2015年4月26日~5月2日:パート4

<ワシントンDC編:No.3>

 安倍総理の米国上下両院合同会議での英語の演説は(抑揚とメリハリがあって)とても分かりやすかったと思う。 政治家・山本一太も一応、米国ジョージタウン大学の大学院(MSFS)を修了し、ニューヨークの国連開発計画で3年近く勤務した経験がある。 それでも、自分は、40分間も英語であんなふうにはとても喋れない。 総理の集中力には脱帽だ。

 総理の英語の発音は(山本一太よりずっと上手だが)、いわゆるネイティブスピーカーとは違う。 でも、あそこにいた米国議員全員に伝わった。 そこが最も重要なポイントだ。 総理の英語にケチをつけるひとがいるとすれば、当然、英語の達人(ほぼバイリンガル)に違いない。 が、完璧な英語を使う自分の複数の友人たちも、「素晴らしい演説だった」と評価してくれた。 彼らは見え透いたお世辞なんて言わない。 

 だいいち、演説の真髄は「パッション」と「魂」だ。 まともな政治家なら、皆、そのことが分かっている。 あそこでどんなに流暢な英語を話したからと言って、どんなに正確な発音で喋ったからと言って、それはあくまで技術の問題だ。 それだけで聴衆の心を揺さぶることは出来ない。

 総理の言葉には「魂」があった。 目の肥えたうるさ型の米国国会議員の気持ちを鷲掴みにする何かがあった。 そうじゃなかったら、あんなに何度も拍手喝采が起こるわけがない。 あの下院の本会議場で総理の演説を目撃した日本の国会議員は全員、「日本の政治家であること」を誇らしく思ったはずだ。

 議会演説終了後に行われた下院議長主催のレセプションでも、安倍総理は大人気だった。 演説を聴いていた上下両院の議員から、ひっきりなしに握手を求められていた。 並んで写真を撮る若い下院議員もいた。 それだけ総理のスピーチにインパクトがあったということだ。

 ワシントンDCは言わずと知れた政治の街。 では、西海岸の人々に総理の演説はどう映ったのだろうか? スタンフォードで夕食を共にしたシリコンバレーのベンチャー企業CEOが率直な感想を語ってくれた。

「日本の総理の演説は、自国に対するプライドを示すと同時に、謙虚さもあった。とてもバランスのとれた内容だったと思うよ!」

 ちなみに、今回の安倍総理の米国上下両院合同会議での演説に関して、ほとんど言及されていないことがある。 それは、日本の総理として初となる米国議会での演説のお膳立てをし、あの議場に多くの米国議員を集めるために奔走した外務省(特に米国日本大使館)の水面下での涙ぐましい努力だ。
 
 佐々江駐米日本大使から、具体的なことは何も聞いていない。 が、あの歴史的な演説をセットするために、(外務本省も巻き込んで)民主、共和両党の有力政治家に地道な説明を繰り返していたに違いない。 いや、日頃から信頼関係構築の努力を積み重ねていたはずだ。 そりゃあ、そうだろう。 仮に有力議員が一人でも反対していたら、両院合同会議の開催はおぼつかなくなる。 

 いずれにせよ、あの総理演説を成功させるために、外務省、とりわけ佐々江駐米大使と米国大使館スタッフが縁の下でどれほどの汗をかいたか。 そのことは、与党の政治家として忘れてはいけないと思う。 皆さん、本当にお疲れ様でした。

 以上、述べてきたように、総理の議会演説は(あらゆる意味で)大成功だった。 それは疑いのない事実だ。 それでも、役人が恐らく総理に報告していない(当然、マスコミにも報道されていない)こともある。 それは、総理と2人だけで会った時に(こっそり)伝えることにしよう。(笑)

 夕方からは、笹川平和財団主催シンポジウムでの挨拶、全米商工会議所との懇談と続いた。 夜は総理夫妻主催による日米関係者を集めたガラディナー。 会場となったスミソニアン博物館(フリーアー&サックラー美術館)の中庭は、とても綺麗だった。 

 スピーチに立った総理が、日米関係の歴史を振り返る中で、メジャーリーグにおける日本人選手の活躍に言及した。 それを聞いて思い出した。 9年前の公式訪問の際の首脳会談(?)で、野球好きのブッシュ大統領が小泉首相に野茂英雄投手の話をしたことを。 スポーツの力は偉大だ。 あれから、(多くの日本人にとって)米国がぐっと身近になった気がするもの。 

追伸:ボストンのハーバード大学(ケネディ・スクール)で、キャロライン・ケネディー大使が挨拶した。 安倍総理を「今、世界で最も注目されているリーダーの一人」と紹介した。

 米国政府が公式訪問した安倍首相をこれだけ厚遇した理由の一つは、安倍総理の経済政策や対米政策、強いリーダーシップ(政権の安定度)を高く評価しているからだ。 そのことは間違いない。 が、今回、オバマ政権が日米同盟の絆を強めようとした背景には、様々な事情がある。

 9年前と比べて、米国のグローバルな指導力は明らかに低下している。 新興国、とりわけ中国の台頭で国際社会の構図自体も変わりつつある。 AIIB設立問題は象徴的だ。 こうした流れを受け、米国側にも日本との関係強化をアピールしたい思惑があったのだと思う。 外交における冷静かつ複眼的な視点は、常に重要だ。

 あ、もうこんな時間(午前3時)か。 腹筋と背筋をやって寝る。 次回のブログ<訪米報告:サンフランシスコ編>に続く。 


◇山本一太オリジナル曲:
「素顔のエンジェル」
「マルガリータ」
「かいかくの詩」
「一衣帯水」
「エイシア」