日本に向かうジャンボジェットの機内。最初の食事の前に温かい日本茶を注文した。愛用のマックに向き合って、7日間の日程を改めて振り返ってみる。今回の出張で一番良かったことと言えば…やはり毎日5時間以上の睡眠がとれたことだろう。出発前日までに蓄積された仕事の疲れが幸いしたのか、夜中に「時差ボケ」で眠れないという現象は全く起きなかった。

 

 さて、日本を発ったのは4月29日。午前11時過ぎの便だった。ワシントンDC行きの飛行機には、日本の国会議員が少なくとも10名以上乗り込んでいた。同じビジネスクラスの席には、ワシントンで一部行動をともにした河野太郎氏、大村秀章氏。ファーストクラスには、安倍・冬柴両幹事長の率いる与党米国訪問チームが陣取っていた。最前部の席に並んで座っていた安倍幹事長と下村博文副幹事長の席にフラリと行き、機内で簡単な打ち合わせをやった。

 

 同日の午前中にダラス空港に到着。午後から、河野、大村両氏とともに、与党チームの正式日程の一部に同行させてもらった。最初のスケジュールは上院共和党の院内総務であるフリスト上院議員との会談。ここには山本、河野、大村がトリオで参加。二つ目の面談の相手は、下院共和党のハスタート議長。こちらは自分だけが同席した。与党の訪米団の日程に滑り込ませてもらった理由はただ一つ。べーカー駐日大使を通じて米国議会の有力者に送った「北朝鮮に関する手紙」のフォローアップをするためだ。

 

 上院の院内総務といえば、かつてはべーカー駐日大使も務めていた議会の重要ポスト。米国では上院の議長は副大統領ということになっている。だから院内総務は実質的な上院のトップと言っていい。実際、院内総務から党の大統領候補になるケースは多い。テネシー州出身の著名な外科医であるフリスト氏も、4年後の共和党大統領候補の有力な一人と言われている。そのフリスト議員の左側に自民党の安倍幹事長、安倍氏の横に公明党の冬柴幹事長が座った。会談の冒頭、安倍幹事長が(我々の名前をあげながら)北朝鮮に関する手紙の件について言及してくれた。その後、イラク問題、六者協議、日米関係等について率直な意見交換が行われた。同じテネシー州出身で上院の先輩でもあるべーカー大使からの口添えもかなり効いていたに違いない。院内総務は与党訪米チームにかなり気をつかっている様子だった。椅子の上で膝を組んだ安倍氏とフリスト議員が落ち着いて言葉を交わすシーンを見ながら、ふと思った。「ふうむ。これがこのまま日米首脳会談になる日がやって来るかもしれない。」

 

 約束の時間をオーバーすること25分。ようやく面会を許されたハスタート下院議長の第一印象は「人なつっこいおじさん」という感じ。若い頃、日本(関西)のYMCAで英語を教えていたこともあるという親日派だ。下院議員の任期は2年。選挙区の陳情処理と選挙運動で常にせわしく動き回っているイメージの強い下院議員だが、下院議長というポストのランクは高い。大統領が亡くなった時は副大統領が、さらに副大統領がいなくなった時は、下院議長が大統領職を引き継ぐことになっている。

 

 米国某シンクタンクでの講演することになっていた安倍幹事長は途中で退席。もう一人の団長である冬柴幹事長から、「山本さんも何か言いたいことがあったらどうぞ」という援護射撃をもらった。すかさず(手紙の件を説明しつつ)、「北朝鮮問題については、今後も日米両国の議会の連携を深めたい。議長のご協力とご理解をお願いします」と発言した。ハスタート氏が引き連れてきた2人のベテラン下院議員の言葉が、現在の日米関係を象徴している気がした。「米国のために協力する気持ちを持っていても、イラクから退いてしまう国もある。日本と英国は我々にとって特別な存在だ。」

 

 同行していた加藤良三駐米大使に、「上院は院内総務。下院は議長が出てくるなんて、すごいですね。」と水を向けると、「いやあ、上院がフリスト議員、下院がハスタート議長ということで、今は米国議会を見ても日米は非常にいい状態なんです。」と話していた。安倍・冬柴ミッションは、翌日にも米国議会の重鎮であるルーガー上院外交委員長に会ったと聞いた。ここには同席出来なかった。残念!!

 

 様々なメディアで既に報道されているように、今回の安倍幹事長の訪米に対する米国政府・米国議会の対応はまさに破格の厚遇。パウエル国務長官、ラムズフェルド国防長官、そしてライス大統領補佐官に一度に会うなどということは、総理訪米以外では考えられない。もちろん、根底には小泉ーブッシュの信頼関係がある。加えて、安倍氏が一貫して日米安保の重要性を訴え、イラクへの自衛隊派遣を支持する立場を取ってきたことも米国政府内の「対安倍・好感度」を高めているようだ。が、やはり米国側が安倍氏を厚遇した最も大きな理由は、「安倍晋三自民党幹事長はポスト小泉の有力候補になりつつある」という認識を持っていたということだと思う。すなわち、米国政府も米国議会も、安倍氏を「未来の総理」として扱った。イメージは自己実現する。今回の訪米が、安倍幹事長にとって将来の重要な布石になったことは間違いない。