2022年9月7日:パート2

 地上1万メートルからのブログ。シカゴまでは、あと約3時間。アクションものの最新洋画(どう見ても駄作)を見ながらウトウトしていたが、本格的に寝るのはやめた。ここで眠ってしまうと、米国に到着した後の「時差」が悪化してしまうからだ。

 眠い目をこすりながら、ブログの続編を書くことにする。

 フィンランドのサウナ協会が創設されたのは1937年。その協会が経営する郊外のサウナハウスで、リトバ•オメロルオマ副会長と会った。サウナ文化をユネスコの無形文化遺産に登録する運動を担当した人物だ。

 リトバ副会長からは、サウナの歴史や文化、登録運動の内容や進め方、最も苦労した点などについて、詳細な説明があった。こちらの質問にも、丁寧に応じてくれた。(感謝)

 残念だったのは、6つの異なるサウナを持つ協会の施設を見学する時間が十分に取れなかったことだ。スモークサウナには、ぜひ入ってみたかったなあ。

 さて、前回のブログで、今回のフィンランド訪問の最大のハイライトは、ホンコネン科学•文化大臣との会談だったと書いた。ホンコネン大臣は35歳。歴史学の修士号を持ち、歴史と教育に関心が高い。日本食が大好きだというハンサムな政治家だった。

 このひと、本当に忙しかったようだ。藤村大使のサポートで何とか時間は作ってもらったものの、「10分以上は難しい」とのことだった。恐らく、「会談の冒頭だけ顔を出し、後は同席する美術•文化政策局長に任せる」つもりだったのだろう。

 が、群馬県側にとって、知事と文化政策を担当する大臣との会談は、とても重要だった。何とか、知事と科学•文化担当相との個人的な関係を築く第一歩にしたいと思っていたからだ。

 県の担当課が作成した資料には、「会談時間は10分。通訳を入れると(実質で)5分間」と記してあった。が、5分間では、こちらが伝えたいと思っている最低限のポイントすら織り込めない。そうでしょう?!

 少なくとも、知事の経歴や特徴に加え、「ユネスコ無形文化遺産登録を実現するための最大のポイント」や「群馬県との連携の可能性」くらいは、何とか言及したいと考えていた。

 会談の前に、頭の中で様々なシナリオを検討してみた。その結果、次の方法(離れ業?)しかないという結論に達した。

 それは、「大臣との会談に関しては通訳を介さず、英語でやらせてもらう。しかも、こちらが喋るスピードは1.5倍速にする。加えて、同席する県職員がメモを取れるように、自分がその場で通訳もやる!」という秘策だ。「かなり無理がある(笑)」ことは分かっていたが、やるしかないと心を決めた。

 会議室で待っていると、ホンコネン大臣が到着。部屋の入り口で記念品を手渡し、そのまま写真撮影。35歳の若い閣僚は、気さくに応じてくれた。大臣が席に着いた瞬間に、早口の英語で、こう切り出した。

 「大臣、今日はお忙しい中、時間を作っていただき、本当にありがとうございます。フィンランド語の通訳も来てもらっていますが、今回は私の不完全な英語でやらせていただくことをお許しください。」

 ひと息ついて、こう続けた。「何しろ、10分しか時間がないとのことなので、日英の通訳も、私が同時にやるつもりです。」

 英語でそう話した直後に、日本語で同じ意味のことを(英語以上の早口で)繰り返した。ホンコネン大臣は、驚いたような表情で(目をパチクリさせながら)頷いていた。というか、こちらの言葉の勢いに、圧倒されている感じだった。

 そこまで喋った瞬間に、隣に座っていた宇留賀副知事が、「いや、知事、それだとあまりに知事が大変なので、英語から日本語の通訳は、私が引き受けます!」と合いの手を入れた。

 ここらへんの反応の速さが、いかにも宇留賀さんらしい。(感謝)しかも、知事が集中して喋れるように、ポイントだけを要約して伝えていた。「さすがだな」と思った。

 そこからは、完全に英語の会談になった。さすがに悪いと思ったのか、ホンコネン大臣のモードが変わった。事前に準備してあった発言の資料に目を通しつつ、1つ1つの質問に丁寧に回答してくれた。時々、同席していた政府の担当者にも発言を求めた。

 終始、和やかな雰囲気だった。気がつくと30分が経過していた。知事になる前、第2次安倍内閣で科学•技術担当大臣を務めていたことを伝えると、余計に親近感が生まれたようだ。「あなたのような人と意見交換をするのは、とても意義深い」と言ってくれた。

 「フィンランドのサウナ文化と日本の温泉文化には、共通点が多い。心と身体を癒すことが目的であるとか、自然との繋がりを大事にするとか、そうした点も似ている。」

 「群馬県とフィンランドの連携も考えたい。ぜひ一度、群馬県を訪問して欲しい!」と伝えることも忘れなかった。30代の青年大臣は、「藤村大使にも日本への訪問を薦められている。機会があれば(群馬に行くことも)検討したい」と話していた。

 この言葉を受けて、「日本は今、サウナがブームになっている。自分も最近、自宅に小さなサウナを設置した。対して、大臣も日本食や日本文化が好きだと言う。どう考えても、日本の群馬県に来ることは、あなたの運命だ」と言うと、ホンコネン大臣は、声を上げて笑っていた。(なぜかフィンランド側にウケていた???)

 会談が始まって30分が経過したところで、大臣がすまなさそうな顔で、こう言った。

 「山本知事、申し訳ないが、次の日程があるので失礼する。局長を含む担当者たちはまだいられるので、必要なら意見交換を続けてください!」

 すかさず、「いや、私も政治家ですから、お立場はよく分かります。お忙しいところ、本当にありがとうございました!」と応じた。ちなみに、この日、大臣に同席した局長を含む政府関係者4名は、全員が女性だった。

 上述したホンコネン科学•文化相との会談の中に、(細かい解説はしないが)フィンランドという国の本質が凝縮されている気がする。その意味でも、貴重な体験だった。

 あ、たった今、機内スタッフの女性から、「2度目の食事が出るけど、食べますか?!」と聞かれた。食事の代わりに、温かいミルクティーをもらうことにする。

 この続きは、次回のブログで。

追伸:フィンランド滞在中には、コロナや癌の探知犬に関するヘルシンキ大学の最新の研究や、市内に設置された2つの核シェルター施設も視察した。どちらも、知事として「見ておくべき場所だ」と強く感じた。

 特に核シェルターの施設は圧巻だった。視察の状況は、どこかで改めて紹介する。

追伸:気がつくと、数日前からメールが受信出来ない状態になっている。当然、出張中に撮った写真も、ブログに掲載することが出来ない!!まいったなあ。(ため息)