なぜ来年の参議院議員選挙で自民党が惨敗する可能性が高いのか。それには次のような(幾つかの)理由がある。

 

 まず第一に、参議院選挙における自民党の得票はここのところずっと低落傾向にある。この流れは全く止まっていない。事実、前回の参議院選挙の「比例第一党」は民主党だった。特に衆議院選挙や地方選挙に比べて「身近でない」参議院選挙では、有権者の「バランス感覚」がより強く働く傾向がある。たとえば、「前回の総選挙では与党に勝たせすぎてしまった。参議院では少しお灸を据えておいたほうがいい」というふうに。5年前の参議院選挙の2ヶ月前にもし小泉首相が衝撃的なデビューを飾っていなかったら、参院自民党は大きく議席を減らし、そのまま「政権交代」か「政界再編」になだれ込んでいた。ほぼ間違いない。

 

 第二に、5年前の選挙は空前の「小泉ブーム」に助けられた「バブル選挙」だった。「小泉旋風」が発生する以前の各種調査で「黒△」だった候補者が、予想の2倍近い得票で当選を飾った。来年の選挙に臨む現職の候補者の中には「実は選挙基盤の脆弱な」議員が含まれている。むしろ、議席を減らした2年前の選挙を戦った現職候補者のほうが(全体といえば)今回の選挙に再出馬する現職候補よりも「選挙に強かった」という理屈になる。「小泉ブーム」のなかった8年前の厳しい選挙を生き抜いた面々だからだ。

 

 この点でいうと、来年の参院選挙に立つ現職候補者の本当の実力(=選挙力)は、前回の選挙結果(5年前の得票)からは判断出来ない。むしろ、前々回の選挙の票が実態に近いと思う。「山本チーム」の専門家たちも一様にそう言っていた。

 

 第三に、与党にそれほどの逆風が吹かなかった2年前の参議院選挙で負けていること。党執行部が目標に掲げた50議席に届かなかったのだから、どう考えても「敗北」だ。前々回のような「小泉ブーム」はなかったものの、小泉内閣の支持率は決して低くなかった。よく、この2年前の参議院選挙の結果を引き合いに出して、「小泉首相と安倍幹事長の2枚看板で戦ったのに勝てなかった。トップに人気があるとかないとかは、選挙結果にあまり影響を及ぼさない」などと指摘する人がいる。まさにピント外れのコメントだ。選挙当時5割の支持率をキープしていた小泉総理と国民的人気の高い安倍幹事長の2人がいたからこそ、「あの程度で踏みとどまれた」というのが正確だと思う。小泉政権でなかったら、さらに多くの議席を失っていたに違いない。参院選挙の趨勢を決めるのは、もはや旧来の組織力ではない。ましてや参議院自民党執行部の選挙態勢でもない。参議院選挙の勝敗は、「その時の首相のイメージや人気」に決定的に左右される。参院自民党執行部が「構造改革」の見返りとして失った「既存の組織や団体」との繋がりを修復しようとしていることに意味がないとは言わない。が、そんなことをしても、自民党の凋落にストップをかけることは出来ない。「焼け石に水」だ。

 

 2年前の選挙では、地元はもちろん、同僚議員の応援のために全国を飛び回った。各地を回りながら、連立を組む与党の公明党がここまで本腰を入れて「地方区の自民党候補」の応援したのは初めてだと感じた。さらにいえば、自民党が負けた選挙区でも、特に「民主党の追い風」が吹いているとほ思えなかった。異例の高い支持率に支えられた総理と若き政界のスターとして抜擢された幹事長を擁し、自公のこれまでにない協力体制を敷き、さらに大きなアゲインストの風もない状況下で戦った選挙だった。それにもかかわらず、(党執行部が決して割ることはないと考えていた)「目標議席」に届かなかった。ちょっと考えれば「この敗北」がいかに深刻なものかが分かるはずだ。しかも、来年の参議院選挙に「小泉首相」はいない。5年前のような「小泉ブーム」は二度と期待出来ない。

 

 こうしたことを考え合わせると、来年の参院選挙がどれだけ厳しいものになるかは容易に想像がつく。小沢新党首の下で「政権交代のプレリュード」を生み出すための「15議席」というマジックナンバーが何度もマスコミに取り上げられ、有権者の意識に浸透していく。これが自民党にとっての負の「相乗効果」につながっていくだろう。

 

 率直に言って、安倍総理大臣の下で戦ったとしても、与党が「議席を減らす」ことは避けられないと思う。が、安倍内閣なら「15議席のライン」を死守し、与党の過半数割れを食い止めることが出来るかもしれない。逆に言うと、安倍さん以外の総理で選挙戦に突入したら、自民党の候補者はバッタバッタと「討ち死に」する。5年前の小泉ブーム選挙を当事者として戦い、2年前の選挙で全国を応援に飛び回り、そして現時点で「最強の候補者」(間もなくタイトル返上になると思うが)と目される山本一太が言うのだから、間違いない。

 

 参院で与党が過半数を割ったらどうなるか?青木幹雄議員会長がどこかの講演で「そうなったら、とても政権は持たない」と話していたが、これは正しい。が、さらに続きがある。参院が過半数を失ったら、重要法案は次々参院で否決され、早晩(というか来年中に)、衆議院は解散に追い込まれる。衆議院で何とか過半数を維持しても、参議院は逆転したままだ。政局はますます不安定化し、自民党は(1年も経たないうちに)政権の座から滑り落ちるだろう。

 

 ある衆議院議員がこんなことを言っていた。「たとえ参議院が過半数割れしても、ギリギリまで解散をしなければいい。参院で法案を否決されたって、衆議院では3分の2を持っているのだから再可決すれば大丈夫だ。」これは全く甘い見方だ。「3分の2条項」なんて何度も使えるはずがない。「もし野党が何でもかんでも参院で法案を否決したら、世論の批判を浴びるから出来ない!」という意見も時々聞く。が、これも楽観的な憶測でしょう。ねえ、忘れちゃあいけません。国民の心の中には常に「政権交代願望」というものがある。有権者は小泉改革で一種の「疑似政権交代」をやったということだ。加えて、メディアは「ドラマチック」に飢えている。「総理は国民に信を問うべきだ!」という大合唱になるに決まっている。自分にはハッキリと「近未来の悪夢」が見える。仮に解散総選挙になったとしたら、新人議員の半分以上が壊滅し、さらには大物現職も次々に落選する。

 

 この「悪夢のシナリオ」を防ぐことの出来る唯一の希望が「安倍晋三総理」なのだ。自民党に「エースを温存する」余裕なんて全くない。そういえばこんなことを言っている若手議員もいた。「どうせ来年の参議院選挙は負ける。過半数割れして、衆議院選挙になった時に安倍さんに立ってもらうのが一番いい!」残念ながら、このストーリーも成り立たない。今回、安倍長官が(古い政治システムのプレッシャーに負けて)出馬を断念すれば、国民は必ず失望する。安倍さんの「カリスマ」は一気に失われてしまう可能性がある。

 

 民主党に小沢党首が誕生した。「次の総理にふさわしい政治家」のアンケート等を見ても、ある種の「小沢効果」が生じていることは否定出来ない。戦略目標を「来年の参院選挙で与党を過半数割れに追い込み、余勢を買って政権交代を実現する」という1点に絞っていることも見過ごせない。自民党にとって「侮れないライバル」だ。ただし、民主党の代表が若手の前原氏からベテランの小沢氏に代わったからといって、自民党が「世代逆行」して対抗するなどというのは「最悪の選択」だ。

 

 どんなに表面を取り繕っても、小沢氏の手法は「昔の自民党政治家」に近い。小沢民主党を打ち破る最善の策は、自民党に「戦後最年少の総理」を出現させ、「清新な改革自民党」VS「古い自民党が率いる民主党」という戦いの構図を創り出すことだ。万一、「安倍ブーム」を呼び起こすことが出来れば、最小限の犠牲で選挙を乗り切れる可能性だってある。

 

 念のために言っておくが、自分がポスト小泉に安倍官房長官を推している理由は「選挙に勝てる(もっと正確に言うと選挙を乗り切れる)総理だから」という理由ではない。が、「政権を維持する」という点からも、安倍首相がベストの選択肢であることは疑いのない事実だ。衆参の同僚議員、特に昨年の選挙で当選したルーキーの方々には「参院選挙の本当の情勢」をしっかり認識してもらいたいと思う。小泉チルドレンの皆さん、場合によっては来年中に衆議院選挙があるかもしれません。「常在戦場」の衆議院とはいえ、その心構えだけは持っていたほうがいい。私が言うんだから、説得力、あるでしょう?!

追伸:

1.「直滑降レポート」が、近日中に「ブログ」になる。詳しい情報は改めて。

2.どうも衆議院には「参議院選挙で負けても大丈夫だ」みたいな感覚がある気がしてならない。けっして「対岸の火事」ではないのに。

3.来年の夏にかけて、自民党に対する逆風は強まっていく。現段階の選挙情勢分析はほとんど意味をなさない。現時点で民主党候補に水を空けられているような選挙区があったとしたら、ほとんど絶望的だと思う。