(行政書士-行-例題32)【重要】仮の差止めと執行停止の違いは? | 技術士を目指す人の会

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2008年に技術士合格後、「技術士を目指す人の会」を立ち上げ、多数の技術士を輩出。自身も勉学ノウハウを活かして行政書士、世界史検定2級、電験三種に合格。

【問】行訴法:

差止め訴訟の仮の差止め と

取消訴訟の執行停止 の違いは?


【答・解説】


差止め訴訟の仮の差止め、取消訴訟の執行停止、これら何が違うのか?

どちらも処分を止めることです。目的は同じです。


では、何が違うのか。

2つあります。


まずは、
①申立の時期(処分の前・後)


処分をしてはならないことを求めるのが、差止め訴訟です。

差止め訴訟は、処分前にやることです。

差止め訴訟が提起されて、その判決が出る前に、どうしても処分を停止してほしいことを申し立てるのが、仮の差止めです。


処分をなかったことにすることを求めるのが、取消訴訟です。

取消訴訟は、処分後にやることです。

取消訴訟が提起されて、その判決が出る前に、どうしても処分を停止してほしいことを申し立てるのが、執行停止です。


具体的な事例を考えてみましょう。


例えば、営業停止処分を受けたとします。

処分後ですね。

この営業停止処分が違法なものだったとします。

この場合は、営業停止処分を取り消すため、取消訴訟を提起します。

この取消訴訟に期間を要しているせいで、お店の経営が悪化して、倒産の危機を迎えているとします。

その場合、判決が出る前に、営業停止処分の執行停止を申し立てればいいです。

これが認められれば、判決がでるまでもなくお店の営業は再会できます。

判決後に、正式に、営業停止処分を取り消してもらえばいいわけですね。


次に、自らの住民票が、抹消されようとしているとします。

処分前ですね。

この場合、処分を取りやめさせるため、差止め訴訟を提起します。

差止め訴訟に勝訴すれば、住民票の抹消は行われません。

ただし、市議会議員の選挙が近づいていて、原告が投票したいと考えているとします。

住民票が抹消されると、選挙する資格を失うことになるような状況です。

差止め訴訟を提起されても、抹消手続きの続行は可能です。

執行不停止の原則です。

この抹消手続きがあっという間に完了して、訴訟中に選挙が終わるようなことになれば、選挙で投票できません。

これは取り返しがつきません。

というわけで、こんな状況下では、差止め訴訟だけではなく、同時に、仮の差止め訴訟を申し立てるべきなんです。


というわけで、差止め訴訟の仮の差止めは、処分前にやることです。

取消訴訟の執行停止は、処分後にやることなんです。


それから、

②訴訟要件も異なります。


差止め訴訟の訴訟要件は、以下のとおりです。

①処分又は裁決がされることにより重大な損害を生ずるおそれがある場合

②その損害を避けるため他に適当な方法がない


この差止め訴訟を提起した上で、仮の差止めを申し立てるわけですが、その要件は、以下のとおりです。

①処分又は裁決がされることにより生ずる償うことのできない損害を避けるため緊急の必要がある

②本案について理由があるとみえるとき

③原告の申立て

公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがない。


一方、取消訴訟の執行停止の訴訟要件は、以下のとおりです。仮の差止めは、償うことのできない損害を避けるものです。

①処分、処分の執行又は手続の続行により生ずる重大な損害を避けるため緊急の必要がある

②本案について理由あるとみえるとき

③原告の申立て

公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがない


仮の差止めも執行停止もほとんど一緒です。

最大の相違点は損害のレベルです。

執行停止は、重要な損害を避けるものです。

仮の差止めの方が、ハードルが高いわけですね。

※問33はこちら http://ameblo.jp/ichiro213/entry-12090209255.html
※問31はこちら http://ameblo.jp/ichiro213/entry-12089707699.html


条文は以下のとおりです

(差止めの訴えの要件)
第三十七条の四  差止めの訴えは、一定の処分又は裁決がされることにより重大な損害を生ずるおそれがある場合に限り、提起することができる。ただし、その損害を避けるため他に適当な方法があるときは、この限りでない。

 裁判所は、前項に規定する重大な損害を生ずるか否かを判断するに当たつては、損害の回復の困難の程度を考慮するものとし、損害の性質及び程度並びに処分又は裁決の内容及び性質をも勘案するものとする。
 差止めの訴えは、行政庁が一定の処分又は裁決をしてはならない旨を命ずることを求めるにつき法律上の利益を有する者に限り、提起することができる。
 前項に規定する法律上の利益の有無の判断については、第九条第二項の規定を準用する。
 差止めの訴えが第一項及び第三項に規定する要件に該当する場合において、その差止めの訴えに係る処分又は裁決につき、行政庁がその処分若しくは裁決をすべきでないことがその処分若しくは裁決の根拠となる法令の規定から明らかであると認められ又は行政庁がその処分若しくは裁決をすることがその裁量権の範囲を超え若しくはその濫用となると認められるときは、裁判所は、行政庁がその処分又は裁決をしてはならない旨を命ずる判決をする。


(仮の義務付け及び仮の差止め)

第三十七条の五  義務付けの訴えの提起があつた場合において、その義務付けの訴えに係る処分又は裁決がされないことにより生ずる償うことのできない損害を避けるため緊急の必要があり、かつ、本案について理由があるとみえるときは、裁判所は、申立てにより、決定をもつて、仮に行政庁がその処分又は裁決をすべき旨を命ずること(以下この条において「仮の義務付け」という。)ができる。
 差止めの訴えの提起があつた場合において、その差止めの訴えに係る処分又は裁決がされることにより生ずる償うことのできない損害を避けるため緊急の必要があり、かつ、本案について理由があるとみえるときは、裁判所は、申立てにより、決定をもつて、仮に行政庁がその処分又は裁決をしてはならない旨を命ずること(以下この条において「仮の差止め」という。)ができる。
 仮の義務付け又は仮の差止めは、公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるときは、することができない。
 第二十五条第五項から第八項まで、第二十六条から第二十八条まで及び第三十三条第一項の規定は、仮の義務付け又は仮の差止めに関する事項について準用する。
 前項において準用する第二十五条第七項の即時抗告についての裁判又は前項において準用する第二十六条第一項の決定により仮の義務付けの決定が取り消されたときは、当該行政庁は、当該仮の義務付けの決定に基づいてした処分又は裁決を取り消さなければならない。

第二十五条  処分の取消しの訴えの提起は、処分の効力、処分の執行又は手続の続行を妨げない。
 処分の取消しの訴えの提起があつた場合において、処分、処分の執行又は手続の続行により生ずる重大な損害を避けるため緊急の必要があるときは、裁判所は、申立てにより、決定をもつて、処分の効力、処分の執行又は手続の続行の全部又は一部の停止(以下「執行停止」という。)をすることができる。ただし、処分の効力の停止は、処分の執行又は手続の続行の停止によつて目的を達することができる場合には、することができない。
 裁判所は、前項に規定する重大な損害を生ずるか否かを判断するに当たつては、損害の回復の困難の程度を考慮するものとし、損害の性質及び程度並びに処分の内容及び性質をも勘案するものとする。
 執行停止は、公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとき、又は本案について理由がないとみえるときは、することができない。
 第二項の決定は、疎明に基づいてする。
 第二項の決定は、口頭弁論を経ないですることができる。ただし、あらかじめ、当事者の意見をきかなければならない。
 第二項の申立てに対する決定に対しては、即時抗告をすることができる。
 第二項の決定に対する即時抗告は、その決定の執行を停止する効力を有しない。