メリークリスマスあんどキョーコちゃん、ちょびっと早いけどお誕生日おめでとうございます!
・・・ってことで、某お嬢様に頂いたリクエストをもとに、原作沿いにてお話にしてみました。
妄想弱力になってきた一葉が絞りに絞った一品。
美味しくお召し上がりいただければ幸いにございます。
■ 片膝ついて、手を添えて ■
LME芸能プロダクション事務所の社長主催で開かれている迎賓館の感謝パーティに俺が顔を出せたのは、12月24日の23時を少し回った時刻だった。
今日というこの日は世間ではクリスマスイブだけれど
俺にとっての12月24日はあの子の誕生日の前日という認識でしかなく
従ってクリスマス当日も俺にとっては記念すべきあの子のバースディという意識の方がはるかに強い。
『 いいか?お前は一国の王子を思わせる恰好で来い。けれど決して主役にはなるな。当日の主役はお前じゃないんだからな 』
理解ってます。
そんなことは社長に指摘されるまでもなく。
今年、あの子が頑張ってきたご褒美に、と社長が考えたあの子のバースディプレゼントは、最上さんにお姫様を経験させること、だった。形式上は俺がその案に乗っかった、という体になる。
遅れるわけにはいかなくて、少し巻きで仕事をしてきた。
それでも11時を過ぎてしまったのは、少々支度に手こずってしまったから。
白と黒、どちらにしようか迷ったけれど
姫のドレスは白にしたから、敢えて俺も白に揃えた。
それでも小物は黒を選んだせいか、落ち着きのある騎士風の装いになったと思う。
すっかり冷えた夜の候
ようやく迎賓館のドア前に立った俺は小さく息を吐き出した。
漏れ聞こえてくるのは音楽と人のざわめき。
今年もまた多くの人が笑顔を浮かべ、挨拶をかわしつつ歓談しているのだろう。
「 珍しく緊張しているのか?蓮 」
「 ・・・そうかもですね 」
執事の恰好をした社さんを従えて、会場に足を踏み入れる。途端にざわめきが一度やんだかと思うと、解かれた花束のような熱いため息とともに多くの視線が自分に集中したのが分かった。
「 ・・・っっ・・ 」
だというのに、苦笑が浮かんだ。
こんなにも広い会場で
こんなにも多くの人が集まっている中で
しかもこれほどの距離があるにもかかわらず
俺の瞳が一瞬で捉えたのは、姫に扮したあの子だけ。
「 ・・・っ・・・敦賀さん? 」
これほどの人いきれが溢れる中、聞こえるはずもないはずなのに
刹那に俺と視線を絡めた君が
俺を見つけて安堵したように頬を緩め
小さく俺の名を呟いた声が聞こえた気がした。
ああ、やっぱり最高に似合ってるね、そのドレス。
俺が選んだんだよ、君のために。
可憐なレースとパールをあしらい、白を基調としたそのドレスを見たらきっと
君は頬をほころばせてくれるだろうと容易に想像が出来たから。
アメリカの学校では、学生時分、校舎内で毎年のようにクリスマスパーティが開かれる。
だからそれに合わせて学生たちは、自分たちで事前にドレスを手配して、パートナーをあらかじめ決めておいてパーティに出席するのだけど
『 日本にはンな習慣ないからな 』
だから当日、会場で申し込めよ、と社長に言われて、参ったな、と思った。
だって、そうだろう?
事前に確約できないなんて心配だよ。
きっと素敵なレディに変身するだろう君を誰が放っておくと思う?
その予想通り
あの子の周りにはすでにたくさんの男たちが集まっていた。
その様はあの子が大好きなシンデレラや、白雪姫なんか比較にならないほどで、誰より彼女自身が大勢の男たちから注目を浴びていたのだと分かった。
「 あの、こんばんは、敦賀くん。あの!もしよかったらあたしと・・・ 」
会場に足を踏み入れて直
俺は最上さんに向かって歩みを進めているというのに
それが解らないのか見えていないのか、何人も声をかけてきた女性がいたけれど
「・・・・・・ 」
仕方なく足を止めて
そちらに顔を向けてにっこりと笑ってから、小さく会釈をしつつ右手を上げて遮れば、さすがにそれ以上近づいて来ようとする人はいなかった。
『 習慣がないのは知っています。だからほとんどの日本人は踊れないんですよね 』
『 ああ、まあな。だが心配するな。最上君に関しては俺が踊れるように仕込んでおいてやるから 』
仕込む、という言い方でもう、社長がどうあの子に教えるのかは目に見えるようだった。
おそらくあの子の負けず嫌いな性格を利用して、これでもかと叩き込むつもりだろう。
そしてたぶん、彼女はマスターしたのだろう。
だってそういう姿勢をしてるから。
そういう立ち方をしてるから。
「 ・・・っ・・ 」
ざわめきが、徐々に濃くなってゆく。
俺が迷わずまっすぐ彼女に近づくにつれ、あの子に群がっていた男たちが俺に視線を投げてきていた。
悪いけど
そんな目線に怯んでしまう俺じゃない。
君たちがどれほど束になろうと痛くもかゆくも感じない。
なぜならその子は俺のだから。
キョーコ姫は俺だけのパートナーなんだ。
役者としても
女性としても。
「 ごきげんよう、キョーコ姫 」
「 ・・・っ、何言ってるんですか、敦賀さん!いきなり姫ってっっ!! 」
こんなことで照れる?かわいい。
「 遅くなってしまったけれど、もしよろしければ俺と踊っていただけませんか?俺のパートナーとして 」
生涯の。
片膝ついて、手を添えて
愛を囁くように懇願した。
ただダンスを申し込んだんじゃないよ?
これって本当はプロポーズの仕草なんだけど、君はそこに気付いてくれたかな。
「 ・・・一曲だけですか? 」
「 姫がお望みなら何曲でも 」
「 は、はい!せっかく覚えたので踊りたいと思っていたんです。どうぞよろしくお願いします 」
嬉しそうに頬を染めてテレテレしながら俺の手を取る最上さんをじっと見つめた。
フロアで踊っているのは社長が招待した外国人ばかり。
・・・・・ってことは、もしかしたら
もし踊れる男が君を誘っていたら、君は俺を待たずにその誰かと踊っていたかもしれないということだろうか。
だとしたら今さらながらに日本がそういう文化であったことにちょっとだけ感謝しよう。
いや、もしかしたらもう外国人の誰かと踊った後かもしれないけども。
最上さん、もといキョーコ姫をフロアに促したところで、楽団が気を利かせてくれたのか曲が変わった。
これは朧月夜だ。
有名なワルツの曲。
「 キョーコ姫。ワルツ、踊れる? 」
「 もちろんです!ばっちりしごかれましたから。社長さんに 」
「 なんて言われて? 」
「 それが、世界に通用する女優になりたいなら踊れるようになっておけ、と言われまして。アクションを覚える要領で挑めば簡単にできるはずだって。実際、その通りで助かっちゃいました 」
なるほど
心得てるな
「 敦賀さんは・・・ 」
「 ん? 」
「 どうして踊れるんですか? 」
「 ああ・・・。俺は、海外のモデル仲間と付き合いがあるから、それで自然と覚えた感じ? 」
まぁ、覚えた経緯は嘘だけど
モデル仲間との付き合いで、というのは嘘じゃないからいいだろう。
「 ・・・そうですか 」
「 ん? 」
なんか、機嫌が悪くなった気が?
「 どうかした? 」
「 ・・・別に。ただ、今までどんな人と踊ったのかなってちょっと思っただけです 」
「 くす。仕事の延長だよ?あくまでも 」
「 ・・・そうですか 」
「 そうだよ。本当だよ? 」
「 ・・・・・ 」
俺の言葉を信じていないのか
ちょっぴり拗ねた風に口を閉ざしたその様子が俺をくすぐったい気持ちにさせる。
ごめんね、俺、遅くなって。
でも、ほら、クリスマスイブはもうすぐ終わる。
24時の鐘が鳴ったら誰より早くキスを贈ろう。
君がこの世に生まれてくれた、その聖なる日を祝って。
E N D
蓮くんとキョーコちゃんのダンスシーンをご所望してくださったお嬢様。
こんなんでよろしかったでしょぉか~~('◇')ゞ
ちなみにこのあと、二人は社長さんの計らいで迎賓館の隣にあるゲスト館にご宿泊し(あるかどうか知らんけど、あるだろ)、蓮くんは社長さんから「夕べはナニかしたのか?」と色々聞かれることになる。と思われます。
余談だけど執事姿のヤッシー、絶対かっこいいと思うんですよね!!
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