衆議院から送られてきた最後の条約(アジア太平洋郵便連合憲章)は、参議院外交防衛委員会の与野党理事の話し合いの結果、来週早々に通過のメドが立った。これをもって今国会に提出された18本の条約すべてがクリアーされることになった。外務省担当の国会対策副委員長としては喜ぶべきことだとは思うが、ちょっと複雑な気分だ。もっとも国会の会期は31日まで。22日の週が郵政公社化法案と健保改正法案成立の最後のヤマ場だ。まだまだ気は抜けない。




 午前中の外交防衛委員会は、16日の「変える会」メンバーを招いての参考人質疑を受け、外務省改革についての自由質疑という形で行われた。外務大臣に対し、今回の経済協力局長人事について質問する。大臣は、「本日、その人事の質問が出る度に隔靴掻痒の思いをしている。が、これから正式なプロセスを経ていく話。一般論としてしか答えられない」と断った上で、「外部からの人事登用は組織の意識改革には有効である」ことを強調していた。




 経済協力局は、外務省予算の大半を占めるODA(政府開発援助)を握っている。外務省の意識改革を進めるためにも、経済協力局長にはかねてから外部の人材を登用すべきだと主張してきた。ここに目をつけた川口大臣はさすがだと思う。それでも、他省庁の官僚(しかも現職の経済産業省の役人)をそのまま引っ張ってくるという人事は意外だった。新しい経済協力局長は、どちらかといえば経済協力にも国際政治にも精通した新進気鋭の学者とか、国際派の民間経済人の抜擢を予想していたからだ。




 川口大臣が、自らの古巣である経済産業省から現職の審議官を持ってこようとしていることについて、外務省内には猛反発があるようだ。官房長は、「この人事は我々も了解しています」などと発言したが、幹部達が反対するのも当然だろう。経済協力分野での外務省と旧通産省の確執は非常に根深いものがあるからだ。




 古田審議官のことは個人的によく知らない。が、バランス感覚のある川口大臣が反発を覚悟でかつての身内を引っ張ったことを考えると、もちろん有能な人材であることは間違いないと思う。外部登用しようというある省庁の官僚の幹部ポストに、他の省庁の官僚を持ってくるというのはまさしく「官僚的発想」のような気がしないでもない。まあ、有能なテクノクラートでもある川口大臣としては、行政能力や管理能力があることを前提に、新しい発想を吹き込める人材を探したということなのだろう。




 自由質疑の委員会の中で、川口大臣に次のように申し上げた。「今回の人事が外務省改革や外交再生のためにどれだけのメリットがあるのかは、まだよくわかりません。ただ、大臣がそう決断したのなら、官僚の反応は気にせずにそれを貫けばいいと思います。考えてみると、これから作っていかねばならない新しい官業文化の重要なポイントは、省益や特定の省庁への帰属意識を薄めていくことでしょう。」




 それでも、なぜ経済産業省なのかという点はもう少し説明が欲しいなと思いながら、続けて二つのことを大臣に要望した。「この人事を契機に、外務省と経済産業省の本格的な交流人事を始めたらいかがでしょうか。経済産業省の局長ポストも外務省幹部に開放すれば、それこそ私の持論である外交・通商省構想にも近づくかもしれません。さらに、古田審議官には、省益を離れて国益のためにODAに取り組んでもらわねばなりません。経済産業省にはもう戻らない覚悟でやれと大臣の方からハッパをかけたらいかがでしょう。」大臣は、さすがにちょっと困った表情をしていた。




 外務大臣が決断した人事は重い。新しい経済協力局長の仕事ぶりには注目が集まるだろう。日本外交のために、現在の経済協力局長より何倍も活躍していただかねばならない。経済産業省はある意味で人材の宝庫。必ずそうなると期待している。




 それでも古田さん、外務省でリーダーシップを発揮しようと思うなら、省益にこだわらず率先してODA改革に取り組んでください。少なくとも経産省に戻らない覚悟は必要ですよ!その姿勢が見えれば、きっと外交政策新人類(新世代政治家)の応援を得られるでしょう。