ここ数年間、河野太郎氏や馳浩氏、大村秀章氏らとともに続けてきた日韓の若手議員交流。最初から韓国側の窓口になってくれたキム・ミンソク議員との遭遇は、今からちょうど4年前のこと。




 当時メンバーの一人だった(現在も理事として所属)参議院の国際問題調査会で朝鮮半島問題を取り上げることになり、韓国政治の一人者である慶応大学の小此木政夫教授を参考人としてお招きした。その後まもなく小此木先生のご推薦もあり、半島情勢に関して毎日新聞紙面で行われた有識者座談会に声がかかる。メンバーは確か、小此木先生、韓国経済に詳しい深川由紀子氏(現在、青山大学教授)、そしてジャーナリストの重村智計氏だったと記憶している。




 翌日の紙面に大きく取り上げられたその座談会の中で、日韓の議員交流を推進する必要性について熱弁を振るった。「近く、韓国を訪問し、次世代の日韓議員交流を始めたい。」留学した米国ジョージタウン大学院の専攻は「アメリカの対東アジア政策」。セミナーの教授はブッシュ副大統領(当時)の外交アドバイザーを務めたドナルド・グレッグ氏(後に米国の駐韓国大使。)もともと、朝鮮半島の問題には興味があったし、当時から、韓国こそ日本の戦略的パートナーだという考えも持っていた。




 それでも韓国若手議員とのネットワーク作りを真剣に始めたきっかけは、やはりこの座談会だった。政治家としての「公約」は守らなければならない。




 韓国政界は日本以上に保守的で、典型的なボス政治。いわゆる三金時代(長老支配)が続く中で、30代、40代の国会議員の存在感は全く伝わってこない。日本で知られているとすれば、せいぜい韓国サッカー協会の会長として名前を売り、現代グループの御曹司として大統領を目指す50代のチョン・モン・ジュ氏くらいのものか。




 早速、独自のリサーチを開始。外務省、韓国大使館、日韓双方の学識経験者、ジャーナリスト、企業等に連絡を取り、「10-20年後に韓国でリーダーとなる可能性のある政治家」のリストアップをお願いした。送られてきた5つのファックスやメモを見ると見慣れない名前がずらりと並ぶ。そしてすべてのリストの一番上に書かれていたのが(やはり聞いたことのない)キム・ミン・ソクという文字だった。




 ふむふむ、この人物が韓国のニューリーダーなのか。経歴を調べてみると、次第に大変な人物であることが分かってくる。金大中大統領の要請を受け与党民主党(現在の新千年民主党)から国政選挙に出馬。ソウル選挙区で(最年少)当選。現在、33歳。国立ソウル大学卒業。米国ハーバード大学院に留学。ソウル大学学生運動のリーダーとしての活動により二年間の投獄を経験。若手議員の中では知名度抜群。国民的人気もあり。夫人はKBS(韓国国営放送)の美人キャスター等々…。なるほど、非のうちどころない経歴。話を聞けば聞くほど興味津々。よし、まずこの人物に会ってみよう。




 そうはいってもさすがに売れっ子。韓国の財閥系企業や大使館等、複数のルートで接触を試みるが、なかなか相手にしてもらえない。「もしかすると、日曜日に会えるかもしれない」という情報だけ受け取って、とりあえず土曜日の飛行機でソウルへ飛ぶ。最後はミンソク氏と個人的に親しい同世代の経済学者の力を借り、翌日の朝、滞在していたホテル(ホリデー・イン)のレストランで朝食を食べる約束をギリギリで取りつけた。




 そのキム・ミンソクは、不思議なカリスマとハンサムな笑顔を漂わせ、静かに入ってきた。なるほど、今まで会った韓国の国会議員とは全く雰囲気が違う。コミュニケーションはもちろん英語。どうしても会いたいと思ったこと。また未来の日韓関係は次世代の国会議員が協力して作らねばならないことを訴えた。ミンソクは「そこまでして自分を訪ねて来てくれたことに感動した。ぜひ、やろう!」二人でガッチリ握手を交わす。やはり人を動かすのは熱意。この時以来、「議員交流は第三者を挟まず(語学が出来るとか出来ないとかに関係なく)議員同士が直接話し合うことがすべての基本」という原則を貫いている。




 それから、一ヵ月後、河野太郎氏を誘って再度訪韓。お互いに5名ずつメンバーを選び、最初の会合をソウルで行うことを決める。こうして日韓若手議員グループ(「バクダンの会」)がスタート、定期的に交流を続けてきた。前回の会合は昨年の8月。新メンバーとして参加した野田聖子氏(元郵政大臣)がバクダン酒(ビールとウィスキーのちゃんぽん)一気飲みのセレモニーで日本側の名誉を守るため大活躍。酒豪ぞろいの韓国議員の度肝を抜き、衝撃のデビューを果たしたことは記憶に新しい。(詳しくは書きませんが、野田聖子さんて完全にラテン系。人間としてもすごく素敵な人です。)




 さて、前置きが長くなってしまったが、今回のミンソク議員との会談で感じたことはいくつかあった。まず第一に、金大中政権の求心力が低下し、ほとんどレームダック状態に陥っていること。(大統領の任期はまだ一年数ヶ月残っているにもかかわらず.…)支持率の急落やマスコミとの確執により大統領自身の指導力が低下しているせいか、与党(MDP:新千年民主党)内のグループ抗争も深刻化している。現時点では(多くのマスコミや有識者が指摘しているように)最大野党ハンナラ党のイ・へチャン総裁が時期大統領選挙に勝利し、政権交代が起きる可能性がかなり高い気がする。




 第二に、韓国側の教科書問題に対する反応と靖国問題の捉え方は明らかに違うということ。今回意見を交わした与野党の議員のほとんどは日韓関係の重要性を認識していたが、さすがに「教科書問題」では強硬な議論もあった。これに対し、靖国問題については「長期にわたってこじれるような話ではない」という見方がほとんどだった。




 第三に、現在の韓国政界のムードを考えると、日韓の首脳会談実現には、やはりある程度の時間が必要だということ。ここまでこじれてしまった関係を修復するためには事務方レベルの交渉ではムリ。やはり小泉総理と金大統領が率直に話し合うことがベストだと思うものの、残念ながら10月に上海で行われる予定のAPEC(アジア太平洋経済協力会議)首脳非公式会議において日韓首脳会談を行うのは難しいかもしれない。前述した政権基盤の脆弱化が、金大中大統領の政策の選択の幅をさらにせばめている。




 第四に、与野党を問わず、小泉総理に対する評価が思わしくないということ。かなりのタカ派で、日本の「右傾化」を助長するリーダー。そして長い議員生活の中でこれまで一度も韓国を訪問したことがない(アジアを知らない)首相というイメージが先行しているようだ。「小泉さんはキムチが嫌い」などという、いい加減な噂まで飛び交っている。総理、韓国料理好きですよね?こうした「誤解」は出来るだけ早く払拭する必要がある。そして最後に、今回の米国に対するテロ事件は日韓関係の絡まった糸を解きほぐす「きっかけ」になるかもしれない、ということ。米国から「無法国家」「テロ国家」と見なされてきた北朝鮮の反応という要素は勘案しながら、たとえば日本、韓国、そして長年テロ対策に頭を悩ませているフィリピンあたりで、テロリズムへの何らかの協調メカニズムを構築することも一考の価値があるのではないだろうか。




 夜11時過ぎ。ミンソク議員は4年前と同じ笑顔を漂わせながら帰っていった。今年の12月か来年の1月には、新たな若手メンバーと新たな「バクダン・ミーティング」のために来日することを約束して。そうそう、その前に(来月)野党ハンナラの若手議員グループ(約10名)が来襲?することになっている。次回は野党議員との会合について報告します。さあ、いよいよ戦い(国会)の時期がやってきた。