バイト先でのクリスマスイベントの日はすぐに来て、昼過ぎに僕はかなり暖かい格好で向かった。
ちょうど同じにバイトに来た英恵は、ゆっくり外階段を上っている。
僕は英恵に追いついて軽く挨拶した。
ちょっとびっくりしたのは、彼女がいつもと違って少し化粧をしていたこと。
何となく大人びた表情になっている英恵を尻目に、小走りでアミューズメントプラザのスタッフ休憩室に入って行くと、一人で主任がいた。
まだ、昼食を取れていなかったらしく、慌てた様子で食べている。
まだ、夜間大学生の主任は、愛敬のある笑顔を僕に向けて挨拶してくれた。
それで早速、僕は前から言われていたサンタクロースの全身衣装に着替え、かなり賑わっている場内の持ち場に入ると、もう主任はかなり忙しそうに走り回ってた。
人が多過ぎて貸し出しシューズの除菌清掃も追いつかないらしい。
ボウリング場はイブと二日間だけ、場内のライトを少しだけ暗くして、いつもと違う雰囲気なのが楽しい。
でも、それだけではなくて、今日は椋井さんに会えるので気持ちが高まっているのだと思う。
いつもより、子供連れのお客の多い場内を見渡すと、春呼が蕾未とゲームセンターの方に私服でいる。
昼までバイトに入って帰る様子も、こちらに歩いて来ながら僕のサンタのコスプレ姿を笑っている。
でも、僕はこんな格好も別にそれほど恥ずかしいとは思わない。
二人で近くに来て、春呼は機嫌良さそうに何か言ったけれど、今日は次々とピンの倒れる音も大きくて聞こえにくかった。
春呼も化粧をしていた。
蕾未と一緒に撮ったプリクラを見せている顔を見て正直、綺麗だと思った。
この前の休み時間に言っていたことを、また思い出すと、ちょっと目を逸らしたい気恥ずかしさがある。
二人のいつもと違う表情を見て、大人ぶりたいのは女子も同じかと思いながら、今から遊びに行くらしい春呼にちょっと悔しい気持ちがした。
そんな感じで、今年最後になるはずの春呼の顔を見送った。
年明けに連絡が来たら、絶望的な気持ちになるのも知らずに…
正月休みの間は、もっと忙しくなるのでバイトに入る。
三日間は時給も良いし、二日と三日に朝から入ることにしている。
部活も三日間以外ずっと練習があって、毎日忙しい。
でも、正月には父親にも会いに行くし、蒼成らと遊ぶ約束もしている。
あっという間に時間は過ぎて夕方になった。
クリスマスイベントの雰囲気が増してきてカップルも多い。
もう少ししたら事前予約のお客も、たくさんやって来る。
その前に僕は休憩を取って、トイレにも行って帰ってきたら、気持ちがそわそわして来た。
特別な日に、好きな人に会えるのは嬉しい。
でも、特別な日で無くても、彼女が僕のことを好きで無くても、僕は椋井さんの顔を見られるだけで幸せなのは間違いなかった。
今までこれといって恋らしい恋をしたことの無い侑斗は彼女の話をする僕を、常に諦め顔で見ている。
僕が、年上女性に何も相手にされず仕舞いで、いつも通りの僕に戻る日は近いと。
それでも未来は誰にも分からないのに、なんて寂しい奴だと思う。
はじめから可能性が無いと思ったら、何も始まらない。
そんな事を考えていたら、ちょっとお客の呼び出しに気がつかなかった。
慌てて対応して何とか全部片付けて、受付の方を見ると、椋井さんが出勤して来ていた。
僕は内心ドキドキしながらも出来るだけ普通の顔をして、受付に用事のある振りをして、さりげなく走って行った。
「おはようございます!」
僕は間合いを見て、あっちを向いていた椋井さんに話しかけた。
彼女は振り向いて、僕を見た途端にいきなり花が咲いたように笑い出した。
こんな笑顔を見られるなら自分の格好とか、どうでもいい気がした。
それで僕はもう普通の顔を作れなくて、満面の笑みで本当に美人な彼女のことを見惚れていた。
「おはようございます…」
と、僕に挨拶を返しながら椋井さんは、困ったような表情になって、まだ笑っている。
それで、やっと仕事の話を少ししたら高揚した表情で、
「似合ってるよ登崎君!…メリークリスマス!」
と、言って英恵と一緒に、また笑っている。
特別なことは何も無いのに、これだけで僕は凄く嬉しくなって持ち場に戻った。
帰りは、自転車に乗って帰る前にも椋井さんに声をかけて、彼女の車の駐車しているところまで送って行けた。
アミューズメント施設の駐車場は広い。
二人で歩いていく途中も、やはり寒くて身震いしながらも幸せな気持ちになり、こんな北風の吹く中の特別なひと時だけで、嘘の様に僕は大人になっている気がした。
僕はずっと胸を熱くしながら、いつもより疲れ気味な様子の椋井さんの表情を見送った。
帰って遅めの夕ご飯を食べる時、母親にも妹にも、かなり優しい態度な自分に気付いた。
クリスマスケーキは、ほんの少しだけ食べてみた。
椋井さんが、さっき駐車場でケーキの話をしていたから。
こんなにすぐに影響されてしまう自分が怖かった。
冬休みの始まりで何となく気持ちがそわそわするけれど、部活のこともあるので明日からは、いつも練習で走るコースを毎日走ることにした。