■ご訪問有難うございます。一葉です。
こちらは10/19発売の雑誌に掲載されました、スキビACT205の未来妄想小説になります。
内容には、妄想とネタばれが大量に含まれております事をご承知の上、自己責任でお読みください。
よろしくお願いします。
こちらは続き物です。前のお話はこちらから
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ACT205未来妄想■side キョーコ ■Scene11 『 help call 』
敦賀さんの指の熱さに夢中になって
触れ合う肌の温みに酔って
幾度も訪れる優しいキスに翻弄されて
私はこの時、自分が何をしていたのかさえ判らなくなっていた。
「 … ん …ん … 」
敦賀さんのキスが肌に降りるたびに、優しさを抗議する様に私の喉から小さく声が漏れた。
首から肩までを幾度も這う大きな手が、身体と鼓動を一緒にビクリと跳ね上げる。
そのたびにソフトなキスが唇に降りてきて、頬を包まれる感覚が好きだと思った。
静まり返っていたホテルの一室で、今は私の耳に触れるシーツのこすれる音が潮騒のように聞こえる。
その波間から逃げ出そうとするように、私の口から何度も何度もすきま風の様な声が漏れた。
思考を閉ざした私に視界は必要ではなく、あくまでも瞼は閉じたまま。
身体が熱くなる度にシーツの冷たさを心地よく感じて、触れられるごとに乱れていく呼吸が快感を促進させた。
もう何度受けたか判らないキスが、私の心臓の上に降り立つ。
敦賀さんの熱い吐息を吹きかけられると、ゾクリと身体が震える。
乱れた呼吸の隙間から漏れる声は、自分でも聞いたことの無い声音だった。
身体の感覚はとうに麻痺をしていて。
どこに力を入れたらいいのかも良く判らなくなっていて。
意識すら朦朧としている私は、香りの強い花畑に放られた様な独特な世界の中にいるようだった。
だから、意味が判らなかった。
久しぶりに聞こえた、音の意味が。
耳元で内緒話をするように囁かれた、敦賀さんの言葉が。
その中の、たった2文字が ―――― …。
「 …いい … か?セツ 」
小さく届いたその言葉に、私の意識は釘づけになった。
『 ―――― セツ 』
自身の呼吸が甘い声を飲み込む。
失いかけた意識を揺り動かして、なげうっていた思考力がゆったりと働き始める。
徐々に現状を認識し出し、私はそれを確認しようと瞼を押し上げ視界を拡げた。
「 … セツ? 」
ピクンと小さく身体が揺れた。
あれほど上気していた体温は一気に熱を失って、突然クリアになった意識の隣で、私の感情だけが呆然と立ち尽くしていた。
( … 私 …?いま … 何を …? )
身体が小刻みに震えだす。
同時に錆び色に似た赤黒い感情が心の中に滲んでいく。
すぐそばの敦賀さんに気付かれたくなくて、私は静かに顔を背けた。
開け放たれた私の首元に、優しいキスが降りてくる。
ゆっくりと鎖骨までの道を辿る敦賀さんの体熱を感じながら、私は愚かで浅はかな自分の事を、深く抉る様に振り返った。
( いま、何をしていたの、私 … )
セツカとしてここにいる以上、いま目の前に居るのは敦賀さんじゃない。
そして自分は最上キョーコじゃないのに … 。
( そうだ。私、いまセツカだった … )
絶望感で目がくらみ、喉の奥に鋭くとがった言葉が突き刺さる。
ぎゅっと唇をかみしめて、私は怯えるように震える自分の心を一生懸命に宥めすかした。
心情の変化に気付いたのか、カインが動きを止めて顔をあげる。
鼓膜を揺動する聞き心地の良い声は、私に正しい現実を突き付けた。
「 … セツ? 」
そのたった2文字が … 私の心を凍てつかせる。
動かしようの無い現実を、正確に教えてくれるが故に。
甘い囁きに似た、セツカを呼ぶ優しい声。
触れる唇と、カインの重み。
( どうして … 忘れていたの、私 … )
優しい手も
愛しむまなざしも
カインからセツカに向けられたものだったのに!!
『 相手が蓮に惚れる役なら
本気で自分に惚れさせる 』
( 私、流されていたんだ … )
敦賀さんを好きだって気持ちが先行して、セツカを愛しているカインの気持ちを自分で勝手にすり替えて。
敦賀さんの演技に翻弄されて。
芝居の最中だった事すら忘れて。
自分の気持ちにただ流されていた、バカな自分がその時ようやくハッキリと見えた。
己の未熟さを見せつけられて、歯痒さと情けなさが交錯する。
同時に実力の差を叩きつけられて、やるせない気持ちを持て余した。
触れる体温の熱さが、私の心を急速に干上がらせる。
甘い清水が枯れてゆく様を、私は黙って見守った。
でも、ここで逃げる訳にはいかない。
今がどんな状況だろうと、逃げるのだけは嫌だと思った。
何故なら敦賀さんはカインを演じている。
私はそれに応えると約束をしたのだから。
『 いつも どんな時でも
アタシの心が
兄さんと共に 或る 』
ここはカインとセツカの舞台。
演技者として逃げる訳にはいかない。
どんなに心が泣き叫ぼうと、このプライドだけは守りたいと思った。
だって私は誓ったんだから。
敦賀さんへの恋を自覚した日に。
この人を好きだと認めた時に。
ブサイクな自分を鏡で見た日に。
一流の演技者になろうと、私はそう決めたんだから。
なのに …どうして?
何てバカな女なの、キョーコ!
触れられた手の温みに揺れて
身体につけられた所有印の甘さに流されて、
熱くなる身体に翻弄されて、
芝居をしている事を忘れるなんて!!
強く決意したそれを忘れた自分を、固く目をつぶって閉じ込める。
それでも涙がこぼれそうになって、逸らした顔を無理矢理ベッドに押し付けた。
踊るカインの手が私の頬に触れて、優雅に肩まで滑り降りていく。
左耳に熱い吐息が吹きつけられて、ピクリと身体が反応した。
首筋に口付けが贈られると、揺れ動く髪からほのかにタバコの香りがして。
甘やかなリップ音が弾けて、心が締め付けられる。
抑えていた切なさがこみ上げてきて、泣き叫びたい気持ちが溢れそうになった。
( ――――― これが、罰なのかも知れない )
私が敦賀さんに背負わせた恋心は、一体どれだけこの人を苦しめたことだろう。
だからこれが
私が敦賀さんにした事の報いだとしたら、
私は享受するしかない
罰があるなら受けるつもりでいたし、
地獄に落ちる覚悟もあった。
でも ―――――― 。
津波の様な悲しみが、激流となって打ち寄せている。
愚かな自分を叩き殺すように、言葉の刃がこだましていく。
肌を滑る唇はこんなにも温かいのに、自分を満たそうとしているのは嵐にも似た痛哭だった。
熱が … 滑っていく。
自分の想いを取りこぼす様に重みが移動していく。
優しい手も
温かいまなざしも
身に受けているのは私自身だと云うのに
愛されているのは私じゃないなんて!
( …これって、試練なのかな? )
たとえば ・・・ これが ・・・ 本当に ・・・ ?
演技の神様が ・・・ 私の為に 用意した
試練 ・・・・・・・ だとしたら …
―――― ちょっと、酷くない、かな?
これほど残酷なものは、無いんじゃないのかな?
「 …ふ …っ 」
思わず嗚咽が漏れて、急いで両手で口を塞いだ。
更に瞼を力強く閉じて、セツカの行動を振り返る。
―――― どうして、こうなったんだっけ?
そうだ。確か兄さんが怒って…。
理由は全く判らなくて。
質問に答えないセツカに、お仕置きだって言ったんだ。
―――― 質問って何だった?
首 … に、何かある様な言い方だった。
でも本当に覚えが無いし。
―――― だったら …。
だったらそれを、言えば良かったの?
そうしたら、こんな事にはならなかったのかな。
昼間、倒れた時にチクッと感じた気がしたのよって?
そうしたら、倒れた理由を話さなきゃいけなくなって、どうして寝不足になったのかも、言わなきゃいけなくなるんじゃないの?
セツカとは全く関係のない理由を?
( ―――― そんなの、無理でしょ? )
絶対に、言える訳ないじゃない?
だって私は、嫌われたくないんだから。
少しでも長く、敦賀さんのそばに居たいんだから。
「 …っ … ふ … 」
胸の痛みを諌める事も叶わず、涙がとめどなく溢れて来た。
閉じた瞼を押し広げようと、雫が後から後からこぼれ落ちていく。
どうしたら良かったのかなんてもう判らなくて。
ただ心の中で、後悔だけが獣のように泣き叫んでいた。
「 ・・・・・ セツ? 」
甘くいつくしむ優しい声。
私の涙を手で受け止めて、当たり前のように頬を包む。
涙で霞んだ視界の向こうに、心配そうに私を見下ろす敦賀さんがいた。
「 どうした? 」
( やめて!そんな声、聞きたくない!!)
反射的に耳を塞いで固く目を閉じる。
言葉に出来ない切なさだけが、涙となって生まれては消えていく儚い旅路を急ぐ。
想いはぐちゃぐちゃに混ざり合って、心に打ち寄せる激流に似たこの感情を、どう処理したらいいのかも判らなくなった。
( そう … だ。どうして、気付かなかったの、私 … )
ダークムーンの嘉月の演技で、美月を想う顔を何度も見た。
一片の曇りも無い神々スマイルは、熱狂的な嘉月ブームを巻き起こす程だったのに。
だけど、今日の敦賀さんは全然違った。
あの時の何倍も愛情に満ちた瞳で、
優しく、愛しくセツカを見つめた ―――― 。
( 育って、いたんだ・・・・・・・・ )
あの頃の敦賀さんの心にあった気持ちは、
恋の初期症状程度の淡い恋心だったはず。
なのに
時間が過ぎるごとに、きっと気持ちが加速していって
敦賀さんの中であの時の恋心が ――――
( あんなに甘い表情をさせる程に、大きく育っていたんだ!)
嫌だ!
そんなところ、絶対に見たくなかったのに!!
あなたが誰かを愛する所も
あなたが誰かに優しくする所も
たとえそれがお芝居だと判っていても
見たくなかった
聞きたくなかった
敦賀さんが誰かとつむぐ幸せなんて
そんな未来予想図すら
私は知りたくなかったのに!!
幾多もの思い出が跳ね火となって、苛烈な嫉妬心が牙をむく。
清水を失って乾いた心に、龍にも似た荒々しい狂熱が舞い上がる。
まるでそれらに煽られたように、盛った激情が私の心を支配した。
いつか・・・
いつかきっと、敦賀さんは手に入れてしまう。
深い悲しみを克服して、自分自身を許せた時に …。
この世で一番大切な人を、この人は簡単に手に入れてしまう。
だって、あなたを好きにならない女性がこの世に居る訳ないのだから。
あなたに求められてNOと答える女性が、この世に居る訳ないのだから。
泣きじゃくる私の頬に触れて、優しい手が何度も私を包む。
与えられた温もりに応えて瞼をこじ開けると、苦しそうに私を見下ろす敦賀さんの顔があった。
( 困らせてる … )
怒気はとうに消え失せていて、穏やかな光に満ちた瞳になっている。
ただ困った様に表情を曇らせて、泣きじゃくる私の事をじっと見ていた。
( ごめん … なさい … )
堰を切った様に流れ落ちる涙を、私は止める術を持っていなくて。
それでも今、あなたはカインだから、私はセツカとして居なきゃいけないのに。
( そんな事は判ってる )
十分に判ってる。
なのに …
「 セツ。いま正直に言えば赦してやるぞ? 」
―――――― なのに神様の試練はどこまでも横暴で、暴虐に私をふるいにかける。
「 … や …、絶対に言いたくないっ!! 」
口から滑り出た自分の言葉を、私はすぐに後悔した。
感情にまかせて泣き叫んだ台詞は、まさしく自分の気持ちそのままだった。
( どう … しよう。病的兄さんっ子のセツカが口にするセリフじゃない!)
鎮火していたカインの怒りが、一気に焔をあげた気がした。
すぐそばにいた敦賀さんの身体が、陽炎のように揺らめきながら静かに離れてゆく。
身体を起こしてひざから立ち上がり、私の上腿部の上で立ちはだかり、冷めた視線を私に落として、長い左手を私の腹部に押し当てた。
( ・・・・・・?)
動きを止めたカインの意図を見通す事は出来なかった。
彼の視線を追いかけて、自分の腹部に視線を移す。
そのとき私は始めて自分が着ている服に、全く見覚えが無い事に気が付いた。
胸の奥で危険信号が激しく点滅している。
冷たい表情のカインを見上げて、その瞳に映るオレンジの光が怒りの猛火のように見えた。
獣が獲物を捕えようと、カインの視線がゆっくりと起き上がる。
彼と目が合った瞬間、背骨を軋ませる恐怖心が私の身体を突き動かした。
「 ・・・・・・・っ!! 」
身体を翻して腕がベッドを弾き、素早く下半身を奪い返して足が床を目指した。
ベッドから逃げ出せると思った刹那、俊敏に伸びてきた強引な腕にからめ捕られ、壊されるおもちゃの様にベッドの中央に投げ落とされる。
心臓の鼓動が、畏憚を訴えていた。
私の身体をいとも容易く仰向けにさせて、彼の体重を枷に私の自由を奪い去る。
これほど、敦賀さんを怖いと思った事はなくて。
身体はカタカタと震え出し、歯がかみ合わない程の戦慄を覚え始めていた。
私を見下ろしながら、彼の右手が静かに後ろに反りかえる。行動の目的が判らなくて、心は戸惑うばかりだった。
( … 何 … なの? )
思惑を持ったカインの右手がゆっくりと目的地を目指している。
震戦する私の脚をその手が冷たく掴んだ瞬間、暴虐なもう一つの現実が私の全身を貫いた。
嘘っ!?私、もしかして
( ―――― 下着を付けていない? )
何度も顔を横に振って、言葉にならない声を叫んだ。
力では敵わない現実を前に、心はとうに竦んでいた。
破裂しそうな心に変わって、止まった涙が川の様に流れ出す。
これでもかと現れる地獄を前に、記憶の扉が開かれた。
「 … やっ!! 」
敦賀さんが教えてくれた 役者の心の法則
あれは、役者の心を 守るためにあるものでしょう?
なのに 今の私には
自分を切り裂く 鋭い刃にしか思えない
好きな人にキスをされても カウントされず
自分の想いは 押し殺したままで
見たくない 未来予想図を見せつけられて
泣き叫ぶ心が 千に裂かれそうなこの状態で
―――― カインの怒りを受け止めろというの?
報いなら享受するつもりでいた
罰なら受ける覚悟があった
でも
でもこの苦報は
あまりにも無慈悲すぎると思う ――――
地獄への招待状を持ったカインの手が、暴れる私の脚を抑えつける。
彼がいま何をしようとしているのか、もう本能で悟っていた。
甘く優しく私に触れた手は、もうどこにもなくて。
冷酷な死神の手が、私に一番厳しい罰を与えようとしていた。
「 … や … だ … 」
しゃくりあげる呼吸が思考力を奪う。
冷たすぎる現実を前に、頭の中は真っ白になろうとしていた。
いま最上キョーコに戻る事は 役を棄てると云う事
役者のプライドよりも、愚かな自分の心を守ろうとする事
この選択をする自分を、心の底から憎らしいと思う
それでも ―――― …
『 目を背けるな!君は一流の役者になりたいんだろう!』
ごめんなさい
もう限界です
許してもらいたいなんて、もう思ってない
軽蔑されても仕方がない
あなたが帰れと云うなら、帰るから
どうか 今だけ
一度だけでいいから
泣き叫ぶ私の心を ―――― 助けて下さい。
「 いやぁぁぁー!―――― 蓮!!…蓮!! 」
叫んだ自分の声を聞いて、私はどこまでバカなんだろうと思った。
えーっと。あなたの心のモヤモヤは、Scene12でちゃんと解決されます。たぶん…![]()
あ、ついでに、実は今Scene13のキョコの番を先に書いていまして…。
キョコと蓮の心の切り替えが大変なんです…。未熟だから。
なのでScene12のアップは若干遅くなるかもです。
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◇有限実践組・主要リンク◇