら、彼女がいつまでも独身の理由が理解できる気がした。
翌日になって、あの後どうなったのか翔子さんに聞いたら到底、人に話せる様な内容ではなかった。
それを翔子さんは悪びれる様子もなく楽しげに話す。
倉内さんに借りたパジャマを持って帰って洗濯したから返さないと、とか言っている。
それを聞いてからは、翔子さんとは正直、距離をおきたいと思った。


 早朝からの仕事の日だったので、夕方は早く終わって、適当に時間を潰して、バイト先の忘年会に参加しに行った。
意外と各店から参加者が集まっていて、ボウリング大会が盛り上がってきた。私はボウリングの腕に自信は無いけれど、時にそこそこのスコアが出たりする。
店長は、噂どおりに上手くて、見ていて気持ちが良いくらいだった。
登崎君のチームは、あと春呼ちゃんと英恵ちゃんで、今日の彼女達のスコアは低い様だった。登崎君は、楽しそうに伸びやかに投げている。
いつものバイト中も、あれくらい機敏だと素敵だと思う。
こんなとき、若いっていいなと思う自分の気持ちを隠すのが大変だ。
でも、病院での職場環境のあの気遣いの多い様を思い出すと、ここでは少し気持ちが救われる。
そんな感じで皆を見ていたら自分のチームが何とか決勝に残って、次もそこそこ頑張っていた。
自分と同じチームの侑斗君は、淡々と投げて意外と上手なタイプだった。
もう一人はゲームセンターのバイト女性で年も近く、話をすると、とても気が合って嬉しかった。
彼女は結婚もしていて、下の名前は萌絵さんだと、今日初めて知った。
侑斗君の横に登崎君が来て話している。
そして私にも、いろいろ投げ方のコツを教えてくれた。
相変わらず人懐っこい表情で、話しかけてくれる。
この頃は、それをちょっとだけ待っている自分もいる。
副店長のイベント中マイクは、堂々として慣れているのが分かる、耳に心地良い切れ味がある。などと、初めてちゃんと聞いて思っていた。
店長チームが勝って、自分達も景品をもらったりして、スコア席に座って萌絵さんと和やかに話をしていると、いきなり後ろから軽く抱きついてきた人がいて、春呼ちゃんかなと後ろを見て、私は目を疑った。
そこには登崎君がいて、私の肩から、あっと言う表情をしながら腕をすばやく退けた。
私は驚いて何が起きているのか分からなくて、黙ったまま瞬きするだけだった。
萌絵さんは、ナニ、何なの?と、小声で言って見ている。
彼はバツの悪そうな顔をして何か言いたい様だったけれど、顔を見ていると恥ずかしさが込み上げ、思ってもみない出来事をもみ消す様に、無理に萌絵さんの方を向き、必死でさっきまでの話の続きをした。