2012年4月19日:パート3

 先週の毎日新聞のインタビューは、4月17日の毎日新聞夕刊2面の「特集ワイド:参院なんて要らない?」で使われていた。 顔写真入りで発言が取り上げられたのは、自分を含む4人の現職参院議員と1人の元職。 片山虎之介氏、林芳正氏、櫻井充氏、村上正邦氏だ。 なかなか面白い。 記事の全文(写真はないが)は、以下のとおり。

特集ワイド:参院なんて要らない?
2012.04.17 東京夕刊 2頁 総合面

 橋下徹大阪市長率いる大阪維新の会が掲げた衆院選の政権公約「維新八策」のたたき台に、「参議院の廃止を視野に入れた抜本改革」が盛り込まれた。ねじれ国会による「決められない政治」が目に余る今、「参院なんて要らない」という主張が勢いづいている。憲法改正というハードルが存在するとはいえ、当事者のセンセイ方、言われっぱなしでよろしいのですか?【瀬尾忠義】

 ◇社会が一つの方向に流れがちな中…いまや政局の府プライドなし
 「参院を廃止すべきか? いや、なくすというなら衆院の方じゃないですか」
 開口一番、そう語るのはたちあがれ日本の片山虎之助・参院幹事長=写真=だ。もちろん「衆院廃止」はジョークだが、強固な「2院制維持」の立場は、近年の“劣勢”にもかかわらず揺るぎはない。
 「スピードの時代なんて言われるけど、衆院で出した結論をもう一度検証し、決定に誤りなきを期するための制度は必要です。『再議』や『熟議』と言い換えてもいい。米英など世界の主要国が2院制を採用しているのも、そのためなんだから」
 1946年の日本国憲法発布とともに発足した参院。47年の第1回参院選では政党に属さない「緑風会」が第1会派になり、政局とは一線を画し、独自の立場から衆院の行き過ぎを抑制する「良識の府」として存在感を示してきた。予算、条約の議決や首相の指名は憲法の規定で衆院の優越が認められているものの、議員任期が6年(3年ごとに半数改選)と長く、解散がないことなども「熟議」への期待の表れと言ってよかろう。
 ところが実態はどうか。衆院の議決を追認する「カーボンコピー(複写)」と皮肉られ、2007年参院選で民主党が大勝、ねじれ国会が生じてからというものは、衆院を通過した法案が参院で否決されるという事態が相次いだ。今や民主党政権下の参院を自民党など野党が支配し、予算関連法案をはじめ国民の生活に直結する問題までが、政争の具にされているありさま。そこに飛び出したのが、維新の会の「参院廃止論」だった。
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 ならば、いまや参院第1党、一川保夫防衛相と山岡賢次国家公安委員長(ともに当時)への問責決議などで民主に揺さぶりをかけた自民の「当事者」たちはどうか。
 鋭い追及とテレビ出演の多さから参院の「顔」の一人となっている山本一太議員。かつては1院制をベターと考えていた。だが、自ら奔走し衆院と同じ審議時間の確保に成功したり、原発など慎重な審議が必要な問題に直面したりした体験から、現在は2院制支持者だ。「外交、安全保障、社会保障といった長期的テーマに6年の任期を使ってじっくり取り組める」と、参院の「存在意義」を語る。
 解散がなく、緊張感に欠けるとの指摘には「僕は身分が保障されているなんて思っていない。解散があろうがなかろうが、一人で選挙を勝ち抜く気概がないと議員なんてできませんよ」。そして、こう言い切った。「参院はマイナーリーグとみられているけれど、そんなことはない。緊張感のある審議を続けていくなど見せ場をつくって変えていきます。支持者から『衆院へのくら替え』を勧められますが、これからも参院でやっていくつもりです」
 自民の若手のホープで、総裁選への意欲を公言している林芳正議員は「参院廃止論には危うい感じがしますね」と切り出した。最近、中曽根康弘元首相が話した言葉が強く印象に残っている。<以前の社会は絆が強く、粘土のような状態で、傾けても崩れなかった。今は砂になっている。傾けたらざっと一方に進んでしまうよ>——。
 自民が圧勝した05年の総選挙や、民主が約300議席を取り政権交代を実現した09年の総選挙を思い出すまでもない。衆院に導入された「小選挙区」という“劇薬”の中和剤としても、参院は位置付けられるかもしれない。
 林議員は言う。「社会が一つの方向へと流れがちな中で、議論を丁寧に進めるという参院の役割は、一層大きくなっています」
 ここで、かつて「参院のドン」の称号をほしいままにした村上正邦・元自民党参院議員会長=写真=に登場してもらおう。「小泉(純一郎元首相の)郵政改革の際、参院は法案を否決したが衆院は解散され、参院は『ノー』と立ち上がらなかった。あの時、参院は死んだ。いまや政局の府になってしまったし、衆院と同じことをやっている。現状のままなら、ないほうがいい」。熱き「参院擁護論」が聞けるかと思いきや、意外な指摘。
 「今の参院議員にはプライドがないし、劣化している。衆院落選議員の落ち穂拾いの院に成り下がっている。もし橋下さんが廃止に向けて協力を頼んでくるなら協力しますよ」。現実を憂える“村上節”は続いた。「参院をなくせば議員、秘書、事務局、建物だっていらない。莫大(ばくだい)な資金が浮くんですよ」
 与党側の参院議員は何と言うか。「今の国会は最悪の状態。ねじれで苦しむことは分かっていたのだから、民主党が野党だった時に、参院で話し合う問題を決めておくなど審議ルールを確立しておけばよかった」。こう指摘するのは、民主党政調会長代理を務める桜井充議員=写真。
 今の参院の現状が国民の目にもどかしく映っていることを認めたうえで、こう言うのだ。「ねじれ国会を克服するには、衆・参で役割分担をするしかありません。年金、医療、介護などの社会保障問題については、時の政権に左右されずに参院で議論し、方向性を決めていく。衆院は予算や新型インフルエンザ対策など、緊急性があるものを議論し、決めればいいんです」
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 「参議院とは何か」などの著書がある政策研究大学院大学の竹中治堅(はるかた)教授は「法案をつくるということは、国民に向けて、国家権力の発動を認めること。慎重に判断するためにも、『安全弁』としての参院はあったほうがいい」と話す。ねじれが生じた今になって国民は参院の力に驚いているが、変わったのは制度ではなく民意だ。
 精神科医の香山リカさんは「効率良く決めて、無駄を省くことは全て正しいのでしょうか」と疑問を投げかける。「患者さんへの治療でも、結論を急がないで、あえて『もうちょっと待ってみましょうか』と時間を確保することがある。誰が考えても難しい問題が多く、簡単には答えが分からない時代。だからこそチェック機能を増やすことはあっても、減らすべきではないと思います」
 「熟議」を担保する場を切り捨てて、失うものって何だろうか。


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