男でも女でも、異性との運命的な出会いというものが一度はあるのだろう。
ただその後の対応は、人それぞれによって異なる。
イチロウの場合は…
完全に固まってしまったようだ。
「あんた…、ウブなのかバカなのか…。
あっ、そうそう。
あんた悪いけど、ユキちゃん連れて、この付近、案内してやってくれないかい?」
「ん?!」
思いもしない言葉に、イチロウの顔はおばちゃんのほうを向く。
「伯母さん、そんなこと悪いわよ。」
今度は首を左右に振りながら、ユキエのほうに…
「いいじゃない。ユキちゃんもこの辺歩いてみたいって言ってたじゃない。」
首は上下に、目はおばちゃんへ
「でもー…。
今日始めてお会いする方にご迷惑をお掛けすることになるし…」
もうイチロウは、自分がどんなふうに首を動かしているのか分からなくなってしまった。
「あっ、この男の名前はイチロウって言うんだよ。
イチロウ君、姪のユキエだよ。
どうかなぁ、これから忙しいかい?」
「とんでもない!」
高揚し、喉も枯れていたんだろう、素っ頓狂で裏返った声がイチロウの口から飛び出した。
その声に驚いたおばちゃんがイチロウのほうを向く。
「バカだね~。
フッ(笑)、だけど純粋なんだよね、この男…
ねぇ、ユキちゃん…。
この男、向かいのアパートに住んでて、この店の数少ないお客さんなんだよ。
ほとんど毎日、来るしね。
隠してたってしょうがないし、隠す必要もないだろう?」
「はい、私、全然気にしてませんから(笑)。」
何の話をしているのか分からず、ポカンとしているイチロウに向かっておばちゃんは言った。
「この子、目が見えないんだよ。」
「あっ、……
そういうことか~!なーんだ。
おばちゃん、なんで今日に限って女の人、しかも大事な姪御さんとのデートを御膳立てしてくれるのか分からなかったんだよ(笑)。
俺をからかってるんじゃないかと…。
あ~あ、考えて損しちゃったなー(笑)
うん、目が見えないのはお気の毒だけど…。
いや、それならなおさら俺が案内するよ。
ユキちゃんさえ良かったら…ね。」
その言葉を聞いて、おばちゃんがニヤリと笑う。
「ユキちゃん、この男こんな人間だから…
裏表がないからねぇ…。
単純なんだよね。
まっ、得にもならないけど、害にもならない(笑)
気晴らしに行ってきたら?」
「そうだよ、行こうよ!
一日中、こんなババァと居るとしなびれちゃうよ(笑)
あはっ?!おばちゃん、ゴメン…。」
「フッ、イチロウさんって面白い方ですね(笑)。
じゃぁ、せっかくだからお願いしようかしら。」
「うん、うん。」
イチロウは正面の入口から店に入り、玄関から降りようとしているユキエの手をとった。
「ありがとう(笑)。」
手をとられたユキエは、少しはにかんだ。
『美しい人は、手も美しいんだなぁ…』
ユキエの手を自分の腕に掴まらせ、いつもの通りをゆっくりと歩き出した。