高崎駅で午後2時45分の新幹線に乗った。東京駅で「のぞみ」に乗り換えて「名古屋駅」に向かう予定だ。車内でパソコンを開いた。名古屋駅につくまでには「ケンカの真相」レポートを完成させることが出来るだろう。

 

 なぜ、今回の口論の内容を詳細に書くことにしたのか。それは「メディアに出るな」という参院自民党の一部の幹部の主張がいかに論理性を欠くものか、その理由として持ち出されている事実関係がいかに不正確で感情的なものなのかを、出来るだけ正確に記録しておきたいからだ。そして、ここ数回にわたって描いてきた議員達の言葉の中には、自民党の古い政治家の思考形態や参議院独特の政治文化が凝縮されている。自民党政治の研究者なんかには、結構面白いケーススタディーになるかもしれない。さらに言うと、このメディア騒動の顛末をレポートに残しておくことが、将来、必ず何かの役に立つ。そんな予感もある。

 

 ところで、先週は2度、安倍晋三幹事長に会った。経済制裁法案についてはもちろん、TV出演の件についても改めて相談した。安倍さんとの会話の中で、ひとつ嬉しい言葉があった。それは、「TVに出てる自民党議員はいろいろいるけど、山本さんの発言は、ちゃんと党の立場を踏まえている。きちんとした正論だよね。みんなあまりそこを分かってないんじゃないかな。」というものだった。超多忙な安倍幹事長が、山本一太のTVでの発言を(一部ではあっても)ちゃんとチェックしてくれている。これにはちょっぴり感動した。安倍氏と交わした会話の詳しい内容は書かない。が、ハートの大きな安倍さんは細かいことは言わなかった。こいうとこが魅力なんだよなあ。顔を合わせる度に、「この間も話したけど、テレ朝には出演しないでくれよな、これはお願いだ。」などと、しつこく繰り返すような小物政治家とは全然違う。

 

 さて、ケンカの場面に再び戻りたい。議院運営委員長のもとを離れようとした瞬間、某副幹事長から呼び止められた。相手から発せられた一つ一つの言葉を思い出しながら対決シーンを再現してみたい。「山本さん、もう後はないからね!」期せずして、議運委員長をはさんで議論する形になった。「え、00さん、それは一体どういう意味ですか?」「どういう意味もなにもない。今度出るなら、あんた委員長をやめて出ろということだよ。」

 

 なんという横暴な言い方。ついつい声を荒げてしまった。「なんだよ、それは。どんな権限でそんなこと言ってるんだ!」むこうも同じトーンで反撃してきた。「言っておくが、これはオレ個人の意向じゃない。幹事長室全体の考えだ。」ここからは売り言葉に買い言葉、完全に口ゲンカの領域に突入した。「へえ、さっき幹事長と直接話したけど、処分するなんて全く言ってなかったぞ。」そう言葉を返しながら、つい10分前に幹事長と話した場所を右手で指さした。

 

 その動作が気に障ったのか、某議員はいきなりその右手をバシッと払って(あ、暴力ふるったな)興奮気味に言った。「おまえなあ、(この言い方ひどいと思いませんか?)人のことを指さすなよ!(あのねー、あんたを指したわけじゃないんだよ。)」よっぽど右のパンチで応酬しようと思ったが、ぐっと我慢した。(いけない、いけない、子供のケンカじゃあるまいし…明日の新聞に書かれちゃう。)

ーー東京駅で午後4時過ぎの「のぞみ」をキャッチ。ここからは「のぞみ」の車内からのレポートーー

 

 「なんだよ。」「そっちこそなんだ。」2人の真ん中に立ちすくんで(?)いたジェントルマンの議運委員長が、たまりかねた様子で、「まあ、まあ。」某副幹事長もこのままではマズイと思ったのか、少し抑えたトーンで、「いや、国対(国会対策委員会のこと)とか議運(議員運営委員会のこと)からも、あなたがあまりメディアで発言すると、野党につけ込まれる。守り切れないって言ってきてるんだよ。」と言った。こちらも冷静な口調で、「だって、たった今、ここにいる議運委員長が、ちっとも問題になってないと言ったでしょう。」と切り返した。これを聞いた議運委員長が少し困惑気味に、「いや、そういえば党の副幹事長会議みたいなもので、あなたの名前が出たという事実はある。」

 

 これは、しばらく前の話だ。昨年12月だったと記憶しているが、テレビ朝日の「サンデープロジェクト」に高村元外務大臣と一緒に出演したことがあった。その数日後に行われた党の幹事長・副幹事長会議でテレ朝問題が取り上げられ、「党幹部の出演を自粛しているのに、このあいだのサンプロに自民党議員が出た。高村氏は元外相なのだから控えるべきではないか。」とか、「一緒に出演した山本一太は党幹部ではないが、外交防衛委員長なので不適切でなないか。」(参議院サイドからの発言)などという意見が出されたことは聞いていた。

 

 そのことと、議運で問題になっているかどうかは別の次元の話だ。議運委員長の言葉には答えず、相手の目を見ながらこう続けた。「それから、幹事長室の総意だって言うけど、青木幹事長は《出たら何らかの処分をする》なんて言ってませんでしたよ。」「いや、幹事長は優しいからね。」ここでまた議運委員長が言葉を挟んだ。「いや、山本君の発言はちゃんとしてるんだけど、あまり頻繁にTVに出るもんだからね。(そんなに出てないんだけどなあ。イメージでしょう)いろいろ、やっかみもあるんだよ。(ああ、また例の嫉妬トリオか…)」

 

 ここらへんからは、かなり平静なモードに戻った。某副幹事長がちょっと柔らかい表情になって言った。「まあ、オレと山本さんは、別に仲が悪いわけじゃないんだから。オレ個人としては、あなたの発言は悪くないと思ってる。ただ自分にも(皆の意見をまとめる)立場があるからね。テレ朝がどうのというより、委員長だからという問題なんだ。」「テレ朝の問題については、少し慎重に考えると幹事長にも言ったんです。でもね、00さん。外交防衛委員長だから、メディアで一切発言してはいけないというのは、そりゃあ、納得出来ない。委員会審議に支障をきたすとか、院の秩序を乱すとかいうなら別だけど。委員会運営とは関係ないし、コードを守って発言してるんだから。」(だいたい野党が何もクレームをつけてないのに、何かあったら責任取れないから発言するなという理屈は、まさに為にする議論としか思えない。)

 

 ガンガンやり合っている時に、ふと思った。そうだ。最近ほとんど話す機会がなかったが(幹事長室に行くこと自体が少ないので)自分はこの人物が嫌いではなかった。喧嘩っ早いけど、正義感が強くて、さっぱりしてる。年齢は自分よりかなり上だが、改革派だ。前回の衆議院選挙の直前、超党派の議員連盟で素案を練ったマニフェスト法案についても、執行部で理解を示してくれた数少ない1人だった。

 

 そんなことを考えながら、「ま、ちょっと興奮して失礼な言い方をしたことは、謝ります。少し誤解していた部分もあったし。でも、いろんなところで誰かが発信しないといけない。それが自民党のためです。微妙だと思う時は一応相談しますから、つまんないこと言わないで(出演依頼があったら)出させてくださいよ。」とかなり低姿勢で(無理に笑顔を作って)言った。某議員もスマイルを見せた。「いや、オレの方も処分するなんて言っちゃったけど、そんなこと出来ないんで…ま、立場ってこともあるし、さ。」最後はニッコリ笑って握手。その場を離れた。別れ際に議運委員長が、「うん。とにかく、こうやってケンカが出来るってのはいいことだ。」(???)と笑いながら言っているのが聞こえた。後で経団連の関係者に聞いたところでは、回りの人は皆「耳ダンボ状態」になっていたらしい。(そりゃあそうだろう。)

 

 以上が「山本一太VS某副幹事長」のケンカの一部始終だ。かなり正確に再現出来たと思う。今回のことに限らず、常にこっちのやってることに陰でクレームをつけ、足を引っ張ろうとしてきた中心人物が、今回対決した某副幹事長でないことは最初から分かっている。別に実害はないので、これまでは気にもとめなかった。結局のところ、背後のもっと大きな力に操られているにすぎないからだ。

 

 もう一度ハッキリさせておくが、「常任委員長だからメディアで発言してはいけない」という理屈だけは絶対に受け入れられない。それは、個々の国会議員の自由な意見表明さえ、支配者の力(裁量)でコントロールされるという「独裁国家」状態を生み出すことになるからだ。

 

 ある先輩議員(衆議院議員)が、いつものかるーい調子で、こう言った。「なんか参議院には、参議院のルールがあるそうだね。」いかにもそれに従えばいいというトーンだった。これには無性に腹が立った。全然分かってないよな。過去8年、自分がどのくらい必死に「参議院の古い秩序」と戦ってきたか。そして「暗黒時代の参院自民党」でどれだけ大きな圧力に耐えているか。分かってないよな。

 

追伸:

1.ここに登場した某副幹事長には今晩、手紙を書くことにした。明日の午後にでも渡しにいこうと思っている。ケンカしないと分からないこともあった。

2.名古屋で行われた自民党愛知県連主催の参議院選挙候補者予備選の討論会は(ひとことで言うと)なかなか素晴らしいイベントだった。改めてレポートしたい。