2020年5月11日:パート3

 21時過ぎ。高崎の自宅にいる。少し前に遅めの夕食を済ませた。食後のミルクティーをゆっくり味わいながら、本日3本目のブログを書く。

 18時からの知事の臨時記者会見で、経済・社会活動再開に関する県独自の「基準案」(=ガイドラインの原案)を発表した。今後、政府の専門家会議の見解も踏まえて(?)作成・発表される国の基準の内容も踏まえ、(必要があれば)加筆、修正する。その上で、群馬の独自モデルを完成させる方針だ。

 この会見で、ある記者が伊勢崎の有料老人ホームについて記した5月9日の知事のブログを取り上げた。質問の中身には触れない。が、この老人ホームの入居者の方々、この施設に勤務するスタッフの皆さんを批判する意図は微塵もない。ちゃんと読んでもらえれば分かるはずだ。これ以上は何も言わない。

 さて、会見の冒頭、ガイドライン案の説明をする前に、新型コロナウイルス対策に関する知事の4つの基本姿勢(基本哲学)を、丁寧に解説した。全て自分自身の言葉だ。そのまま掲載する。

 「ガイドライン(基準)の原案をご説明する前に、新型コロナウイルス感染症対策に関する知事の4つの基本姿勢(=4つの哲学)をお話ししたいと思います。

 基本姿勢の第1です。この未曾有の危機を乗り越えていくためには、県民一人一人のご理解とご協力が不可欠だということです。 逆に言うと、県民が心を合わせて努力すれば、どんな難局も乗り越えていけるということです。そのためには、県民の皆さんと出来るだけ多くの正確な情報を共有することが極めて重要だと考えています。

 緊急事態宣言が群馬県を含む全国に拡大される中、県知事として、大型連休前に、県民の皆様に対して、(法律に基づく)外出自粛や休業の要請を行わせていただきました。現在もその措置を継続しています。

 この間、県民の皆様に、大変なご不便とご負担をおかけしていることを、本当に申し訳なく思っています。にもかかわらず、皆様には、知事の真意をご理解いただき、(苦しい中でも)ご協力をいただいていることに、改めて心から感謝申し上げます。
 
 群馬県の現状について言うと、県内の一部、具体的には伊勢崎市内の有料老人ホームで、大規模なクラスター(集団感染)が発生したために、陽性者数や死亡者数は多くなっています。が、ここのところ、全体としては、落ち着いた状況が続いています。他県と比較して遜色のないレベルに抑えられていると言っていいと思 います。

 これは、県民の皆さんのご協力があったからに他なりません。 知事として、重ねて、心からお礼を申し上げます。この場をお借りして、最もリスクの高い現場で献身的に頑張っていただいている医療従事者の方々にも、敬意と感謝の意を表させていただきま す。

 基本姿勢の第2です。そうは言っても、政府による非常事態宣言解除を含む緩和の判断は「慎重になされるべきだ」というのが 私の考え方です。皆さんもご存知の通り、政府は、今週14日にも、専門家会議の判断を踏まえ、複数の都道府県を宣言対象地域から外す方針であると明言しています。もちろん、群馬県も対象外となる可能性があることは言うまでもありません。

 しかしながら、群馬県が14日の時点で緊急事態宣言地域から外されてしまうことに、少なからぬ懸念を抱いています。なぜ、 知事として慎重な対応が必要だと感じているのか? その理由は 次の5つです。

 1つ目の理由は、群馬県が(いろいろな意味で)東京都に近いことです。最も影響を受ける東京での感染が収束していない状況の中での解除は、県内での感染リクスを高めることに繋がります。

 2つ目の理由は、新型コロナウイルスの正体が解明されていない部分があることです。例えば、新型コロナの感染力が当初の予想より強いことが分かったり、無症状の陽性者は他人にうつしにくいと思われていたのに、実は感染させやすいという研究データが公表されたりしています。免疫が形成されても長くは続かない説が浮上したり、太陽の紫外線に弱いらしいとか、次々に新しい事実が判明しつつあります。まだ症例は少ないものの、米国内の子どもたちが新たな症状で亡くなるケースが出ていることにも、注意が必要です。

 『見えない敵』の正体が完全に分からない状況の中で、知事として最初に頭に浮かぶのは、県民を守るための知見を集めたいということです。もっと分かりやすく言うと、『こういう環境なら 大丈夫だ』『この対策を打っておけば感染の可能性は低い』というような経験則を積み上げたいということです。そのためのルー ルを整備したり、周知徹底したりする時間が欲しいという気持ちが日々、強まっています。

 3つ目の理由は、今回の感染がいったん収束したとしても、第2波、第3波の感染が発生する可能性を頭に置いておかねばならないということです。米国では、かなり多くの州で、経済活動に対する制限措置の部分的解除が始まっています。しかしながら、 CDC(米国疾病予防管理センター )の示した基準を守らずに 経済活動を再開した州が多いことに、警鐘を鳴らす専門家もいます。

 最近、新たなクラスターが発生した韓国や、厳しいルールのもとで経済活動は再開したものの、あらかじめ「何かあれば再び制限措置を戻す」と明言しているドイツの例もよく見ておくことが大事だと思います。

 4つ目の理由は、再び感染拡大が起こった際に、いつでも警戒度を上げられる体制を作っておく必要があるということです。緊急事態宣言の解除は、法律に基づく要請や、土地や施設の収容が出来なくなることを意味します。

 5つ目の理由は、群馬県が早々と解除の対象となった場合、県内の緊張が一気に緩んでしまう危険性があることです。例えば十分な基準が整備されていない業界からも、『同じように解除されたあの県もやっているんだから、群馬も同じように緩和すべきだ』 という声が沸き起こることを心配しています。急いで緩和した(=油断した)途端に、抑えられていた感染が再拡大する。このシナリオは、出来る限り回避しなければなりません。

 たとえ、経済活動の再開に積極的な他の都道府県に比べて、群馬県の始動が少し遅れたとしても、将来の第2波、第3波の襲来に耐え得る態勢の整備を優先すべきだと感じています。

 仮にこのまま感染が収束するというベストシナリオが実現したとします。 その時は、『山本知事が慎重過ぎたために、早く経済活動を戻した他県に比べて、このくらいの経済損失が出た。どうしてくれるんだ』と叱られるかもしれません。そういった批判は、甘んじて受けるつもりです。それでも、『経済活動の再開を急ぎ過ぎて、 新たな集団感染を誘発してしまう事態』を招くよりは、何倍もいいと考えています。

 基本姿勢に戻ります 。 基本姿勢の第3は、この段階で、PCR 検査の目的や定義を変える必要があるということです。先般、政府がPCR検査の基準を見直し、検査数を増加させるための明確な方針を打ち出しました。

 これまでPCR検査を実施する目的は、 感染者の数や流行の状況を正確に把握することでした。そこに、 社会の安心感を醸成するという側面も加えるべきだと思います。 米国や欧州諸国も、経済・社会活動再開のプロセスの中で、PCR検査拡充の必要性を強調しています。そうでなければ、国民の理解が得られないからです。

 基本姿勢の第4です。経済・社会活動の再開にあたっては、いわゆる「3密」を避ける等の十分な感染防止策の有無が極めて重要になるということです。休業要請を緩和する条件として、(県としての指針を示しつつ)各団体、業界ごとにガイドラインを作成してもらうことをお願いしようと思っています。同時に、事業者の方々に対して、新しい生活様式に沿った取り組みの徹底も求めていくつもりです。

 以上、新型コロナ対策に関する知事の4つの基本姿勢を述べて来ました。こうした基本姿勢を踏まえ、この後、西村経済再生担当大臣に対して、「群馬県の14日の緊急事態解除は見送って欲しい」とお願いするつもりです。

 念のために言っておきますが、 群馬県が引き続き緊急事態宣言の対象地域になったとしても、知事の判断で経済・社会活動再開のための様々な緩和措置を実施することには、何の支障もありません。要するに、今、緊急事態宣言の下で知事に与えられた「法律に基づいた要請」という最後の手段を、 いざというときに迅速に行使出来なくなることを心配しているのです。

 県民の皆さん、事業者の皆さん、ぜひ誤解しないでいただきたいことがあります。私自身も、『県内の経済、社会活動を一刻も 早く元に戻したい』と強く願っています。が、諸外国の状況や専門家の意見を総合すると、新型コロナウイルスに対しては、未だ不明な点が多くあります。加えて言うと、今回のようなパンデミック(感染症の世界的流行)は、これからも繰り返し起こる可能性があります。

 つまり、日本国内も、感染拡大を抑えるための規制の強化と解除が、何度も繰り返される状況に陥るかもしれません。新型コロナウイルスを根絶することが難しい以上、私たちは、その『厄介なシナリオ』を、今から覚悟しておく必要があると思います。

 こうした事態も想定しつつ、長期的な視野に立って、今後の対応を考えていかなければなりません。ここは腹を据えて、感染再発のリスクを減らすための体制を、少しでも固めておきたいと考 えています。

 そのために、もう少し時間をいただきたいのです。 引き続き、県庁一丸となって、県民の皆さんの命を守り、地元経済を支えるためのあらゆる対策を打っていくつもりです。どうか、 更なるご理解とご協力を切にお願いします。」

 次回のブログでは、臨時会見での群馬県のガイドライン案の説明の中身を掲載する。