予告通りのお久しぶりタイトルです
脳内予想よりも早く上がって一安心。
どうも。(。-人-。)。一葉梨紗です。
どんなお話でも大抵、書きたい部分は終わりの方に位置しておりまして。
頭の中にだけプロット(構想)がある状態ですと、実際にお話を書き出してそこに行きつくまでの道程が遠すぎる事に世界の果てを見た気になれます…
悩むと迷宮にハマる性格なので…
以前にも言いましたが私、頭の中でお話が順番待ちをしています。
基本、結末が決まったお話から序列していくのですが、その座次を無視して別のお話に手を出す…という器用な真似がどーうしても出来ません。
←並列ならイケるのですが、既に出し尽くしました(笑)
従いまして潔く連載を完結に導くべく、実際に骨組プロットの下書きに着手してみたのですが…おう?…( ̄▽+ ̄*)……なんじゃこりゃ?
信じられない事に、説明文章であるにも関わらず異様な長さに発展した事に目を瞠りました
おおう…驚愕!!組み直したプロットで目算すると13話で終わる予定なんですが…絶対無理だろうな、という自信だけはあります。アホか。
ま、地道にガンバロ…。
さて、こちらのお話は、噂の人魚フェア 参加物です。
リンク先はセーちゃん、ことsei様ブログ、「リク魔人の妄想宝物庫 」となっております。
それでは、蓮キョで人魚パラレル☆めっちゃシリアス!もちろん、長いですよ!
⇒念のため前のお話こちら【 ◇1 ・◇2 ・◇3 ・◇4 】
少しでも楽しんで頂けましたら幸いです。
~ 噂の人魚フェア・参加作 ~
■ 草原の海 ◇5 惑い ■
高く澄んだ青い空を、悠然とそよぐ鳥の羽ばたきがキョーコの遙か頭上にあった。
ピロロロロ…と辺りに響く鳥の鳴き声が、水に浸かったままの人魚の耳にも心地よく届いていた。
地熱の高い、いまだ熱く呼吸を繰り返す活動的な火山であるにも関わらず、少し平らかになった山間の森の中、湖はひっそりとつつましやかに存在している。
昼間でも穏やかに時を刻むその場所で、昨夜からずっと、キョーコはぼんやりと蓮の事だけを思い浮かべていた。
「 どうして、帰っちゃったのかなぁ…? 」
もう何度つぶやいたか判らないほど、うわごとのようにただその言葉を繰り返す。
そうして夜を過ぎ、朝を越え、昼を迎えても、その疑問はキョーコの頭にこびりついたままだった。
明るい太陽の陽射しが、水面にぽっかりと浮かびながら波に揺らめく白い素肌を温かく包んでいる。
空を映した青い水の中で、浮かぶ雲のように身を横たえるキョーコの影が、透明度の高い湖底にくゆりと人魚の影を落としていた。
幻想的な景色を自ら作り上げながらも、それがどれほど希少な景観なのかなど当人に判るはずもない。
キョーコは変わらず水に浮かんだまま、やはり小さくポツリとつぶやいた。
「 私、大丈夫って、言ったのに… 」
布地越しに触れ合った蓮の温みを求め自分の腕にもう片方の手を重ねる。淋しげに頬を歪ませたキョーコは、湖を支配している静寂を脅かすことなくひっそりと自身の視界を閉ざした。
瞼の裏に浮かぶのは、知り合ってまだ2日しか経っていない蓮の顔。
理由など判らない。ただ、気がかりで仕方が無かった。
楽しく会話が弾んだのは、初めて出逢った夜だった。
知らない事ばかりが鼓膜に届き、また自分が知り得る世界を話す事で彼も驚きながら笑顔を浮かべていた。
時間は瞬く間に過ぎ行き、夜はあっという間に朝にとって変わった。
心地よさが身の内に拡がり、穏やかな想いに満たされて眠りについた昨日の夜明け。
また来ると約束をした訳でもないのに。けれど、どうしてだかまたすぐに来てくれるだろうという予感だけが温かく胸に息衝いていた。
そうして迎えたその日の夕刻。
起きるには少し早い時刻ではあったけど、蓮の声で眠りを妨げられたのにも関わらず、怒る気持ちなどは微塵もおきなかった。ただ自分を求めて名を呼んでくれた事に歓喜が湧いた。
目覚めさせたお詫びだと言って空を舞った色とりどりの花たち。
自分のせいだと眉をしかめ、本当に申し訳なさそうに差し出された薬。
こんな自分を喜ばせようとしてくれて、こんな自分を労わってくれたケンタウロスの心遣いが物凄く嬉しかった。
この気持ちを、どう表現すればいいのだろう。
仲間とも違う。
カナエとも違う。
そういえば
異種と言葉を交わすのはカナエで既に経験済みではあったけれど。
異性と言葉を交わすのは蓮が初めてだったのだと気付き、キョーコは知らずゆるゆると口元をほころばせた。
人魚である自分が、ケンタウロスである蓮と出逢えたのは、偶然としか言いようが無かった。
17歳の誕生日を迎えるまでの間、世界とはどんなところだろうかと興味だけが無尽蔵に湧き上がり、その度に知識だけを積み重ねていたあの頃。
人魚の掟に従い旅立つ日が来るのを、ワクワクしながら指折り数えた。
カナエにおねだりして何度も聞いた湖の話。
目をつぶれば情景が頭に思い浮かぶほど幾度となく夢想した美しい水景色になぜだか酷く恋い焦がれた。
迎えた旅立ちの日。
カナエの導きによって海しか知らなかったキョーコが初めて訪れた名も無い湖は、彼女の予想を遙かに超えた美しさを内包していた。
静観と佇む景色
清浄に満ちた空気
澄み渡り、何者にも侵されることなく清涼を維持した湖水
閑静な静謐さを纏った湖は、まるで繊細な異空間のようにただそこにあった。
それが人魚の心を激しく打つ。
――――― なんて綺麗な景色なの…
たどり着くまでに随分な時間を要してしまっていたけれど
焦がれた場所に身を投じたキョーコの心に、後悔などは微塵も存在していなかった。
しばし目を奪われ、シトシトと流れる水の動きに心を奪われた。
陸の見えない海のど真ん中ではおよそ有り得なかった、湖底まで太陽の光が落ちる様がとても秀麗で、キョーコは頬をピンク色に染めかつてないほど興奮しながら、幾度も景観に見入っては感嘆の溜息を熱くこぼした。
「 本当に、カナエの言った通り綺麗な場所ね 」
そよぐ風に自分の声を放つと、答えを返す風の精が左頬を柔らかく撫でたことに笑みを浮かべる。
トプンと水の中に潜り、心のままに水中を駆け巡り、そうして湖面に顔を出しては景色に心を奪われ自身の動きを封じる。キョーコはそれを飽きもせず幾度も繰り返してみせた。
本来なら、湖は通過点に過ぎなかった。
人魚としての掟に従い旅立ったキョーコには、目指すべき地が別に存在している。速やかに目的を遂行し、またあの海に戻らなければならない。
一通り湖を堪能したあと、長い移動で疲れを感じていた身体を労わるため、澄んだ水の中で眠りについたのは太陽が今と同じように真上を少し通り過ぎた時刻。
目覚めたら、目的地を目指そう。
その時は確かにそう思って眠りについたはずだった。
動物でさえ滅多に寄らない湖だとカナエから聞いていた。
火山活動が盛んで、一度噴火をすれば焦土と化す可能性が高い谷間に位置する名も無き湖。
生き物が近寄らないはずの孤高の湖に眠りを預けていたキョーコが、やがて一対の足音を聞いたのは太陽の光が月光にとって変わった夜分だった。
「 隠れなさい!! 」
それは奇しくもキョーコが目を覚まし本来の目的地へ泳ぎ進もうと顔を上げた時。
自分が気配を察知するよりも先にカナエの声が鼓膜に響いた。
人魚の存在を他に知らしめることは禁忌。
キョーコはすぐに首を縦に振る。
息を殺し、身を固く沈め、水の中でじっとしているのは人魚にとっては苦痛な事でも何でもない。
キョーコは沈んだ湖水の中から、カナエが空を舞うのを見守った。
瞬く間に空気が凪ぎ、一掃された湖面を梳きあげるように一陣の風が吹き渡る。凛とした空間が整えられると湖に静寂が訪れた。
それからほどなく。
草木を分けながら徐々に姿を現した見たことのない生き物の姿に、キョーコは目を見開いて息を呑んだ。
( あれ…は、ケンタウロス…?高潔な、神の御使いだわ… )
月明かりでまばゆく煌めき浮かび上がる金の髪
ひどく精悍な顔立ち
青白く照らし出された肌は離れていても滑らかさが見ただけで伝わり、ところどころ隆起した肉体は、鍛え上げられた男性のそれだと詰め込んだ知識がすぐに答えを教えてくれた。
もう少し、近くで見たい…。
自身の鼓動が囁くまま、キョーコが水面へ顔を出そうと尾ひれをかいたその時、異変に気付いたカナエがすぐさま湖面を風で押し鎮めた。
強く吹いた風で我に返ったキョーコは、心の中で頭を横に振る。人魚の戒めを思い出し、自分を諌めて再び息をひそめた。
そうして、少し離れた場所からまた蓮の動きを見つめた。
カナエが繰り出した鋭い風の動きに、瞬間、神経を尖らせたケンタウロスは、やがて自嘲するように口元に笑みを浮かべた。閉じられた瞼がゆっくりと視界を解放し、覗く瞳が柔らかく輝いている。
視線を周囲へと巡らせ穏やかな呼吸でほう…と深く息を吐いたケンタウロスの様子に、キョーコの心臓が鼓動音を高く掲げた。
それは、自分が初めてこの湖を見た時と全く同じリアクション。
高鳴る鼓動に比例するように、キョーコの中で興味が大きく膨らんでいく。
……同じ感性を持っている人なのだわ
理由など、それで充分だった。
恋い焦がれた末、旅立ちの時を迎えてようやくたどり着いた美しい湖。
そこで初めて遭遇した異種異性の生き物。
世界を知りたいという欲求が、そう簡単に萎えるはずもない。
蓮が現状を振り切るように頭を振った後、湖面を覗き込んだと同時に歪んだ表情に今度はキョーコの心が切なく疼く。
よく見ると、頑強な身体に似合わずあちこちに傷を負っている。
きめ細やかな肌を流れて行くそれが、ケンタウロスの血である事にキョーコはようやく気付いた。
人魚の存在を他に知らしめることはタブーとされている。けれど。
自分が目的地を目指して旅立ったことも、本来なら許されない行為に分類されるはず。それが人魚の掟に沿った行動であることに、キョーコはある種、矛盾を覚えていた。
心にあった人魚としての戒めと躊躇いは、既に掻き消えて意義を失っている。
静かに湖面へと顔を出し、キョーコははしゃぐ鼓動を必死に抑えた。
見つめる先にいるケンタウロスにただ注視を注いだ。そして…
「 …痛そう… 」
図らずもこぼれ落ちた自分の言葉に弾かれ、正しく自分を見つめた蓮と視線を交わらせたキョーコの視界に飛び込んできたのは、故郷の海を思わせるエメラルドグリーンの瞳。
射られた獲物のように
キョーコはそのまま、蓮に釘付けとなった。
「 ちょっとー?人魚は基本、夜行性なんじゃないの?何でアンタ、起きているのよ!? 」
聞きなれた声が突如キョーコの耳に届き、蓮との出会いを振り返っていた人魚の意識を現実に引き戻した。つむじ風が遠慮なく湖面を揺らす。
水面を漂っていたキョーコの右頬を柔らかな風が撫で上げると、触れられた人魚は優しくしっとりとした笑顔をこぼした。
「 モー子さん。今日はもういいの? 」
おぼろげなつむじ風に視線を投げると、やがて何もなかった空中に、ぷっかりと浮く一人の少女の姿がキョーコの瞳に映し出された。
「 もういいんじゃなくて、もういいやって思って戻って来たの! 」
「 そうなの?今日はどこに行ったの? 」
「 あん?別に、特に面白い事は何も無かったわよ。ただ山肌に積もった雪をかき混ぜてきただけだもの 」
中空に浮いたままなのに、まるで椅子に座っているかのような姿勢で頬杖をついた風の精は、目を半眼にして冷めた表情でキョーコを見下ろした。その頬が心なしか赤く染まって見えるのは、気のせいではないのかもしれない。
「 ところで、私をモー子って呼ぶのやめてくれない? 」
もう何度も言っている事だけど!と早口でまくしたてたカナエが言葉を区切ると、だって初めて聞いた風のうねりが耳元でモーモー泣いていたのが忘れられないんだもん!と指先を口元に押し当てながらキョーコがクスクスと笑う。
その、鈴を転がす様な屈託のない笑い声と、無垢を思わせる穏やかな人魚の笑顔にやんわりと心を和ませる。けれどカナエがそれに騙された事はただの一度もなかった。
すぐに表情を引き締め憂えた感情を瞳に宿す。
一度瞬きをするとカナエは酷くまじめな顔で同じ疑問をキョーコにぶつけた。
「 キョーコ。寝てないの? 」
「 う…ううん。寝られないだけ。…ねえ、カナエはどう思う?どうして蓮、帰っちゃったと思う? 」
「 その場にいたならともかく、私に判るわけないでしょ! 」
「 そっか…そうよね。ごめん、本当に。蓮、どうしちゃったんだろう…? 」
昨夜からずっと、顔を合わせるたびに何度も同じ質問を自分に浴びせかけるキョーコ。そんな人魚を見つめながら、カナエは少なからず後悔の念をかみつぶした。
―――――― 仲良くなったなら、最後まで人魚を見守ってやりな…
脳裏に蘇る慫慂の呪文。
他人に言われるまでもなく、生を受けて初めて得た友人のキョーコを見守る覚悟ぐらいはとうに出来ていた。
漫然と世界に風を渡していた頃は、どこへ身を翻しても心に響く事など一つもなかった。
世界はいつもとても平和で
世界はどこもとても退屈で
世界はどんな時でも自分に無関心だった。
けれどキョーコと出逢って、キョーコと言葉を交わす様になった。
キョーコにせがまれ、見聞きしたそれを口にすると
目をキラキラと輝かせる人魚にいつしか自然と心を許した。
『 最後まで、見守ってやりな… 』
蘇った言葉を振り払うようにブンブンとかぶりを振る。
自分へと放たれた言葉の真意を問う事も出来ず、瞼を伏せ顔を背け、ただ判りました…とだけ告げてキョーコの元へと戻って来た今。
既に後悔が激しく自分の心を押しつぶそうとしているのに、更に追い打ちを掛けるようなことを言わないでほしいと強く思う。
最後とはどういう意味なのか。
答えを知りたいと思うけれど、現実でそれを受け止めたくない。
未来はまだ、何も決まってなどいないのだから。
「 キョーコ…もうこの湖はいいでしょ?あまり時間もない事だし、もう目的地に行かなきゃいけないでしょ?まだ結構移動しなきゃいけないのを判ってる? 」
露わになった胸の前で腕を組み、優雅に尾ひれを操る人魚。
釣りの浮き具のように水の中で縦に浮きながら、変わらずウンウンと唸っていたキョーコは、カナエの言葉で反射的に顔を上げると大きな瞳をふらりと揺らした。
「 うん…そうよね。判ってる。でも、もう少しだけここに居たいの… 」
交わった視線を断ち切り俯き加減で返答したキョーコの言葉にカナエの声が激しく軋んだ。
「 嘘よ!!アンタ、ぜんぜん実感していないでしょう!?どうするのよ!アンタこのままじゃ… 」
「 カナエ!!本当に!判ってはいるの!でも…もう少しだけ…。せめて、どうして蓮が帰っちゃったのか、その理由を教えてもらうまで…。そうしたら私… 」
カナエは言葉を失った。
拳を握りしめ、顔を伏せたキョーコを見下ろす。
反発するように自分へと向けられたキョーコの言葉を反芻すると、言葉に出来ない不安と焦燥感が嵐のように吹きすさんだ。
ケンタウロスと言葉を交わしてからずっと、キョーコはここから動こうとしない。
それが、自分の中でどれほどの後悔を生んでいるのか、キョーコにはきっと伝わらないのだ。
人魚の寿命は、驚くほど短い。
それを回避するため。
延命するために与えられた手段が、17歳の旅立ちだった。
定められた期間に目的地へと辿り着き、事を成して再び海に戻る必要がある。
水の中で生まれ、水の中で死んでいく人魚たち。
死してのち水になる透明な生き物たちは、この世界を支える礎であり、命の起源でもある。恐らくそれが、人魚が育む者と称されるゆえんなのだとカナエは理解していた。
風の精である自分に、命の終わりがあるのかどうかすらカナエ自身も知らない。
仲間に出会った事は無く、カナエはいつも一人で世界を漂っていた。肉体を持たず、形すら持たない。それが風の精である。
種明かしをすれば、いまキョーコが見ているこの姿は光の屈折を利用して作った仮初めの姿に過ぎないのだ。
何が違うというのだろうか?
大地を流れる水と
大気に漂う風と
何が違うのだろうか、と、いつだったか考えたことがあった。
それも、キョーコに出会う前の事。
長く漂っていた間に心に浮かんだ様々な疑問は、けれどそれに答えが下りたことなどただの一度も無かった。
ただ、今はっきりとわかっているのは、このままでは交わした約束など果たされないだろうという事だけ。
人魚は死ぬと水に還る。
在った形が跡形もなく崩れ、そうして世界を循環する無形物に変化して終わる。
そんな未来を、どうして受け入れられようか。
焦りがカナエの言葉を荒げた。憤りが胸の奥を激しく小突く。
この湖にたどり着くまでの間に、予想を超える時間を要してしまったというのに。キョーコの心を支配しているのは、自分の事などではなく、出逢ったばかりのケンタウロスの事だけだった。
「 アンタは儀式をするために海を離れたはずでしょう!?人魚の掟を無視するの!? 」
「 無視なんてしてない!! 」
「 してるわよ!!アンタ、自分の寿命を判ってるの!?このままこの湖にいたって、あんたが望む人間の男なんて来やしないのよ!私と約束したじゃない。自由になったら、一緒に世界を見て回ろうって!! 」
「 判ってる!カナエ、よく判っているの!!だけど、どうしても私… 」
失いたくなかった。
初めて得た言葉を交わせる友人となった人魚を。心を許しそれを通わせてくれるキョーコの事を。
喜ぶ顔が見たくて、いろんな話をキョーコに聞かせた。
なかでも絶景を維持し、滅多に生き物の近寄らない孤高の湖に興味を示したキョーコは、何度もこの湖の話を聞きたいとせがんだ。
17歳に達し、掟に従い人間の男を求め旅立つ日。
この湖を見たいと言ったキョーコの願いを叶えるべく案内を買って出たものの。
飛来する自分とは比べるべくもなく、水の中を移動するキョーコはそれに相応の時間を要した。
結果、自由に動ける時は限られ、本当なら今すぐにでも湖を後にしなければならないというのに。
どうして、心を奪われたりしたの。
自覚していないだけで、あんたの心は既に初めて出逢った異性に大きく傾いてしまっている。
よりにもよって、ケンタウロスなんかに…。
こんな事なら、連れてこなきゃ良かった。
まさかこんな風に足止めを食らうとは予想もしていなかった。
後悔が波のように押し寄せ、焦燥感だけがカナエの心に募っていく。
困惑が先に立ち、何をどういえばキョーコが動いてくれるのかももう判らない。
どうやったら、キョーコを失わずに済むだろう?
思考を閉ざし、未来へと進む道を模索しようと空高く駆け上がる。
太陽の光を全身に浴びて、ピロピロと甲高く鳴き叫ぶ鳥よりも高い位置にカナエが到達したその時。2体のケンタウロスの姿を認めて、驚愕に大きく息を呑んだ。
「 キョーコ!!隠れて!! 」
「 へ?え?あの…どうして? 」
「 いいから!早く水の中に潜りなさい!ケンタウロスがここに来るわ! 」
切羽詰まった風の精の忠告を聞いて、花咲くようにほころんだキョーコのそれでカナエは醜く額にしわを寄せた。
「 キョーコ!!お願いだから早く!隠れて!! 」
「 え?でも、蓮じゃないの?どうして… 」
「 そうだけどもう1体いるのよ!早くっ!! 」
親友の言葉にせかされるまま。困惑しながらもキョーコは湖水に身をひそめた。
さほどの間を置かずに肩で息をしながら現れた蓮の姿に、キョーコが嬉しそうに笑顔を生む。
眩しそうに眼を細め、湧き上がる歓喜が胸の内に溢れているのだろう事は、カナエが問わずとも手に取るように判った。
キョーコから顔を背けたカナエは、現実を拒絶するように痛々しく瞼を閉じた。
―――――― 最後まで、人魚を見守ってやりな…
訳知り顔で
ローブを身に纏った人が自分へと投げた呪文を思い返す。
もし、自分が肉体を持っていたとしたら
ここで涙がこぼれたのかも知れない、とふと思った。
悔やんでもどうしようもないと知っていても、シミのように広がっていく後悔に心が疼く。
カナエの中で戸惑う心だけが、粛々と祈りを捧げていた。
⇒草原の海 ■6 へ続く
うん…本当はね、5話目のサブタイトルは「身震い」のはずだったの。
でもね、書いていったらそこにたどり着かなかったの…![]()
カナエの独白、長いんだもん…。
プロットをせっかく組み直したのに、いずれもう一度、か二度…か場合によっては三度組み直さないといけないかも知れない。
13話で終わらないだろうな…という予感はここから来ています。
【文章注釈】
※慫慂(しょうよう)…他の人が勧めてそうするように仕向ける事。
余計な事かも知れないけど、若いお嬢さんはこんな言葉知らないかな?と思って…。
Please do not redistribute without my permission.無断転載禁止
◇有限実践組・主要リンク◇