午前9時30分。ホテルの中二階にある大きな会議室に入った。「第1回アラブー日本若手リーダー会議」という大きなプレートと国旗が掲げられた会場には、アラブ地域のイスラム諸国から参加した国会議員グループに加え、シリア政府や党関係者、ジャーナリストを含む100名近い参加者が集まっていた。シリアやトルコのテレビ局のカメラもズラリと並んでいる。予想以上に本格的な会議に仕立てられていた。ふうむ。シリア政府の力の入れようは相当のものだ。

 

 日本側で会議のアレンジに奔走した河野太郎氏もこれには驚いた表情。「いやあ、こんなに大がかりに開会式のセッティングをしてくれるとは思ってませんでした。」中東に詳しい(?)太郎ちゃんによれば、アラブの会議は直前まで内容が決まらず、事前の準備はあまり意味がないとのこと。「今聞いたんだけど、開会式の冒頭、アラブ代表の挨拶の後で、日本側を代表して30分のスピーチをしてほしいと言われました。まいった。全然、準備してないんだけどなあ(笑)」少し困った顔でそう話す河野氏を励ました。「大丈夫だよ。河野太郎は英語上手いし…思ったことをしゃべったらいいじゃないか。」常に冷静沈着な林芳正議員が、「あのさ、太郎ちゃん。30分しゃべるんなら、一応、話のポイントだけでも考えておいたほうがいいんじゃないか」とアドバイスしているのが聞こえた。

 

 さてさて、河野太郎の準備5分の英語のプレゼンテーションは、なかなか見事だった。日本が中東で果たすべき役割、イラクへの自衛隊派遣の意味、中東和平プロセスでの米国の役割と日米関係等について率直な意見を述べ、最後に「中東地域と日本の国会議員との間に信頼関係を築きたい。何か問題があったら、国会議員同士が電話で直接やり取り出来るような関係を作ることが重要だ」と締めくくった。宗教や中東和平プロセスについて言及した部分では(非常に微妙な問題だったらしく)その都度、会場からざわめき(反応)があった。開会式が終わり、約10分ほどのインターバルを経て、いよいよ国会議員による午前中のセッション(自由討議)に突入した。

 

 会議は英語とアラビア語。各国代表の席にセットされたイヤホンから聞こえてくる同時通訳の英語を聞きながら、発言の機会を待った。最初に意見表明したカタールの国会議員の後でさっそく手をあげ、日本チームとして最初の発言を行った。(*とにかく積極的なことだけが取り柄なんです。)2つの点について、出来るだけ簡潔にコメントした。

 「今回、シリアに来て本当に良かったのは、この国について自分が抱いていたイメージが変わったこと。アラブ(中東)と日本の間に信頼関係を築く最もシンプルで効率的な方法は、出来るだけ多くの日本人がアラブ諸国を訪れることだと思う。(中略)ここに集まったアラブ諸国の代表の方々にお聞きしたい質問が一つ、さらにお願いしたいことが一つある。まず第一に、日本の自衛隊のイラク派遣について。自分は現在、参議院外交防衛委員会の委員長を務めているが、小泉総理の決断は基本的に正しかったと信じている。日本の自衛隊はイラクで人道支援の活動を行っている。憲法の制約もあって、(正当防衛の場合を除いて)「戦闘に参加する」ことは出来ないし、そんな意図もない。この日本のイラク復興支援について、アラブ諸国がこれをどう見ているか、本音をお聞きしたい。(中略)お願いしたいのは国連についての問題。ここにきて、国連安全保障理事会改革の機運が盛り上がりを見せている。今年から来年にかけて改革議論が一つの正念場を迎える。日本は一貫して安全保障理事会の常任理事国になる意志を持ち、それにふさわしい役割を果たしてきたと自負している。日本の立場(常任理事国入り)に対する中東諸国のサポートを改めてお願いしたい。」

 

 出席したアラブ諸国の代表からの意見を集約すると、(1)日本政府のODAを通じた様々な支援に感謝している。日本の常任理事国入りは支持したい。ただし、常任理事国になった場合、中東政策については米国とは違う独立した姿勢を保ってほしい。(2)日本がイラクへ人道復興支援をしようという意図については理解する。が、日本が現在のような形、すなわち米国の指揮の下でイラクに関わることは望ましくないーという内容だった。

 

 午後12時から日本議員団とシリア国会議長との面談が急遽飛び込んできた。会議はいったん休憩。国会議事堂内にある議長の応接室で国会議長と会った。「午前中のセッションでも発言したが、日本の自衛隊はイラクの人々に対する人道復興支援の目的で活動している。このことがアラブ諸国の日本に対するイメージを悪化させていないかどうか、率直にお聞きしたい」という質問をぶつけてみた。

 国会議長は慎重に言葉を選びながらこう答えていた。「残念ながら、自衛隊のイラクでの活動は中東での日本のイメージを悪くしていると思う。日本は、多くのアラブ諸国にとっては一種の(アイドル)のような存在だ。第二次世界大戦の荒廃の中から立ち上がり、国民の叡智と努力によって驚異的な復興を成し遂げた。日本人に尊敬の念を抱くアラブ人は多い。にもかかわらず、米国の主導するイラク支配に手を貸すと見られることは(どんな理由があろうと)、日本とアラブの関係にとってマイナスだ。」自衛隊のイラク派遣についてのアラブ諸国の見方は(一般的に)厳しいようだ。日本のイラクでの活動の目的や意図について、引き続き中東諸国に説明していく必要がある。そのことを痛感した。その意味でも、こうした会議の持つ意義は大きい。

 

 午後のセッションは午後4時頃から再開すると(たしか)議長が言っていた。日本チーム全員で仲良くホテルの最上階にある回転式のレストランに行き、ゆっくりとアラブ料理を味わった。横に座った世耕参院議員に、「ずいぶん、休憩の時間が長いよねえ」と言葉を向けると、何度か中東諸国との会議を経験している河野議員がちょっと心配顔でこう言った。「いや、時間どおり始まればいいんですけどね。前に来た会議では10分のはずのコーヒーブレークが(皆がそれぞれ話しこんでしまったために)なんと数時間になっちゃったんです。それでセッションがなくなったりして…。」ひええ。これがアラブのペースなのか。

 

 この続きは次回のレポートで。