自分はいわゆる「親中派」ではない。 小泉総理の「靖国神社参拝」を「理解し、支持する」という立場をとってきた。 安倍官房長官の「外交は2つの国が国益をかけてギリギリの交渉をするということ。ある問題で意見が違うからといって『首脳会談はしない』という中国政府の姿勢はおかしい」という指摘はもっともだと思っている。

 

 かと言って、単細胞的な「対中強硬論者」でもない。 あえて言うなら、「対中戦略派」(ニュー・リアリスト)というところだろうか。 中国との関係を考える際、情緒的なアプローチは禁物だ。 中国は(当たり前のことだが)「民主主義のシステム」ではない。 インターネットを通じた「世論のようなもの」が出現している(政府にとって無視できない存在になっている)のは事実だとしても、国民の意見が政治に反映されているとは言い難い。 市場経済の導入による「変化の兆し」は随所に見られるものの、社会全体の透明性は確保されていない。

 

 小泉総理の言葉を借りるまでもなく、中国の発展は「脅威」ではなく、「チャンス」ととらえるべきだと思う。が、反面、17年連続(?)で続いている年率10%以上の軍事費の増加(実際にはそれ以上)には、懸念を憶えざる得ない。 この恐るべき軍拡だけとってみても、「台頭する中国に『誤った道』(アジアの覇権国家)を選ばせてはいけない。そのために日米同盟の維持・強化が欠かせない!」と思ってしまう。 

 

 ここ数年、この巨大な隣国に幻想を抱くことなく、過大評価も過小評価もせず、「等身大の姿」を把握しようとつとめてきた。(*残念ながら、結論には到達していない。) ひとつハッキリしているのは、日本と中国があらゆる意味で「平和的に共存するしかない関係」にあるということだ。 双方の国益が一致しない場面があることをお互いに直視し、競争相手であることを認め、率直に言うべきことは言い合う。 時には「ガチンコ」になる時だってあるだろう。 その上で、日中間の対立がエスカレートしないようにコントロールしつつ、「相互の利益となる関係」(ウィン・ウィンの状態)を模索していく。 「中国封じ込め」などという政策は非現実的であり、東アジアから引っ越すことが出来ないことを考え合わせれば、日本にとって「対中外交の選択肢」は、この「現実的かつ戦略的アプローチ」(=戦略的に、平和的に共存する)以外にはない。 そう確信している。 ここまで経済の相互依存が高まったら、日中が敵対することは両国にとって何の利益にもならない。

 

 そうは言っても、日中関係は「一筋縄」ではいかない。 両国首脳の思い切った決断がない限り、「靖国問題」の解決(というより凍結)はおぼつかない。 東シナ海のエネルギー問題も、予断を許さない。 小泉総理の任期中はもちろん、次期政権下においても、しばらくは「対立の構図」が続く可能性がある。(*あるいは今より悪化するケースさえ、考えておかねばならない。) が、現在の日中の政治状況は、いずれ「変わらざる得ない局面」が来ると信じている。 どう考えても、日中は「お互いを必要としている」からだ。 日中関係の潮目が変わる事態を想定して、今から日中協力の可能性を探っておかねばならない。 そのためにも、政治的パイプが急激に細りつつある中国との間に、何らかの新しいネットワークを作っておきたい。 昨年の中頃から今年にかけて、何度か中国に足を運んだのは、中国側との接点を見つけるためだった。

 

 「議員外交」と言っても、中国には(韓国と違って)カウンターパート、すなわち、選挙によって選ばれた議員がいない。 これまでの訪中を通じて、中国対外連絡部の幹部や全国人民代表大会の委員、政治協商会議のメンバー、シンクタンクの責任者、大学教授等と面会を重ねてきた。 が、なかなか思うような人脈には辿りつけていない。(*韓国みたいにはいかない。) あまり肩を張らず、時間をかけて積み上げていくしかないと分かった。 「自民党外交部会長」という肩書きが使える間に、次世代の若手に引き継げるような「交流の芽」だけは育てておきたいと思っている。  

 

 この日中ネットワーク構築プロジェクトの一環として、先月の中旬、1泊2日(正確には1泊1日)の日程で再び北京に飛んだ。 主要な目的は、北京近郊の「環境プロジェクト」を視察することだった。 日本の今後の対中協力の柱は「環境問題」と「感染症」だという確信があるからだ。 韓国の場合と同様に、日中関係に携わる友人や知人が面会のアレンジを手伝ってくれた。 短い訪中だったので、外務省には「便宜供与」を頼まなかった。  

 

 北京滞在中、近郊の農村にも足をのばし、アポなしで一般家庭の暮らしぶりを見せてもらった。 北京市内の某大学を訪ね、環境関係(特に砂漠化と水質汚濁)の教授たちと数時間にわたって会議を持った。スライドを見ながら「水問題の現状」について話を聞いた。 全国人民代表大会の幹部クラスや環境ビジネスに携わる経営者等ともミーティングをやった。 滞在時間の割には、かなり充実したメニューだった。 次回は、(何とか時間を見つけて)黄河の近くまで出かけてみたい。 さらに、主要な工業都市における大気汚染(石炭による被害)の状況もこの目で確かめたいと思っている。(*中国政府の許可が降りないかもしれないが…。)

 

 この北京出張のことは、珍しく「直滑降レポート」に書かなかった。(*というより、疲労が激しくて「書きそびれて」しまった。) 先週の後半になって、数名の研究者やジャーナリストから急に連絡が入ってきた。 「中国へは何の目的で行き、誰に会ったのか?」という問い合わせだった。 「安倍官房長官の密使として密かに中国政府高官に会った」という噂が広がったようだ。 そのくらいの人脈があれば大したものだと思うが(笑)、ここに書いた以上のことは何もやっていない。 

 

 ちょっと驚いたのは、北京駐在の記者から国際電話がかかってきたこと。 別に隠すこともないので、出張の概要は説明しておいた。 恐らく、北京の日本大使館から情報を得たに違いない。 大使館のスタッフから、「どんな活動をしたのか調べて欲しい」と頼まれた可能性もある。 別に怒っていないけど、いかにも外務省らしい。 直接、聞いてくればいいのに…なあ。(笑)

追伸:中国の飲料水の汚染は、実は「かなり深刻」だと思う。政治家としてそのことを感じ取った。