いつもより早めに帰宅した。時計は午後9時30分を表示している。林檎ジュースを一杯飲んで、本日のレポートに取りかかった。

 

 夜は、都内の料亭で清風会(参議院森派)の総会をかねた懇親会があった。新たに当選した参院議員の自己紹介の挨拶を聞きながら、「ずい分所帯が大きくなったなあ」と思った。面倒見のいい森喜朗会長が遅れて参加。新人議員一人一人と酒を酌み交わしていた。清風会の会長が、西田吉宏国会対策委員長から同期の谷川秀善氏に替わったことが報告されただけで、参院選挙の総括や人事の話は一切出なかった。

 

 参院自民党の人事に関する最近の新聞報道によれば、青木幹雄参院幹事長がそのまま「議員会長」に昇格。「幹事長」のポストには現予算委員長の片山虎之助氏の就任が内定したらしい。新しい「参議院議長」には、元自由党党首の扇千景氏か、元文部科学大臣の中曽根弘文氏のどちらかが有力とのこと。もしこれが事実だとすれば、まことに「不可解な人事」としか言いようがない。参院議長や幹事長のポストはともかくとして、自民党が手痛い敗北を被った先の参議院選挙の最高指揮官である青木氏が、何の責任も取らずに参院自民党のトップである議員会長に就任する。これはどう考えてもおかしい。

 

 ご存知のとおり、山本一太は参院自民党では「札付きの問題児」ということになっている。理由はシンプル。参院自民党を束ねる青木幹雄幹事長の作ったルール(参議院自民党=派閥なし=青木派)を受け入れず、奔放に(?)行動するからだ。当然、青木氏と盟友の森会長のおぼえも悪くなり、派閥内でも「クラスター爆弾」(*取り扱いを間違えると危ないという意。そこまで言われたら光栄だ。)なんてあだ名をつけられることになる。考えてみたら、先代の実力者(村上正邦元幹事長)にも逆らっていた。だから参議院議員に当選して以来、(外務政務次官内定者が別の政務次官に動いたために外務政務次官が回ってきたというフロックを除けば)ポストでは一度も厚遇されたことがない。もちろん、どんなに冷遇されても、青木氏の軍門に下るつもりはない。

 

 この際だから、誤解のないように言っておく。自分は青木幹雄氏のことが嫌いなわけではない。それどころか、党人派政治家としての青木氏の胆力や突破力をむしろ尊敬している。結果だけ見れば、青木幹事長が政局で負けたことはない。選挙は全市町村でトップを取るほど圧倒的に強いし、世の中の変化を感じ取るアンテナもそこらの若手議員よりよっぽど感度がいい。会って話をすれば、他の政治家にはない懐の深さを感じる。物腰は柔らかいが、たたき上げの政治家だけが持つ「迫力」がある。生意気な言い方だが、参議院自民党でただ一人、「恐い」と思う存在だ。(*やはりたたき上げの党人派だった父親と同じ匂いがする。)

 

 反面、青木氏が押しつけようとする秩序には、どうしても従えない。それは、年功序列と派閥均衡主義によってムラ社会を維持しようという時代遅れの(自民党を崩壊に導く)システムだからだ。同時にそれは、一人一人の議員の個性を殺し、能力主義を封じ込めるという犠牲の上に立った「参院自民党を支配する一人の人間に権力が集中する」というカラクリに他ならない。組織内の決定は常に不透明で、誰も実力者に異を唱えられないという停滞と独裁の府が出現することになる。そして、こんなルールは、参議院議員の存在感を低下させ、参院の真の独自性発揮を妨げ、構造的にスキャンダルを引き起こす古い政治文化を温存することに繋がる。

 

 あ、午前12時を回った。明日は朝から中国滞在中の日程やシンポジウムの内容について最後のツメをやらねばならない。夜は北京のホテルで最初の会合をこなす予定だ。この続きは次回のレポート「不可解な人事:その2」で。