次の週の土曜日…
その日もいい天気にだった。
イチロウは、カナに会ってから今日まで、いろいろと考えてみた。
『ユキちゃんに話すべきなのか…。』
もちろん智恵にも相談してみた。
「智恵おばあちゃん、昨日カナさんに会ったよ。よろしくって言ってたよ。」
「………。」
反応はなかった。
智恵は、あの高台から戻ってから完全に元どおりになってしまった。
最初は演技なのかとも思ったが、表情、特に目に正気がない。
理屈は分からないが、演技ではないような気がした。
結局は自分が決めることなんだと思った。
カナとの約束の日…
ユキエを誘う時間になっても、アパートの窓からぼんやりと空を見るしかイチロウにはできなかった。
『話すしかないのか…。』
何の名案もないまま、イチロウは階段を降りる。
アパートを出て、そして目の前のタバコ屋を見る。
そこにはユキエの姿があった。
「フー…」
大きくため息をひとつして、足を前に出した。
「ユキちゃん、おはよう。」
「おはよう(笑)。」
ユキエの顔がパッと明るくなった。
「今日もいい天気だね。」
「うん(笑)。」
「行こうか。」
「そうね(笑)。」
店から出た二人は、手をつなぎながら、うららかなその季節の中を歩き出した。
ポツポツと他愛のない話をして、いつもの公園へ行く。
そしてベンチに座った。
イチロウは、蕾が膨らんだサクラに目をやりながら前を向いていた。
隣にいるユキが口を開く。
「ねぇ…、今日はどうしたの?
何かいつもと違うような感じがする…
何かあったの?」
「えっ?!
いや、いつもと同じだよ(笑)。」
「そう…、それならいいんだけど…。
ねぇ、もうサクラ咲いてる?」
「いや、まだ蕾だよ。」
「あたしね、変な話なんだけど、分かるのよ(笑)。」
「ん?!何が?」
「サクラ(笑)」
「サクラ?」
「そう、もちろん見たことはないんだけど、分かるの(笑)。
サクラが咲いている風景も、そして散ってゆく風景も…
………
音が聞こえるの。気持ちが分かるの。
サクラは何も隠さず私に語りかけるから…。」
「………。」
イチロウは、何も言えなかった。