その日の朝…
イチロウは眠い目をこすりながら窓を開ける。
「あーあっ」
手を頭の後ろで組み、青い空を仰ぎながら大きな欠伸をしてみた。
目に涙がジワッと染み出る。白い雲が少しだけ滲む。
「あ~~~」
通りの左右に目線を振りながら、もう一度欠伸をしてみた。
涙腺にはもう涙の予備はないようだ。
それでも何とか刺激がほしいイチロウは、顎を勢いよく振りながら首の音を器用に鳴らす。
「ん?!」
目線を正面下方に下げたとき、やっと気がついたようだ。
『開いている!』
タバコ屋が久しぶりに店を開けていた。
人間とは不可解な動物である。
変化を求めながら実際に変わると不安になり、それが元に戻ると疑心暗鬼になる。
単純なイチロウでさえそうなのだから、神経の細い人は大変なんだろう。
「ア、ハン?」
意味不明な単語を発し、頭の中にいろいろな「何故」を並べてみる。
「うーん…、まっ、いいか。」
考えても仕方がないので、とりあえずタバコを買いにいくことにした。
「おはよう。」
開いている小窓を覗き込むように言ったが、返事がない。
『聞こえないのかなぁ?』
「すみませーん、誰かいる?
タバコくださーい。」
少し大きな声をかけた瞬間、突然若い女性が姿を現した。
「お客さんですか?伯母は今ちょっと近所まで出てますので…。私、店のこと分からないので…。」
「いや、そう!
そっかー、おばちゃんいないんだ(笑)
いや、いいんだ。自販機で買うから。
そうだね、前に自販機があるもんね(笑)」
「ごめんなさいね。」
「いや、いいんだ。
タバコは自販機が一番だから(笑)。
気づかなかったな~、ここに自販機あるんだぁ。」
支離滅裂な言葉を並べ、イチロウは頭をかきながら後ずさりした。
もちろん自販機でタバコを買うことも忘れ、出てきたばかりのアパートに引き返す。
「ふーん?」
階段を昇りながら、今目の前であったことを整理しようとするが、頭の中で彼女の顔がどんどんと大きくなってゆく。
「ふーん?」
部屋の前でも唸ってみるが何も変わらない。
新たな疑問が増えたイチロウは、とりあえず部屋に入ることにした。