どこの世界にもいる。とても嫉妬深くて、権威主義的で、そして実力者のご機嫌ばかりうかがっている人間が。今回のTV出演騒動で、改めてそのことを実感した。小学校時代、クラスにいたイヤーな風紀委員ー担任の教師の権力を傘にきて、何かあるとすぐにその先生にいいつけるヤツーのことを思い出した。

 

 どんな社会にもいる。自分が中心になってやっているくせに、「どこどこの偉い人の意向だ」みたいな言い方をするタイプの人物が。「この件は00が厳しくてね。」「この話は00が熱心だからなあ。」責任を押しつけあうのは、自分が悪者になりたくないという心理だろう。信用するのは…安倍幹事長から直接出てくる言葉だけだ。

 さて、「自民党幹部のTV朝日出演自粛」という流れの中で、1月28日深夜の「朝まで生テレビ」に生出演した。なぜそうしたのか。その1のレポートでは書けなかった理由について説明しよう。

 

 まず第一に、TV朝日問題についての自民党の基本的な立場は変わっていない。「ニュース・ステーション」や「TVタックル」の公正を欠いた、また不正確な報道に対する措置として「党幹部は同局の番組への出演を控える」というものだ。この件については、先日、改めて党の責任者に確認した。「山本さんは幹部ではない。だから、このルールは適用されません。」という回答だった。

 

 その後、(2週間ほど前だったと記憶しているが)派閥の総会で党副幹事長を務める某代議士から、この件に関するこれまでの経緯と現状の説明があった。出席者に配られた「テレビ朝日の問題報道に関する経緯について」と題した紙には、「…という原因で今日に至るまでテレビ朝日から誠意ある回答がないため、幹部の出演を見合わせている」と書かれており、さらに「本問題については、PBO(放送論理・番組向上機構)に審査を申し立てると同時に、総務省に質問書を発した」とあった。文章は「(テレビ朝日側から)近く回答があるものと考えている」と結ばれていた。

 

 某代議士の話はこうだった。「党としては、今後も、党幹部の出演を見合わせる方針を続けます。個々の議員の方々には、ここに書かれている流れを踏まえた上で、それぞれ判断していただきたいということです。」出演を禁止するという表現は一切なく、あくまで自粛してほしいというニュアンスだった。そりゃあ、そうだ。こんなこと強制出来るはずがない。

 

 強制ではないにもかかわらず(まあ、自粛を要請してきた同僚議員の立場も考慮して)、その後、いくつかの番組からのスタジオ出演依頼を断った。今回は深夜の放送枠で、しかも「憲法改正」という、政治家としてぜひとも議論したかったテーマだった。だから自分の判断で出演を決めた。しかも(了解を取ったなどとは言わないが)何人かの党のキーパーソン(名前は言わないが)には、事前に話を通しておいた。

 

 ちなみに、「ニュース・ステーション」の報道は、選挙直前ということを考えれば、明らかに中立性を欠いていた。さらに、「TVタックル」で事実を歪曲された藤井孝男代議士が怒るのも当然だと思う。中立性や公平性を損なう報道については、与党として(冷静に)きちんとした手続きを踏んで対応することは重要だ。政権党とメディアは健全な緊張関係を保っていかねばならない。現在の曖昧な関係を矯正するために党幹部の出演を見合わせるというのも、ひとつの戦略だろう。が、党所属の国会議員全員に、あるTV局の番組の出演を「禁止する」などというのは、さすがに聞いたことがない。それが分かっているから、党も「自粛」という表現を使っている。つまり、上記の事情を踏まえて、個々の国会議員が自らの責任で、自主的に判断せよということだ。

 

 第二に、自分がTVに出ることは、自民党にとって、けしてマイナスになっていないと確信している。民主党の若手議員からよく言われるセリフがある。それは、「山本さんは、ある意味、罪作りだよな。山本さんみたいな改革派イメージの強い政治家がメディアに出ると、視聴者は、(なんだ、自民党にもクリーンなイメージの議員がいるんだ)と思ってしまう。それが自民党支配を助けることになってるんだから。」「そんなことないよ。自民党にだって鮮度のいい部分はある。希望がないわけじゃない。」いつもそう答えている。僭越ながら、参議院議員としては、「自民党のイメージアップに最も貢献している政治家の一人」だと自負している。

  

 第三に、党の政策に反した言動を行っているわけではない。執行部を激しく批判しているとか、党の方針と全く違うことを主張しているというなら話は別だ。が、そうした問題発言をした憶えは(全くと言っていいほど)ない。それどころか、野党議員を含む他の出演者から集中砲火を浴びる場面があっても、ひるまずに小泉総理の改革と小泉自民党の立場をアピールしてきた。改革を応援する姿勢は一貫して変わっていない。

 

 第四に、イラクへの自衛隊派遣について国民の賛否が分かれている現状において、「発信力」を持った自民党議員は、出来るだけメディアに露出し、国民への説明責任を果たさねばならない。石破茂防衛庁長官が、あらゆるマスコミを通じて自衛隊派遣の正当性について説明を繰り返している。これは、素晴らしいことだと思う。が、政府にだけまかせておけばいいというものではない。自民党議員の1人1人が、あらゆる機会にこの問題を語らなければならない。それが、自衛隊によるイラクへの復興支援という小泉総理の決断を支え、日本の貢献を成功に導くことになる。自民党がいくらいいことをやっても、「発信」しなければ(国民に認知してもらわなければ)意味がない。

 第五に、「外交防衛委員長はメディアでの発言を控えるべきだ」というのは、どう考えてもおかしな理屈だ。米国でもヨーロッパでも韓国でも、外交委員長は積極的に発言している。発信することは、むしろ立法府のメンバーとしての責務でもある。もし、外交防衛委員長が外交や安全保障の分野で発言することを許されないなら、すべての常任委員長は担当する分野の問題についてTV出演はもちろん、新聞や雑誌のインタビューまで受けられないという論理になってしまう。こんな馬鹿げた話はない。そうだとすると、5人の有志と一緒に準備してきた2本の経済制裁法案についても、全く発信出来ないということか。これって明らかに法案の妨害だ。

 

 この件については、複数の友人(政治学者やジャーナリスト)の意見を聞いてみた。「そりゃあ、いくらなんでも、おかしい。」というのが皆の意見だった。「一太さん、それは一種の嫌がらせか、嫉妬・やっかみの可能性が強いんじゃないかな。男の嫉妬は、怖いからね。」

 

 加えて、ここ最近のTV出演においては(変だなあと思いながらも)「参議院外交防衛委員長」というタイトルは使っていない。参議院議員という立場で発言をしている。しかも、国会審議や委員会に関係することについては、出来るだけコメントを避けてきた。

 

 第五に、ごく最近、TV朝日に出た自民党の衆院議員には、こんな呼び出しも警告もなされていない。たとえば、先週のTV朝日「スーパーモーニング」で外為法改正について(有志グループを代表して)話してくれた盟友・河野太郎議員に聞いてみたが、「ええ??そんなお咎めは一切、ありませんでしたよ!」ということだった。今回の動きは、参議院自民党独特の対応ということなのだろうか。

 

 午後2時過ぎに、この問題の担当になった古屋圭司衆院議員(党副幹事長)と電話で話をした。古屋氏の説明は論理的でそれなりに説得力があった。(古屋さんは、「強制力はないけど、限りなく強い要請ということかな」と言っていた。)なるほど、テレビ朝日への出演を自粛してくれというのは、それなりの理屈がある。しかしながら、「外交防衛委員長だから、TVに出てはいけない」というクレームはとても承伏出来ない。古屋議員も、「いや、それはTV朝日への出演を自粛してくれということであって、すべての番組で発言を控えてくれということではないよ。誤解のないように。」と話していた。

 

 「公正・中立を旨とする常任委員長がメディアで発言すると、国会対策で野党につけこまれる」ということも言われているらしい。これも的はずれな指摘だ。個人的な信条や考え方を、委員会運営に持ち込んだことはない。参議院議員として発言したことと、委員長としての仕事は全く別の次元の問題だ。だいたい、常任委員長は(建前上は)中立な立場を保たねばならないとはいっても、与党の委員長が自らの判断で委員会審議を進めるなどということは不可能だ。常に与党の国会対策委員会と相談しながらやる。当たり前のことだ。

 

 電話のやり取りを聞いていた政策秘書が驚いていた。「野党が実際にクレームをつけてきたわけでもないし、党是に反した意見を言ってるわけでもないし…何でなんですかね。」野党が、「山本委員長のTVの発言がけしからんので、審議に応じない」などと言うことがあるだろうか。少なくとも外交・防衛委員会でそんなことが起こるとは思えない。与野党ともに最高の人材が集まる委員会なのだから。実際、「朝まで生テレビ」では、外交・防衛委員会の理事である共産党の小泉親司議員と堂々と議論を交わした。イラクへの自衛隊派遣の問題が微妙?これは特別委員会の担当であって、外交・防衛委員会が受け持つわけではない。そういえば、武見敬三参院議員が言っていた。「まあ、理屈はいろいろつけてるようだけど、結局は(ためにする)議論だ。あんたのことが面白くないってことだよ。以前から言ってるように、変な奴らがあんたの悪口を言ってる。足を引っ張られないように気をつけたほうがいいよ。」

 

 さて、午前中に参院自民党の幹事長室の某副幹事長から「呼び出し」があった。もちろん、TV出演の日に電話をかけてきた議員からだった。別の副幹事長(1期目)がわざわざ事務所に「金曜日の出演の件で、幹事長室に報告に来てほしい」という伝言を持ってきたそうだ。(自分だったら、他の議員にこんなパシリみたいな失礼なことはけしてさせない。)さっそく事務所から幹事長室に電話をかけ、本人と話した。

 

 内容は、「TV出演の問題が深刻な状況になりつつある」という警告だった。「テレビ朝日と自民党の問題もあるし、外交防衛委員長という立場もある。TV出演を控えてもらいたい。」けわしい調子だった。「そちらのメッセージはちゃんと受け取りました。その上で(状況を見ながら)自分で判断しますから。」と答えた。副幹事長会議で山本一太という名前が出ているとか、幹事長を含む党内のあちこちから懸念の声が上がっているとか、どこそこで問題視されているとかいう話が続いた。「TVタックル」に出演が決まっていた某参議院議員にも同様の要請を行い、「今回限り」ということで納得してもらった(あれ?聞いてたのとちょっと違うな)という意味の話もあった。

 

 議論しても仕方がないと思いつつ、「外交防衛委員長だからメディアで発信してはいけないというのは、ちょっとおかしいんじゃないですか?」と(冷静に)反論した。さらに、「党がそんなに一生懸命やっているなら、TV朝日の(スーパーモーニング)に出た河野太郎氏にも注意がいっているということですか」と聞くと、「そうです!」(あれ?これも事実と違うな)という答えが返ってきた。

 

 しばらく会話をした後、某議員は少し苛立った様子でこう言った。「とにかく、今後またTVに出演するのであれば、もう党に報告する必要はありません。それでは受理したみたいになってしまう。」このコメントには少し驚いた。これは一体、何の権限で言っているのだろう。党の幹事長のセリフなら分かるけど。さらに、「その場合は、対応を幹事長室と国対(国会対策委員会)に委ねてもらわなければなりませんから。」という言葉が加わった。「なるほど。それはもう一度TVに出たら、何らかの処分があるということですか?」「そうです!」このフレーズにはさらに驚いた。電話を切った後、部屋に入ってきた政策秘書がつぶやいた。「こんなことで、処分?ですか。うーん。どんな処分なんでしょうね?」「さあ、なんだろうねえ。」

 

 自民党という政党は、明らかに金属疲労を起こしている。が、他の政党にない自由な雰囲気があることも事実だ。誰でも自由に自分の意見を表明出来るという懐の広さがある。党内に多様な意見があることが、実は自民党の強みにもなっている。睡眠時間を削って必死に政治の仕事に取り組み、苦しい時も党を離れず、常に党のアイデンティティーを持って発言し、そして党の政策と小泉改革の必要性を懸命に訴え、党のイメージアップに貢献してきた国会議員が、「TV出演自粛」という方針に従わなかったからといって、大政党自民党が「処分を下す」などというケチなことをするはずがない。独裁国家じゃあるまいし。こんなことで処罰されるとすると、イラク派遣の国会承認に参加しなかった議員に対しては、さぞかし重い罰が下されるに違いない。

 

 最後にもう一度、この問題についての自分の立場を明確にしておきたい。テレ朝問題についての党の責任者である古屋圭司氏の説明は、十分に理解した。TV出演の依頼を受けるかどうかは、古屋氏のいう党の方針を十分に勘案した上で、自らの責任とリスクで判断する。自粛する場合もあれば、出演するケースもあるかもしれない。あえてTVメディアで発言する場合は、(従来どおり)党本部の担当者に通知し、(いつものように)数名の党幹部に仁義を切り、そして(これまでと同様)衆参の幹事長に連絡した上で、決行(?)するつもりだ。

 

追伸:

1.組織に属している以上、基本的なルールには従う。それぞれのメンバーの役割にも敬意を払う。それは政党でも同じことだ。が、政治家はすべて選挙で当選して国会にやってくる。その意味では皆、「同格」だ。年功序列と派閥人事で少し早くポストについたからといって、まるで自分が他の議員より偉くなったかのように勘違いしている議員も少なくない。こういう政治家に限って、小さいことまでいちいち管理しようとする。

2.参議院の常任委員長は(世間的には)全く注目を集めていない。だからこそ、「参議院外交防衛委員長」として、あらゆる場所で発言したいと思っていた。それがこのポストの存在感(プレステージ)を高めることになるからだ。委員長として米国議会とのパイプを作り、韓国や中国の外相クラスと会える前例を作り、そして国連のアナン事務総長とも意見交換の出来る環境を整えたいと考えていた。そして次の委員長が与党であろうが、野党であろうが、メディアで発信出来る道筋を作り、自分の開拓したネットワークを引き継ぎたかった。残念だ。少なくとも、韓国の外交通商大臣と会った実績だけは次の委員長にしっかり受け継いでもらいたいと思う。