青パパイヤと最後の晩餐
「私さあ、この頃さあ、なんか生きるのしんどくなってきてて。べつにやりたいこともないし、、、。なんかね、もう、、、いつ死んでもいいやって思うの。」
「そうだったんですね。」
「でもさあ、どうせ死ぬなら楽に死にたいのよね。痛いのとかやだし。」
「みなさんそう仰います。」
「だよねー。あ、そういえばさあ、ついこないだ、ずっと気になってた青パパイヤの炒め物を食べたんだー!でもね、青パパイヤの皮を剥いてたら、ガッ!って包丁が親指の付け根の骨に当たっちゃって。」
「ああ、それで。」
「そう。まあまあ血が出た。青パパイヤって白い汁がでて滑るのよ。これがお肉とか柔らかくしてくれるらしいんだけど、切れにくい包丁だったから滑っちゃってね。」
「でも傷口は小さかったですね。」
「うん。そう。それがぬるぬるして手が洗いにくくて。傷口が染みるから絆創膏探して。そしたらラッキーなことに一枚だけあったの!結構古い絆創膏でちょっと変色してたけど貼ったのね。じわっと滲んでくる血を見て、ああ生きてるんだなって実感した。」
「そうでしたか。生きてることが実感できて良かったですね!それにその経験はあなたの送ってきた人生そのものを表現しているようです。」
「私の人生?」
「はい。いつもあなたは興味津々の青パパイヤを食べたくても手を切ったら嫌だから我慢して手を出さない。つまり普段は危険を冒してまで行動しようとはしない。それでだんだん何もしなくなって生きる気力もなくなり、死んでもいいと思うようになっていたのです。」
「うん。そうかも。」
「そして、今回、やっとの思いで腹をくくりいざ皮を剥いたのに指を切ってしまった。『ほら、やっぱり切っちゃったじゃない!』とどこかで自分に八つ当たりをしながら、もう青パパイヤなんか2度と食べない!って嘘の誓を立ててしまう。そしてまた何もしたくなくなるのです。」
「そうそうそう!傷つくのが怖くてね。私の人生ってほんとつまんない。結局怖くて何にもしないできちゃった。」
「しかしながら、視点をちょっと変えてみるとなかなかどうして、あなたの人生も捨てたもんじゃなかったのですよ。」
「、、、じゃなかった?」
「はい。最後の最後にあなたは青パパイヤを食べたくて、ついに行動を起こしたではありませんか!結果、あなたが最も恐れていた『指を切り出血』することで生きてることも実感できました。その上、料理も手に入り美味しい思いもできましたよね。もし青パパイヤの皮を剥いていなければ、そのような充実した気持ちを一生味わうことはでなかったでしょう。それにラッキーなことにあなたが傷口に貼った古い絆創膏には、非常に強力なバイ菌がついていて、しかも爆睡中の意識不明という無好条件の中、苦しい思いを全くせず、まるで夢見心地の中で死ぬことができたわけですし。」
「え?ちょっとまって、死ぬことができた?」
「あら、まだお気づきではなかったのですか?あなたは無事今回の人生を終えられたんですよ。コングラッチュレイションズ!あなたは念願の青パパイヤの炒め物を食べたあと眠くなって横になり、傷口からバイ菌が入ったまま爆睡、そして高熱により意識不明。」
「確かに、すっごい疲れてたから爆睡したことまでは覚えてるけど。」
「あの日は土曜日で、あなたは携帯の電源をオフにしてたでしょう?三日間も無断欠勤が続いた天涯孤独のあなたを心配して、会社の方が大家さんに連絡してくれたのですよ。」
「あー、そうだったんだ、、、。みんなにほんと感謝だわ。でもまあ、痛みも苦しみも感じなくてほんと良かった!念願の青パパイヤの炒め物も食べれたし。あ、だけど、どうせ最後の晩餐だったなら、青パパイヤ食べた後にカプチーノとフルーツどっさり乗った生クリームまみれのケーキを丸ごと食べるんだったわー。ああ、ざーんねん!」
「そこですか?承知いたしました(笑)。では、来世のあなたの願いとして最優先させていただきますね!それではまたお会いいたしましょう。長旅、お疲れ様でした。」
完
#妄想物語2