-「36万票」が意味するもの-




 昨日まで、株価が3日連続でバブル後の最安値を更新した。「日本株が割高修正をしているだけ。株安を騒ぎすぎ」という見方もあるが、小泉内閣による構造改革路線のブレーキになる、という点ではやはり深刻な問題。




 話題の「インフレ・ターゲット政策」の効果については賛否の分かれるところ。先般、党本部で行われた「日銀法改正研究会」(舛添要一氏や渡辺喜美氏らが主催)の最初の会合にも参加。自分なりにいろいろと分析を試みているが、今ひとつ確信が持てない。そりゃあ、そうだ。戦後このかた、デフレを経験した国なんて(当然、デフレ対策としてインフレ・ターゲットを使った例も)、現在の日本しかないんだから…。一つはっきりしているのは、このデフレーションという難病を克服するためには、十分な戦略と複合的なアプローチが必要だということ。国会が始まる9月からの数ヶ月間は文字通り小泉内閣、そして日本経済にとっての正念場になるだろう。




 さて、今回の山本選挙の勝因をマーケットの面から分析すると、「一部の情報操作や風評により、少数の有力投資家に多少の動揺が見られたものの、結局、一般投資家(有権者)の間で(山本売り)は最後まで起こらなかった…」という感じだろうか。小泉総理を誕生させた先の自民党総裁選挙ではないが、少数の権力者や特定のグループによって政治が動かされる時代ではなくなってきたということか。「組織ではなく、個人個人の判断が政治の流れを決める」傾向はこれから益々強まっていくだろう。




 どんな選挙も一人では戦えない。数え切れないほどの「厚意」に支えられて勝ち取った今回の当選は次の4つの点でとりわけ価値のある勝利だった。




1.参議院選挙は6年に一度。しかも全県一区という広い選挙区。初当選から6年間、知名度や組織を維持するのは容易のことではない。実際、群馬県の参議院選挙の歴史を振り返っても、二回目の選挙の得票が、一回目を上回った候補者はこれまで皆無。(平均で10万票近く、あるいはそれ以上減るのが通例。)そのジンクスを打ち破り、群馬選出の参院議員としてはじめて、前回選挙の票を(約2万票)伸ばすことが出来た。




2.前回(一回目)の選挙は、いわゆる「弔い選挙」で、自民党公認候補は自分一人というラッキーな状況。今回(二回目)は、二人の自民党候補者が立候補する(しかも相手は7歳年下の女性候補)という激戦だった。それにもかかわらず、候補者を一人に絞った前回の票を上乗せし、圧勝した。




3.三年前に行われた参院選挙では、現職の自民党議員二人が競り合い、二議席を独占。投票率も今回より2、3ポイント高かった。その際、大差でトップ当選した候補者(現職の先輩議員)の得票より、6万票余り多い票を獲得した。




4.組織票はもちろんのこと、候補者自身の魅力のバロメーターである浮動票、女性、若者、そして無党派層のすべてのジャンルでトップを取った。




 名宰相チャーチルだって選挙には常に泣かされた。「選挙に勝つこと」が政治家の目的ではない。それでも、「選挙」が自らの政治活動や実績、政治家としての魅力、現在価値を証明するための数少ない「通知表」であることは間違いない。その意味で、36万の山本票は、自分にとって何よりも価値のある「勲章」であり、政治家としての「力」に直結すると考えている。




 今回の比例区選挙の結果にも示されたとおり、「組織票」の「歩留まり」は急速に低下しつつある。もう、昔のように、組織の長を押さえたからといって、それがそのまま候補者の得票には結びつかない。自民党の牙城、保守王国群馬県でさえ、多くの有権者が、党や派閥といった候補者の「所属先」ではなく、本人の資質や政策の中身を判断の材料にしたことは明らか。そうでなければ、「36万票」という結果は説明がつかない。




 有権者の意識は確実に変わりつつある。これからの国政選挙においては、利益誘導を資金源に作りあげた「組織」に頼る政治家、個人にアピールする魅力がなく、東京でふんぞり返っているようなタイプの国会議員は(たとえ何回大臣をやろうが)、毎朝街頭で有権者に語りかける無名の若い新人候補にバタバタ負けることになるだろう。旧来型の政治家が淘汰されていくこの流れを止めることは出来ない。そして、それは、政治家のロール・モデルを変え、選挙の手法を変え、そして政治のあり方そのものを変えていくという点で、健全なプロセスだと思う。