自分の回りでこんなにもゆったりと時間が流れていく。この感覚、一体、何年ぶりだろう。さて、先日の訪韓レポートの続きを書きたい。




 まず、ノ・ムヒョン大統領の印象について。塩崎添久氏と河野太郎氏のHPのレポートにも、さっそく大統領との会談の内容が(かなり詳細かつ正確に)書かれていた。塩崎さんは「なかなかのステーツマン」、太郎ちゃんは「やさしい喋り方をする人」と描写していたが、大統領の持つ雰囲気をよく表した表現だと思う。「韓国、日本、中国を含む東アジアがEUのように連携し、新秩序を創っていけたらと思う。それにはビジョンが不可欠だ」という大統領のコメントには、自分も感銘を受けた。




 ノ・ムヒョン大統領は、山本一太がこれまで会った韓国の大物政治家とは明らかに違っていた。金大中前大統領とは、外務政務次官の時代に何度か握手した。が、まともな会話を交わすことは一度も出来なかった。大統領という絶大な権力を手にしたわけだから当然といえないこともないが、ちょっとガッカリした。18年前にジョージタウン大学で会った時と比べて、すっかり権威主義的な政治家になっている感じがしたからだ。




 二度にわたって大統領選挙に敗れたハンナラ党のイ・ヘチャン総裁には、昨年だけで三回会った。ノ・テウ政権で国務総理を務めた政界の重鎮。昨年の大統領選挙のキャンペーン中にも同じバスの隣の席に座らせてもらった。(これは破格のことだ。)イ・ヘチャン総裁には元最高裁判事という固いイメージがつきまとうが、実は気さくでユーモアセンスのある魅力的な人物。ただし、一貫してスーパーエリートの道を歩んできただけに、本音でイ総裁に進言出来る人物が回りにいないのではないかという危惧を持った。




 金大中政権で国務総理まで務めた知日派の大物、パク・テジュン元自民連総裁も非常に気さくな人物だ。知的でソフトな紳士だが、迫力もある。ここ一年ほどご無沙汰しているが、会うと必ず「おい、21世紀!」と声をかけてくれる。一時、日韓議連の韓国側の会長も務めていた記憶がある。早稲田大学卒だけあって日本語は完璧。日本人以上の(?)日本通だ。ソウルで「親子丼」をご馳走になったこともあった。でも、やっぱり話をする時は緊張する。なにしろ、韓国政界では、えらーい人なのだ。




 韓国政界を長きにわたって支配した「三金政治」主役の一人、キム・ジョンピル現自民連総裁もやはり国務総理を経験している大物中の大物。最近?ピョンヤンに招かれたことが話題になっている。(行くのかなあ?)キム氏とも数回、会合の席でお目にかかったことがある。が、やはりどこか近づきがたい雰囲気があった。それもそのはず。キム・ジョンピル氏やパク・テジュン氏が日韓議連でつきあってきたのは、歴代の総理経験者(竹下、中曽根、小渕元総理等)だったのだから。本来なら、日本の若手議員が簡単に言葉をかけられるような政治家ではない。




 これに対して、ノ・ムヒョン大統領には相手を威圧する感じがない。一見、三度笠の似合う旅ガラス(もっと正確に言うと、旅ガラス役を演じる旅芸人一座の座長)みたいな風貌だ。(ご無礼、お許しください。)とにかく優しい話し方をする。だいたいしゃべりながら、相手に「ちょっと長く話しすぎただろうか。このまま続けてもいいですか」なんていちいち断る大統領がいるだろうか。




 ノ・ムヒョン大統領は、高校卒業後、独学で勉強して弁護士になった。これまで何回も落選し、政治家としてけしてエリート・コースを歩んできたとは言えない苦労人。NPOや学生グループ等からの支持も強い。それだけに、これまでの大統領とは違う人脈を持ち、必要だと思えば相手のランクを気にせず会ったりするフットワークがある。理想を追い求めながらも、現実的で柔軟な思考や行動が出来る政治家という感触だった。




 5月中旬には初めて訪米し、ブッシュ大統領との米韓首脳会談に臨む。表向きの政府見解はともかくとして、ブッシュ政権内には韓国新政権に対する不信感が根強い。北朝鮮問題が重大な局面を迎えつつある中で、米韓関係はこれまでにない試練の時期を迎えている。日米韓の間に足並みの乱れがあっては、それこそ北朝鮮の思うツボだ。ノ・ムヒョン大統領なら、この難局をうまく乗り切っていけるのではないか。北朝鮮問題について語る姿を見ながら、そう感じた。




 続きはまた次回以降のレポートで。