クラスの先生からひいきされる生徒のことを、英語で「PET」という。「彼は(彼女)は00先生のPET(ペット:お気に入り)だ。」というふうに使われる。自分が所属する組織のトップに可愛がられたら、他のメンバーより多くのチャンスが与えられる…らしい。(自分はそういう目にあったことがないので分からないが…)が、それは逆に「負のイメージ」にもなる。あいつは体制派だからなあ、みたいな。人間の世界は難しい。どんな悪口を言われてもいいけど、政治家として、誰かの「茶坊主」とだけは呼ばれたくない。

 

 石破茂防衛庁長官のことを「オタク長官」などと揶揄する人がいる。安保政策に詳しいことがまるでマイナスであるかのような言い方だ。なんと的はずれな指摘だろう。石破さんが大臣だったから、有事法制やイラク支援法の審議を乗り切ることが出来た。自分が担当する政策分野の知識もなく、官僚の作った文章をそのまま読み上げるような昔風の閣僚(政治家)は、けして活躍出来ない時代になった。

 

 答弁ということでいえば、間違いなく「自民党史上最強の防衛庁長官」だ。石破大臣は自分がずっとライフワークにしてきた分野で、政治家として歴史的な役割を果たしている。それこそ命を削るような毎日だと思うが、きっと「政治家冥利に尽きる」時間を過ごしているに違いない。恒久法の問題もあるし、国民保護法制もこれからだ。石破大臣にはまだまだ頑張ってもらわねばならない。

 

 さて、前回のレポートで約束したとおり、「ケンカ」の続きを書くことにしよう。昨晩の午後7時過ぎ。経団連会館で行われた参院自民党と経団連の新年懇親会に合流した。立食形式の小ホール(会議室?)では、ちょうど青木幹雄自民党幹事長が挨拶をしているところだった。その近くにはグラスを持った奥田経団連会長(トヨタ社長)がいた。ざっと会場を見渡してみると、参院自民党幹部がズラリと揃っている。世耕弘成氏や小林温氏の姿も見えた。お、某副幹事長もいる。こちらに気づいた様子だった。もちろん、目線は合わせなかった。

 

 乾杯の後で、ガヤガヤした会場をスラロームした。数名の同僚と言葉を交わしながら前方に目をやると、経団連幹部と談笑する青木幹事長の姿が目に入ってきた。その距離、約12メートル。(香港の人気監督、ウォン・カーワァイの映画「恋する惑星」のワンシーンじゃないけど。)「そうだ。幹事長に特定船舶入港拒否法案のことを報告しておかないと。TV出演の件も何か感触が分かるだろう。」そう思いながら、話しかけるタイミングを探ったが…これが、なかなかうまくいかない。あ、また、どこかの社長と話している。5分ほど経団連の若いスタッフと話をして、もう一度目線を戻すと…お、今がチャンスだ。背後から足早に近づいて声をかけた。「幹事長、ちょっといいですか?」「お、あんたかね。」ここからは出来るだけ正確に会話の中身を再現したい。

 

 まず特定船舶入港禁止法案の現状を説明した。「あのう、例の北朝鮮に関する船の法律ですが、先週の拉致対策本部と三部会の合同会議で我々の作った法案要項を説明し、このまま条文の段階に進めていくことの了解を得ました。(参院自民党の幹事長は拉致対策本部のメンバーだが、たまたま欠席だった。)」青木氏はこちらの肩に手を置きながら、「うん、うん。」と答えた。「今日の午後、法案の準備をしてきた若手の有志と会議をやりました。来週の金曜日あたりにもう一度、三部会の合同会議を開いてもらい、条文に近いものを議論することになると思います。そんなペースで進んでますので、ヨロシクお願いします。」青木氏は少し下を向きながら、再び「うん、うん、分かりました。」と言った。

 

 そこでさらにこう切り出した。「それから…TV出演の問題ではいろいろとご迷惑をおかけしているようで、すみません!」この言葉を聞いて、青木氏の声のトーンが急に上がった。こちらの肩をポンポンと叩きながら、「うん、うん、あれは大意はありません。いやあ、いろんな人がね。僕のところに来て、あんたがTVに出るのはまずいと言うんですよ。(いろんな人って、だいたい誰のことか分かってるんだよな。)ま、委員長という立場だからね。やっぱり、そりゃあ、考えてもらわんとねえ。」(なんて恐ろしい人だろう。これ、賛辞です。)そこでこう切り返した。「TV朝日のことは、少し慎重に考えます。でも、外交防衛委員長だから、外交安保の分野についてマスコミで発言してはいけないというのはちょっと納得出来ません。ちゃんとルールを守って慎重に発言してますので。」青木氏はちょっとニッコリしながら、なだめるように、「いや、それは分かる。それは分かるけど、やっぱり委員長だからねえ。」と優しい口調でくり返した。

 

 ひるまず、穏やかな口調でさらにさらに切り返した。「今までTV出演する場合は、いつもメモか電話で事前に幹事長に報告してましたが、これからは内容についても相談します。ちゃんと番組を精査した上で(出る)ようにしますから。」「うん、よく精査してね。よく精査して。まあ、大意はありません。」軽く頭を下げて、その場を離れた。今後出たら処分するとか、出演したらいけないとは一言も言わなかった。

 

 そうだよな。こんな大物幹事長が、「今度山本一太がTVに出たら、処罰しなさい!」などという馬鹿なことを言うわけがない。そんなことを考えながら、すっかり喉が渇いていることに気がついた。ウーロン茶のおかわりを取りに行く途中で、今後は参議院の議院運営委員長にバッタリ。いいところで、いい人に会った。さっそくこう話かけた。「委員長、私のTV出演の件が議運でも問題になっているようですが…。」

  

 さて、この後、いよいよ某副幹事長との対決の場面がやってくるわけだが…ふと時計を見ると、午前12時を回っている。この続きは次回のレポートに書きます。念のために言っておくが、この人物と怒鳴り合いを演じながら、「ああ、しばらく会ってなかったけど、実は自分はこの人が嫌いではなかった。」ということを思い出した。少なくとも、政治家の直感で分かる。「陰で絶対卑怯なことはしないタイプ」だ。

 

追伸:

 同僚議員がこっそり教えてくれた。ある人物が、参議院のスタッフに、「過去に常任委員長がTVで発言して、院内の秩序を乱した例があるか、またその発言によって処分された例があるか。」「委員長の院外の発言を押さえる理屈がないか。」みたいなことを調べるように指示を出したらしい。

 理論武装をしておこうということのようだが、もう、ため息しか出ない。そんな事例があるわけがない。だいたい、これまで参議院の常任委員長でマスコミに呼ばれる政治家なんて(恐らく一人も)いなかったのだから。(こっちのほうがずっと問題だ。)こんな嫌がらせを考えている暇があったら、もっと大事なことに時間を使ってほしい。まったく。