母が他界する一ヶ月前、業者さんに庭と家の中の不用品を片付けていただいた。
見積もりに来て下さった方も、片付けに来てくださった方も、若くて感じがよくて、そこそこイケメンだった。
母は、明らかにご機嫌だった。
母が他界する二週間前、車で消防署に行き、指輪を切断していただいた。
事前に電話して、予約すると、消防士さんが二人、駐車場で待っていてくださった。
指輪は、海上自衛隊の整備士だった父がグアムで米軍機の整備をしたときの土産で、かまぼこ型の太いもの。
糸を巻いてもなかなか外れなくて、器具を使って切断しようにも時間がかかり、通りかかった消防士さんも加わり、五人がかりでやっと外れた。
皆さん、若くてイケメンで優しいので、母は、「指輪を切るところを初めて見るから、すごく面白いわ」とご機嫌だった。
母と私が二人で出かけたのは、この日が最後になった。
消防士さんが駐車場まで来て、車に乗った母に手を振って見送ってくださった。
母も満面の笑みで手を振り、イケメンとの交流が冥土の土産になった。
その消防署の前を通るたび、母の笑顔を想い出す。
訪問で来てくださるお医者様も、豆腐の移動販売の方も、何かと食べ物を持ってきて下さるご近所さんも、すべからくイケメンだった。
他界する前、一ヶ月の間に次々にイケメンに遭遇したのだから、母は男運があったに違いない。
