◆山田憲次郎(明治22年〜昭和46年)号 「其隣」。
最後の文人愛石家といわれたその其隣翁の遺愛石をご紹介します。

翁は「私の石は人にお見せするものではなく、私ひとりの楽しみとして集めたものである」と仰せであるが、その蔵石は10㎝前後のものが殆どで、日常座右に置いて愛玩する小品ばかりであった。
共箱の蓋には其隣翁自筆の産地名と銘

加茂川石 銘「灯台」 高さ8㎝。

特に形姿に見処も無い、どこの川原にでも在るような黒い石ですが、近頃では見かけなくなった加茂川真黒石。京の黒楽焼の釉薬にも利用されるこの石種、「烏の濡れ羽色」と称される貴重な石種です。

共箱蓋の裏書き

「その昔、紀文を助けた事もある。」の自作の一句も添えられている。

昭和45年(1970年)6月、其隣翁の賀寿を祝うため、翁を慕う多くの愛石家の協力により「山田其隣翁賀寿石展」が開催されました。その個展22石のうちの一石がこの加茂川石です。賀寿石展の翌年に其隣翁ご逝去され、翁の蔵石も夫々引き取られたりし散逸しましたが、この石を含む3石は当時の愛石クラブ初代会長・春成渓水氏から女流愛石家の土手伸子女史を経て、本年7月より自分がお預かりしています。賀寿石展から今年で丁度50年、現在「愛石クラブ」の第4代目の世話係を務める自分のもとに、この由緒ある石をお迎え出来たのも「ご縁」が有ったからこそと感謝しています。合掌