月刊誌「論座」8月号に掲載された若手議員4人の宣言文を、改めてこのサイトに掲載します。

-新しい政治文化をつくりたい-

 山本一太(参議院議員 自民党)

 枝野幸男(衆議院議員 民主党)

 水野賢一(衆議院議員 自民党)

 福山哲郎(参議院議員 民主党)

 この通常国会はどう総括されるのだろうか。残念だが、有権者に一番印象を残したのが、またもや政治とカネのスキャンダルであることは疑いようもない。鈴木宗男議員の逮捕、井上裕参院議長、加藤紘一議員、辻元清美議員の辞職、鹿野道彦議員の離党。一連のスキャンダルは、政治家とカネの問題にとどまらず、政治家という存在やその仕事が常にある種のうさん臭さとともに語られるという深刻な事態を招いてしまった。危機感を込めていえば、政党政治や代議制民主主義の信頼性や正統性が揺らぎかねない事態とさえいえるだろう。

 

 では国会は、自浄作用というか、自然治癒力を発揮して何か新しいものを生み出したのか。そう問われると、これも胸を張れるような答えは見つけにくい。確かにあっせん利得罪の対象を広げることなどの検討がなされたが、こうした対症療法的な対応だけでは限界があることを、われわれは認めざるを得ない。規制強化だけでは、政治とカネの問題がさらに闇の奥深くに潜り込み、事態をより悪化させる恐れがあることを過去の数々の事件が物語っているからだ。

 ではどうすればいいのか。

 今こそ、国会議員自らが、政治家という仕事の実情、悩みを正直に国民に吐露し、そのあるべき姿について党派を超えた真剣な検討を行うべき時期にきているのではないか--。

 われわれ自民、民主両党の若手4人はそうした問題意識を共有するようになった。そして「隗より始めよ」で、まず自分たちの資金や活動を公開しようと話し合った。そのデータをたたき台に、そもそも政治活動とはどういうものなのか、そこにはどれくらいの資金が必要なのか、陳情も含め有権者とはどう対峙すべきなのか、といった議論を起こせないか。政治家同士そして有権者との間でそうした議論を積み重ねていけば、政治家の行動や資金をめぐるガイドラインが浮かび上がるのではないか。そうした透明性のある作業・論議こそが、いまの政治不信を払拭していく第一歩になりうると信ずるからである。

 それだけではない。党は違ってもそれぞれにこれからの政治を担っていきたいと考えるわれわれ若手には、ある共通した思いがある。それは、多くの有権者からうさん臭く思われたり、時には疎んじられるような、いまの日本政治の文化を変えたいという思いである。政治がそんな存在になってしまったのには、やはり「金権」や「口利き」という言葉に代表されるイメージが大きく関係していると思う。それを変えていくには、真剣に悩んでいる議員も少なからずいることを、まず知ってもらうことだとわれわれは考えたのである。

「共通の物差しづくり」

 一連のスキャンダルでは、議員の逮捕・辞職劇が相次いだ。しかし、それで政治は浄化に向かうとみる有権者は少ないだろう。その最大の理由は、多くの有権者が、政治とカネの問題には大きな闇が広がっていると感じていることにある。それは例えば、加藤議員の私設秘書が無理をしてでも集めようとした資金はどんな活動に必要だったのか、鈴木議員の事件で明らかにな?た「献金と口利き」の密接な関係はどの政治家も同じなのか、辻元議員の秘書と人件費の運用は特殊なケースなのか、といった疑問である。確かにこれらにはほとんど、いまだ答えが示されていない。当事者からの説明がないことももちろんあるが、そもそも国会議員の政治活動や扱う資金について、当否を判断できるような共通の物差しが存在していないことにも目を向けるべきではないだろうか。

 政治活動にはコストがかかる。しかし、その規模が野方図であっていいわけはない。では、どの程度が妥当なのか。議論はいろいろあるだろうが、そのガイドラインを語るにせよ、それを逸脱する資金の出入りに規制をかける論議をするにせよ、現状の政治コストに関する具体的なデータが示されることが前提となるはずである。しかし、現在の政治資金収支報告書などの公開制度は、過去に比べれば多少改善されたとはいえ、コピーが禁じられるなど有権者が手軽にアクセスし「監視」するにはほど遠いのが現状である。とりわけ総務省届け出分(いわゆる中央分)と都道府県の選挙管理委員会届け出分(地方分)とに収支報告が分かれていることは、われわれ公開する側から見ても、透明性を著しく下げていると認めざるを得ない。

 有権者からすれば、政治家という仕事を真面目に務めあげるためにはどれほどのコストがかかるのか皆目検討がつかないということであり、政治家の側も、そのために必要な情報の公開、説明責任というものを果たしてはこなかったというのが現実である。

 そこでわれわれは、自らの管理下にある政党支部・資金管理団体・政治団体(後援会)の収支をまとめて明らかにし、今国会で注目された秘書の実態についても、人件費を含め可能な限り公表することにした。国会議員は通常、一年間にどのくらいの資金をどこから集め、どこに使っているのかを知ってもらうためである。個々の内容は後述の説明や表を見ていただきたいが、われわれの目的は「自分たちはきれいだ」と強調することではない。むしろわれわれの悩みや制度の矛盾点などを知ってほしいのである。

 われわれは、政権与党の自民党と野党第一党の民主党に所属しているが、立場は違っても、政治のグレーゾーンにどう向き合うかに悩みながら、日々活動を続けているというのが正直な思いである。政治は人間の営みであるので、どうしてもグレーゾーンが生まれる。例えば、辻元議員らのケースで問題となった公設秘書の給与をどう扱うのか、何が合法で、何が違法なのか。少なくとも山本譲司議員が公設秘書の給与をピンハネしていたとして詐欺罪で立件される以前の永田町では、明らかに多くの事務所がその線引きがどこにあるのかを勘違いしていたと思う。

 秘書給与に限らず、カネをめぐるグレーゾーンは数多く存在している。もしかすると、自分も「違法」を指摘されることになりかねないという不安を強く感じながら政治活動をしているというのが、多くの国会議員の偽らざる現実ではないだろうか。

 その一方で、われわれには、有権者の人たちにも、もう少し政治とカネの実態を知ってほしいという思いがある。ちょっと商売に携わったことがある人なら、従業員5、6人の企業を経営していくのにどの程度のコストがかかるかを推定するのはそう難しくないはずである。しかし、政治が舞台となると、そうした理解はほとんどされず、「国会議員=金権」か「政治にカネをかけるのはおかしい」といった極端に偏った見方が広がっているのが現状ではないだろうか。

「陳情のガイドラインはつくれるか」

 政治資金の全体像を公開した試みとしては、十数年前の「ユートピア政治研究会」などの活動があった。今回のわれわれの行動も理念は同じだが、最近、国会議員やその秘書らによる「口利き」疑惑や秘書給与をめぐる不正疑惑が相次いだことを踏まえると、われわれとしては、政治家の活動の実態をもう少し幅広く公開することが必要だと考える。すなわち、(1)政治家として日常どのような種類の仕事や活動にどの程度の時間と労力を割いているのか、(2)政治家という仕事の何にどれだけの費用がかかるのか、(3)どこからどのような方法で資金を調達しているのか、(4)政治活動を行うにはどれほどの秘書、政策スタッフが必要なのか、(5)有権者からどのような陳情が持ち込まれ、それをどのような方法で処理しているのか、といった点である。

 とりわけ鈴木議員らの事件を考えると、国民が政治家に行う「陳情」については、そのあり方を基本に立ち戻って検討してみる必要があるのではないか。結果として、陳情処理をこれからも政治家の重要な仕事の一つとして位置づけることになったとしても、どのような種類の陳情を、どのようなルールで処理することが適切なのかは再検討しなければならない課題である。

 「陳情」という言葉で一括りに議論すると、非常にうさん臭いとか、それがイコールお金につながるというマイナスのイメージが広がっている。ただ、有権者からの「インプット」というものにはいろいろな類型があり、すべてが悪いものではない。有権者とのコミュニケーションを通じて政策や社会の問題点を抽出したり、われわれの立法作業や新たな政策づくりにつながったりすることはたくさんある。多少自負を込めていえば、われわれ4人は、立法府の人間として立法作業に関わりたいというモチベーションが強いほうだと思う。そういう文脈では、国民からのインプットというものは、われわれの政治活動に欠かせない要素なのである。

 問題となるのは、選挙区の自治体や支持者らから持ち込まれる行政などに対する働きかけの要望をどう考えるかということだろう。これに関してはわれわれの間でも見解はさまざまに分かれている。典型的な対立点は、

※地方分権が完全に進んでいない状況においては、国益を考える立法府の人間という側面と、地域代表という側面と、両方の顔を持たざるを得ない。

※地域代表という側面があることは否定しないが、そのことによって国全体のことを考えるという部分の時間が奪われているのは間違いなく、どちらを優先すべきなのかというジレンマと常に向き合っている。

ということになる。いずれにせよ、まず、われわれがどういう陳情を受け、それをどう処理しているかを知ってもらうのが出発点である。

『「片道切符」を解消するためにも』

 われわれの議員在職年数は9年から3年と開きがあるが、全員が「若手」と分類されている。こうした活動を始めると、永田町の中からは「若手だからそんなことができる。中堅以上になれば、きれいごとだけでは政治はできなくなる」といった冷ややかな視線を向けられたり、「自分たちだけはきれいだと格好をつけたいのだろう」と反発されたりする可能性もあると思う。

 繰り返しになるが、われわれの動機の第一は、まず国会議員の側が「こういう悩みがあって、こういうグレーゾーンの中で、自分たちなりに正しい政治活動を模索している」という姿を示す、そこから必要なコストや政治活動の線引きをめぐるコンセンサスを生み出すことで、自信をもって政治活動をしたいということにある。

 こうした作業は実は、現役国会議員のためだけのものではない。日本政治の世界はいまだに「片道切符」と言われる。政治家や政策秘書らを育てるための仕組みも、また政治の世界で経験したことが実社会や研究機関で正当に評価され、あるいは生かされる仕組みも存在しない。このような状態を放置したままでは、永田町へ新規参入しようという人材の先細りは避けられない。多くの課題があるが、資金も含めて国会議員として活動していくためのガイドラインを明らかにしていくことは、その最低限の環境整備ではないだろうか。

 政治資金を扱った人ならわかることだが、われわれが今回公開した様式は、現行制度の届け出内容と基本的には同じものである。すでに同僚議員の中にはこれに近い内容を自らのホームページ上で公開したり、会計監査を受けたりするなど、先進的な取り組みをしている議員もいる。われわれも今回の公開の仕方がベストだとは思っておらず、なるべく多くの同僚たちと共同でよりより公開の仕方を探っていきたい。政治資金収支のモデルケースを出したり、制度改正の提言などに進むことができたらとも考えている。

 4人の公開内容をみていただければ、すぐわかるのは、党によって、選挙区によって、実情や悩みは千差万別だという当たり前の事実である。しかし、だからといって、政治家という「職業集団」のガイドラインをつくれないということではない。政治家を選ぶのは有権者であり、いまの政治制度を受け入れているのも有権者である。

 新しい政治文化をつくろうという作業に、有権者のみなさんからの発信があれば、挑戦はそう難しいものではないとわれわれは信じている。