#妄想物語2 /ピンクの花(アカバナユウゲショウ) | Chaotic Interest Club

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ピンクの花

(アカバナユウゲショウ)

#妄想物語2



私は散歩に出かけた。

覇気のない歩き方で俯きながら道端の雑草を見て歩く。


今の私にはなんの生きる気力もない。

『生かされてる』という言葉に酷く絶望していた。


もうあと少しでシルバーの一員になる。

ここまで生きてくれば自ずとわかるのだが、実に真新しいものに出会う確率が減る。


なんというか、ひと回りしたと言えば分かるだろうか?あれもこれも経験済みで腹の底から湧き上がるような楽しさは感じられないのだ。


この先、どこに楽しさを見つけて生きていけばいいのか。箸が転げても笑えたあの頃のように、純粋な気持ちを取り戻すことは難しそうだ。


つまらない日々、いやむしろ嫌なことに囲まれた日常。しがらみがあるゆえ、すぐさま止めることはできない。


心の重荷と身体のだるさで何もできない、いや、何もしたくないという無気力に負け、また今日も1日が終わってしまうのか。いや、でも今日は、なんとか散歩に出かけたではないか。それだけでも進歩したことにしよう、、。


などと、自分を励ますものの、巡るのはやはりマイナスな気持ちばかりだ。


「生きてる価値、、生きてる意味、、そんなもん何もないな、何もない。」


空虚な胸の内。


ん?


空虚とは言えど、本当は虚しさが胸のあたりに満ち満ちている。辛い。


そういや、昨日は雨だった。


濡れた地面、石畳みの上には桜の芯がそこいら中に落ちてる。避けては歩けない。気持ち、優しく踏む。


時々傍に咲いてるタンポポが黄色く華やかではあるが、あとは緑と少しの白。細々とした雑草が目から癒しを与えてくれる。見慣れた景色だ。


と、そこに突如、1.5センチほどの可憐なピンクの花がひとつ目に飛び込んできた。


その花は『私を見て!』と言わんばかりに艶やかな色気を感じさせる生命力全開のエネルギーをこちらに放ってきた。


鍵付になった。




すれ違いざま思わず口元が緩んだ。

恐らくへの字型に曲がっていたであろう口元に迂闊にも笑みがこぼれたのだ。


目尻も下がった。全身の変な力みがスッと取れて、この身体に自分が戻ってきたようだった。


振り返りはしなかった。

そのまま散歩を続けた。


近場のコンビニでカフェラテを飲むことにした、もちろんスイーツも食べながら。35分ほど手持ちの本を読み、途中途中あのピンクの花を思い出していた。


さてと。


帰り道は家を出る時と比べ、かなり人間らしさを取り戻していた。何もかもあのピンクの花のおかげだ。


たった一輪の花に出会ったことで気持ちが切り替わってしまったのだ。きっと人の存在、生きてる価値というものもこういうものなのだろう。


人はひとりで生きていると思っていても、案外誰かに多大な影響を与えているかも知れない。例えば、コンビニのカフェスペースで年甲斐もなくスイーツを嬉しそうに頬張る私の姿を見て、誰かの心が解放されていたのかも知れないのだ。


そうなるともう、どこの誰でもどんなものにでも存在価値はある、ということになってしまう。答え合わせになった。


私は先ほどのピンクの花に感謝すべく、同じ道を通って帰ることにした。


先ほどよりもちろん足が軽い。


ピンクの花は、そこにひとつだけ咲いていた。誇らしげに、凛とした姿でやはり妖艶な輝きを放ち、それこそまるで私と会うためだけに今ここに咲いてくれているようにさえ思えた。


記念の写真を撮り、自分の存在価値を十分に教えてくれたこの花に「ありがとう」とお礼を言った。


空はどんより、雲に覆われ陽の光もないけれど、この分厚い雲の向こうに太陽があることは知っている。


今がたまたまこんな感じなのかも知れない。


家に帰り着くと、早速さっきのピンクの花を調べてみた。『アカバナユウゲショウ』という名だった。


長い期間花を咲かせ、コンクリートの隙間にでも生えてしまうほどの強い生命力にもかかわらず、花言葉は“臆病”なのだそうだ。


薔薇のように妖艶で、昼から化粧したように咲く、小さくて可憐で“臆病”な、生命力の強い花。


とんでもなく個性が詰め込まれた花じゃないか!


腹の底で笑ってしまった。


箸が転げても笑えるほどの純粋さが、まだ残っていたようだ。真新しさもまだまだ意外なところで見つかるのかも知れない。


まだ生きていく意味がありそうだ。



#妄想物語2