清華大学での「講演会」が終わった。午後5時過ぎ。北京空港から成田行き最終フライトをキャッチした。日本到着まであと1時間あまり。ジェットコースターのような激しい揺れが続いている。先ほどから機内サービスは中断したままだ。機内でパソコンを開いて、こんなにキーボードが打ちにくかったことはない。それでも書く。東京に着いてからレポートを仕上げるだけのエネルギーは残っていない。

 

 さて、昨晩のアジアカップ・サッカー決勝戦(日本VS中国)は、CCTVで生中継された。北京のホテルにチェックインして部屋のテレビをつけると、ちょうど前半のハーフタイムが終わったところだった。得点は1対1。こりゃあ接戦になるなと思いながら、お気に入りの大きなカバンから日中関係の資料を取り出した。基調講演の内容について、きちんと頭の整理をしておく必要がある。




 資料を読みながら後半戦をTV観戦した。会場の反応にハラハラしながらゲームを追った。結果は3対1で、日本チームがアジアカップ2連覇を達成した。ゲーム終わったのは午後10時過ぎ。恐る恐る北京の街に出てみた。大きな騒ぎは起こっていない様子だった。が、時々、興奮したサポーターの車が大きな中国国旗を掲げて何か叫びながら通過していく。数名から声をかけられた。「リーペンジェン?(日本人か?)」「Are you from Japan?(日本から来たのか?)」ほんの少しだけ身の危険を感じた。中国当局が厳戒態勢をひいたこともあり、心配されたような大きなトラブルは起こらなかった。競技場から出てきた日本大使館の車は後部ガラスを割られるなどの被害にあったようだ。とにかく、日本人サポーターに事故がなくて良かった。

 

 翌日(本日)朝8時30分。ホテルまで迎えに来てくれた清華大学スタッフの車に乗り込んで北京郊外にある大学のキャンパスに向かった。北京の中心から約50分のドライブ。胡錦涛国家主席の母校であり、中国で最も有名なエリート大学の広々としたキャンパスは、大学というより、緑に囲まれた市民公園という雰囲気だった。キャンパス内の池で釣りを楽しむ人がいたり、社交ダンスを踊るグループがいたり、また、バスで乗り込んでくる観光客の一団も目についた。

 

 午前10時。構内にあるホテルの会議室でセミナー形式の「講演会」が始まった。出席者は約40ー50名。国際関係(特に日本研究)分野の有名な教授や研究者に加え、ジャーナリスト、雑誌編集者、作家、学生等、かなり質の高いメンバーが集まっていた。通訳を交えて、まず基調講演「東アジアの中の日中関係」をやった。昨晩のサッカー決勝でも見られた中国の新しいナショナリズムから話をはじめ、90年代初めから開始された愛国主義教育の問題点を指摘し、日中関係を発展させていくためには双方の戦略的思考が必要であるとコメントした。予想した通り、歴史認識から靖国の問題に至るまで中国側から次々に厳しい意見や質問が飛んできた。応戦して「激論」になった。(*予想どおりの展開だ。)

 

 引き続き行われた昼食会でも、時間ギリギリまで議論が続いた。最後まで認識の溝は埋まらなかった。が、本音で応酬出来たことは意味があった。最後に今回の講演会の大学側の責任者である学部長が流ちょうな日本語で、「次は日本の安全保障理事会の改革、特に日本の常任理事国入りの問題についてセミナーをやりましょう。次世代の方々とこうして率直に議論したいですね。」と言った。「いいですよ。安保理改革に慎重な(*実際は反対している)中国が、たとえば日本が常任理事国に加わることを応援してくれるとか、そういうことがあれば日中関係は進展するんです。」と答えた。昼食会の出席者とガッチリ握手をして、空港に向かう車に飛び乗った。

 

 あ、パソコンの電源が切れかかっている。続きは次回のレポートで。

 

追伸:中国政府には、今回のアジアカップにおける観衆の「ブーイング」事件を深刻に受け止めてもらいたい。日本の選手はスポーツのために訪中した。選手やサポーターが身の危険を感じるようなら、北京オリンピックに日本サッカーチームを派遣出来ないという議論が出かねない。