午後7時過ぎにダマスカス空港に到着。空から見たシリアの光景はこれまで行ったどの国とも違っていた。赤茶けた砂漠(完全な砂漠ではないようだが)のあちこちに石の城壁(?)に囲まれた街が見える。昨年、やはり河野太郎氏につきあって訪問したレバノンとは違う。はじめてアラブ世界に足を踏み入れたという感覚があった。

 

 空港には、今回の会議をホストしてくれた「シリア人民議会」のメンバーと日本大使館のスタッフが迎えに来てくれていた。ダマスカス市内までは約1時間のドライブ。ホテルにチェックインし、部屋で顔を洗っただけで再びロビーへ。ここで他の議員メンバーと合流し、現地ビジネス関係者との夕食会に向かった。

 

 ダマスカスは世界最古の都のひとつ。少なくとも4000年以上の歴史があると言われている。旧市街は「アラビアン・ナイト」を彷彿とさせる雰囲気だった。その旧市街の一角にあるアラブ料理のレストランには、10名ほどのビジネスマンが集まっていた。会話はすべて英語。食事とお酒がすすむにつれて、すっかりうち解けたムードになった。大いに議論し、大いに笑った。

 「シリアでは農業人口の減少が著しい。特に地方から都市への人口流出を防ぐために、農民にもっとインセンティブが必要だ。」「日本人にはもっとシリアに来てもらいたい。そうすれば欧米の陰謀(?)で定着したこの国の間違ったイメージが払拭される。」「数年前、日本のビジネスマンと仕事をした。彼らは寝ないで働く。日本人はいつ休んでいるのか(笑)」シリア社会の直面する問題や政治状況、経済の現状等について、彼らの「本音」を聞くことが出来た。詳しい内容は…書かないほうがいいだろう。

 

 午後10時を過ぎると店は急に混み合ってきた。なるほど、ダマスカスでは夕食は(アルゼンチンと同様)午後10時頃から始まるということのようだ。レストランに入ってくる人々は様々だ。流行のファッションに身を包んだ若者もいれば、全身を黒いベールで覆った女性もいる。クリスチャンもいれば、モスリムもいる。 自分が今までシリアという国に対して抱いていた様々な先入観:「厳格なイスラム国家」「テロリスト支援国家」「政治的独裁の社会」が、少しずつ崩れていく感じがした。 

 

 シリアは予想以上に「開かれた社会」だ。たとえば政治問題について語ることは、これまで実質的にタブーだった。5,6年前までは、シリア国民が政治の話をする時は自宅でも声を潜めたり、筆談をしたりしていたらしい。が、今はかなり自由になった。実際、シリアの有力経済誌は政府の政策を批判する記事を掲載している。もちろん、完全な民主主義国家ではない。大統領とその一族を批判することは依然としてタブーだ。

 

 午前1時。ホテルの部屋でパソコンに向かっている。TVをつけると「衛星チャンネル」でアテネオリンピックの中継をやっている。世界のどこでも同じ時間にオリンピックが見られる。グローバル化ってのはこういうことか。さあ、そろそろ寝ないと。明日はいよいよ本番の会議。横文字でしゃべるエネルギーを蓄えておかねばならない。