SS キュン糸 | 有限実践組-skipbeat-

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こちらは蓮キョ中心、スキビの二次創作ブログです。


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 てへっ。(∀`*ゞ)いちよーでっす。

 本日お届けするのは例によって原作派生妄想です。

 

 タイトルは「キュン・シ」とお読みください♡


■ キュン糸 ■

 

 

 

 

「京子ちゃーん!」

 

 映究スタジオの片隅で、あの子を呼ぶ村雨くんの声が聞こえてチラリと視線を巡らせた。

 はーい、と間髪入れずに返事をした最上さんの笑顔が映って、無言のまま目を眇める。

 

「ごっめーん。この衣装のボタン、取れかかちゃってるんだけどさぁ~」

 

「ああ!はい、大丈夫ですよ、このぐらいならすぐ出来ます」

 

「ほんと?いや、わりーね。着たときはもちろんちゃんとしてたんだけど、慌ててたせいでさっきどっかで引っかけちゃったみたいで」

 

「だーいじょうぶです」

 

 そう言ってすぐさま彼女は自分のカバンから裁縫道具を取り出した。

 そして当然のように針に糸を通し始める。

 

 

 本来、着用している衣装に問題が発生した場合、まずは衣装係に連絡するのが筋なのだが。

 模擬撮影の現場ということもあってそもそもちゃんとした衣装係などは存在しておらず。いや一応形として管理している人はいるのだが。

 どうやらその人物は衣服の問題を解決できる腕を持っていないらしい。

 

 この模擬撮影は役者数で補えない登場人物を分担して演じることになっている。その関係で村雨くんの衣装チェンジは機会が多いのだ。

 メインを演じる自分とは違って。

 

 

 最上さんが細やかに手を動かしている様子をすぐ近くで見守っている村雨くんを、離れた場所からじっと見据える。

 顔を、視線を固定したまま、俺は心底、ズルイ、と思った。

 

 

 俺だって同じ現場にいる以上、彼女と話がしたいのに。

 

 

 複数人で雑談している中に割って入るならそれほど難しいことじゃない。

 けれどすでに見慣れた光景になってしまっているそれにわざわざ口をはさむのはどうかと思われた。

 

 なぜかと言うと、最上さんから極力話しかけないようにお願いされているからだ。

 

 俺からのキョーコちゃん呼びにまだ顔面が対応しきれないから、という理由で・・・・。

 

 

 ずるい。

 あまりに理不尽すぎる。

 俺だって君と話がしたいのに。

 

 それこそどんなに小さな話題でも。

 

 

 あの裁縫道具、最上さんが言うにはだるまやのおかみさんから借りている品らしい。※1巻参照

 普段から持ち歩いているのかと訊ねたら、そうだと言う。

 なぜ?と聞いたら、もともとは精神統一に必要な時に活躍させていたのだとか。

 

 

「精神統一?」

 

「ま、お気になさらず。今はほぼ実用的な使い方しかしていなくて」

 

 

 持ち歩き続けているのは惰性でなんとなく・・・なのだそうだけど。

 

 実用的ってことは

 つまりいま村雨くんの依頼を引き受けたみたいな時ってことだろうけれど。

 

 衣装チェンジが少ない上

 ボタンを活用することなく地肌にジャケットを着こむスタイルの俺では、最上さんにお願いできることがない。

 

 せめて

 せめて前を留めていれば、筋肉活用で勢い弾くことも出来るのに。 ←(笑)

 

 ん?いや、ちょっと待てよ。

 

 

社さん

 

 ちょっといいことを思いついて小声で社さんに話かけた。

 俺がそっぽを向いたまま村雨くんを見続けていることを指摘もせず、しかも俺の小声に揃えて顔すら動かそうともしないその行動がいかにも敏腕マネージャーらしいな、と思った。

 

ん?なんだ

 

ちょっと、いま思い出した風に俺に話しかけてみてください

 

は?

 

できれば真剣な話をする顔つきで

 

はぁ?

 

お願いします

 

 

 そのあと少しの間があって小さなため息が聞こえた。

 それから俺に向かって姿勢を動かしたのだろう社さんの気配を察した。

 

 

「蓮。いまちょっといいか?」

 

 その声音が緊張感を伴っていて、役者より役者らしいな、と苦笑しながら社さんに向き直った。

 さりげなくジャケットの前を留めて。

 いかにも真面目な話を聞きます的に姿勢を正して。

 

 

「はい、なんですか?」

 

「・・・・・なぜ前を留める」

 

「え?あ、ああ、これは気付きませんでした。社さんが凄くまじめな声で俺を呼んだので身だしなみと整えないと、と思ってしまって自然に手が・・・」

 

「ほぉ・・・・?」

 

 

 ああ、なんですかその表情。

 やっぱりバレちゃっていますか。

 このあと俺が何するか。

 

 

「・・・・・っ・・」

 

 

 ま、いっか・・・と思いつつ

 俺はにっこり笑顔を浮かべたまま、勢いよくジャケットを寛げた。

 

 もちろんすべてのボタンを弾き飛ばして。

 

 

「うきゃっ!?」

 

「うおっ?!」

 

「ふおぉぉぉおうっ?!」

 

 

 瞬間、数人の驚声が上がった。

 

 いま何があったのか?と、固唾を飲んだ人たちの思考を邪魔しないようにと数秒の間を置いたのは、当然、意図的なものである。

 

 

「あっ、すみません!俺のボタンが飛んじゃったみたいです」

 

 

 そう言い訳しながら腰を上げ、最上さんの方をチラりと見たら、大きく目を見開いた最上さんの顔が次第に真っ赤に染まっていくのを何とも言えない心地で見守った。

 

 

 おや。君もさすがに分かっちゃった?

 いま何を目的にして俺が何をしちゃったのか。 




 

     E N D


本誌を購読しなくなってからすでに三ヶ月が経過しました。原作ってばいまどうなっているんだろ?・・・って考えたら出てきた感じです。しばらくこんなスタンスかと思います。

 

おまけがメインって久しぶりかも

■ こっちが本当のキュン糸 ■

 

 

「何をやっているんですか、全く」

 

 俯いた最上さんが、俺の衣装のボタンを付け直しながら真っ赤な顔で呟いた。

 

「うん、ほんとにね。でもちょっとしたミスぐらい誰にだってあるだろう?ありがとう、ボタン付け、引き受けてくれて」

 

「ミス?これって本当にミスでした?本当に本当のうっかりミス?」

 

 彼女から上目遣いの鋭い問い掛けについ口を閉ざしてしまった。

 例えばここで、本当は君と話したかっただけ、って俺が本音を漏らしたら、君はどういう顔になるのかな。

 

 言ってみる?

 君は聞きたい?

 言ったらどんな顔になる?

 

 ああ、でも本当は周囲にバレたらダメなんだよな。俺たちのコト。

 

 そんなこと嫌ってほど分かっているのに

 黙っていられない俺はやっぱり悪い男なのだろうか。

 

村雨くんに嫉妬しちゃったんだよ。俺は気軽にキョーコちゃんって話しかけたらダメなのに

 

「・・・・・っ!!!!」

 

「聞いてる?」

 

「・・・っ!!はい、出来ました!お待たせしました!」

 

 急に高速で動き出した彼女の手から衣装があっさり突き返された。

 眉間に深い皺を寄せた最上さんのそれを見てほんの少しだけ溜飲を下げた俺は、返された衣装のボタンを見てふと不思議に思った。

 

 四つ穴のボタンを留めているのは衣装に合わせた色糸だった。

 もちろんそれは普通のことで、何に違和感を感じたのか瞬間的には分からなかった俺だけど。

 

 

「あ、れ、これ・・・」

 

 よく、よくよく、よく見たら

 ボタンを留めている糸の形がハートの形に見えたのだ。

 

 まるで少し前に流行ったアレみたい。

 親指と人差し指で「キュン」とするみたいな、小さなハートの形みたい。

 

 一つのボタンに二つのハート。

 

 たぶん、俺が勝手にそう見てしまっているだけなのだろうけれど

 これってキュン死ならぬキュン糸だなって

 渡された衣装を手に壁に向かって歩き出した俺は、額をコツンとつけてから、我慢しないで口元を緩めた。

 

 END

かわゆす

 

 

⇒キュン糸・拍手

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