夕方の飛行機で中国に向かっている。シートベルトサインが消えたのを見はからってパソコンの電源を入れた。北京に到着するのは午後8時。午後9時から宿泊先のホテルで最初のミーティングに臨む。3人の大学生は無事に(別のホテルに)チェックイン出来ただろうか。あまり心配する必要はないか。中国人の留学生(うちのインターン)も一緒なのだから。

 

 さて、このレポートでは、特定の個人を(名前をあげて)中傷しないというルールを貫いてきた。が、今回取り上げた問題は参議院自民党の人事だ。青木幹雄幹事長の「議員会長昇格」問題は、自民党の危機感の欠如と参院自民党の実態を象徴する出来事。しかも、自民党の未来に大きく影響する話だ。これだけは具体的に書かざる得ない。まあ、相手は政界の大実力者、こちらは一介の参議院議員だ。ライオンはネコにひっかかれても痛みさえ感じないだろう。個人的中傷ではなく、健全な(?)批判ということでお許しを願うしかない。

 

 まず、明確にしておかねばならないことがある。自民党は先の参議院選挙で明らかに「敗北」した。実際に選挙を戦った候補者はもちろん、同僚の応援に飛び回った参院議員の中で「自民党が負けていない」などと考えている政治家は一人もいないだろう。党が勝敗ラインにあげたのは現有の51議席。結果は、目標に2議席届かない49という数字だった。「2議席は誤差の範囲だ」などと発言している幹部がいると聞いたが、ピント外れもいいところだ。この危機感の欠如には唖然とするしかない。

 

 つい10日前に終わった参院選挙が自民党にとって極めて厳しい結果だったことは、少し考えればすぐ分かる。今回の選挙は6年前に惨敗した組の選挙だった。逆風を跳ね返して勝ち残った現職を中心に布陣が組まれた。前々回(6年前)の選挙では、複数区に2人を擁立し「共倒れ」となった地域があった。そうした県では候補者を一人に絞り、確実に1名の当選を目指した。普通に考えれば議席が増えなければおかしい、そして議席を増やさねばならない選挙だった。理由は簡単だ。この選挙で6年前に失った議席を回復出来なければ、「参議院における自民党の単独過半数獲得」は未来永劫不可能ということになってしまうからだ。

 

 その意味で、党がセットした51議席という目標は最低のライン。これを割り込むことはまずないと考えたからこそ、執行部はここを勝負のポイントにした。実質的には、ほとんど負けに等しい数字だった。自民党はその最低の見積もりさえ、クリア出来なかった。思い出してほしい。前回(3年前)の選挙では小泉ブームに乗って大勝(65議席獲得)した。事前の調査ではほとんど難しいと言われた候補者まで「小泉効果」で滑り込んだ。次回(3年後)の戦いに小泉旋風はあり得ない。最初から守りの戦いになる。下手をすれば、15議席以上を減らすことになるだろう。最悪の場合、与党の参院での過半数割れという事態さえ、招きかねない。それだけに、今回の参院選挙は負けられない戦いだった。

 

 さらに深刻なことがある。それは、自民党がこの選挙を現時点では最強の布陣(小泉総理、安倍幹事長、青木参院幹事長のトリオ)で戦ったということだ。さらに、いわゆる激戦区では与党のパートナーである公明党の全面協力を得た。加えて、外交・内政にかかわらず、選挙を有利に運ぶために出来るかぎりの手段を(ほとんどなりふり構わず)尽くした選挙だった。それでも49議席しか獲得出来なかった。小泉ー安倍ー青木ラインでなければ、さらに惨敗していたに違いない。しかも、選挙中に内閣支持率と自民党の支持率が低下し、民主党の支持率がジャンプした。自民党の長期低落傾向に全く歯止めがかかっていないことが証明された。この選挙の結果を正面から受け止め、検証し、新たな戦略を構築しないかぎり、自民党は、早晩、政権の座から転落することになるだろう。

 

 参議院選挙は政権選択の選挙ではない。この49議席という結果を小泉総理の退陣に結びつけること自体が不自然だ。世論調査の結果を見ても、国民は小泉首相の続投を望んでいる。が、選挙の責任者だった両幹事長(安倍幹事長と青木幹事長)は、きっちり責任を取るべきだ。特に2人とも勝敗ラインを割ったら「責任を取る」と明言していたのだから。ここにケジメをつけないで、選挙の総括なんて出来るはずがない。

 

 自分は知る人ぞ知る「安倍晋三サポーター」だ。同じ派閥の先輩である安倍氏のことを政治家としても人間としても敬愛しているし、拉致問題で注目を浴びるずっと前から応援してきた。北朝鮮への2本の経済制裁法案は、安倍幹事長と連携を保ちながら成立させた。その安倍さんに、「今回の選挙の責任を取って辞任すべきだ」というのは辛い。が、安倍幹事長の真っ直ぐな性格を考えれば、本当は(選挙が終わった直後に)スッパリと辞めたかったはずだ。そして、将来のことを考えれば、今回は潔く身を退くことが、絶対に安倍氏のためになると確信している。筋金入りの安倍シンパである山本一太が言うのだから、間違いない。

 

 参議院選挙の指揮官として、参院自民党に青木幹雄氏以上の人材がいるとは思えない。青木幹事長でなければ違う結果になったなどと言うつもりはない。が、自民党の組織選挙が思ったように機能せず、民主党に敗れたことは厳然たる事実だ。しかも、今回の参議院選挙について、青木参院幹事長の責任は(安倍幹事長以上に)大きい。青木氏は「参議院のことは参議院で決める。参院自民党には小泉総理の人事権は一切及ばない」と公言してはばからない。ということは、比例区、選挙区にかかわらず、候補者を決定し、公認した最終責任者は青木幹雄幹事長ということになる。自民党が敗北した原因の一つは「勝てる候補者」を擁立出来なかったことだ。

 

 あ、飛行機が降下を始めた。間もなく機内アナウンスがあるだろう。北京では本の出版を記念したシンポジウムと記者会見が待っている。うーん。何とか人が集まるといいんだけど。

 

追伸:「不可解な人事:その3」は次回のレポートで。