午後2時。妻と一緒に上海空港から東京へ向かう飛行機に乗った。もちろん帰りもエコノミークラス。機内食を食べ、熱いお茶を飲んでから、パソコンの電源を入れた。隣の席では奥さんがより小型で性能のいいコンピューターを使って何やら英語の文章を書いている。ううむ。キーボードを打つスピードはやはり彼女のほうが早い。(負けたな。)それにしても、上海はエネルギッシュな空間だった。活気に溢れた街の光景が次々と浮かんでくる。

 

 中国についてはいろいろな見方がある。長年中国問題に取り組んできたある外交官が言った。「中国という大型の自動車は、ひとつひとつのパーツをよく見ると欠陥が多い。さらに燃料も正しく注入されているとはいえない。それなのに世界から(このまま走り続ける)と思われている。なぜそう思われるのか、その原因を探れと部下に命じているんですよ。」

 

 北京で会った中国政府の高官はこう話していた。「中国経済には、バブル現象とか、不良債権とか、いろいろと深刻な問題が内在している。が、中国はこれからも高度成長を続けるだろう。ただし、(内需)が拡大し続けることが不可欠な条件だ。」

 

 中国でビジネスを成功させた同世代の企業家(台湾系)の見解はこうだった。「あなたが言うとおり、中国は100%民主主義の国ではない。それは皆、分かっている。ただし、現段階で多党制を導入したら、この国は分裂してしまうだろう。現在は過渡期だ。まず経済成長を優先させるべきであって、そのための政治的コスト(不自由さ)は我慢しないといけない。」同じテーブルで四川料理をつついていたもう一人のビジネスマンがつけ加えた。「民主主義が不完全だなんて大したことじゃない。この国全体を覆っている官僚の腐敗と拝金主義のほうがずっと大きな問題だ。」

 

 丸2日間、上海の街をあちこち動き回った。外灘(バンド)から久々に絵葉書の景色を眺め、繁華街を歩き、デパートで買物をし、骨董街をのぞき、気さくな上海料理のレストランで食事をし、伝統的な茶屋で中国茶を注文し、夜は上海の若者が集まるバーでライブを聴いた。あらゆる場所で様々な中国人と話をした。新しいものと古いものが混在し、融合する中で生まれた「上海ヘレニズム文明」のエネルギーを改めて感じた。

 

 上海は凄いスピードで進化している。3年前と比較して、まず、道路がよくなった。(東京に比べたらまだまだ雑然としているが)街全体もずいぶん奇麗になった。高層ビルやマンションの外観もモダンになった。それ以上に変わったのが、改革開放路線になかなかついてこれなかった人々の意識だろう。ホテルでもレストランでも、中国人スタッフの接客態度は格段に向上した。もちろん、表面的には変わったように見えても、一皮剥けばちっとも変わっていない部分もある。

 

 おっと。揺れると思ったら、飛行機が降下を始めたらしい。続けて、機内アナウンス。「当機は最終の着陸態勢に入りました...すべての電子機器は電源をお切りください。」この続きは来年書くことにします。