【問】行訴法:
差止め訴訟の仮の差止め と
取消訴訟の執行停止 の違いは?
【答・解説】
差止め訴訟の仮の差止め、取消訴訟の執行停止、これら何が違うのか?
どちらも処分を止めることです。目的は同じです。
では、何が違うのか。
2つあります。
まずは、
①申立の時期(処分の前・後)
処分をしてはならないことを求めるのが、差止め訴訟です。
差止め訴訟は、処分前にやることです。
差止め訴訟が提起されて、その判決が出る前に、どうしても処分を停止してほしいことを申し立てるのが、仮の差止めです。
処分をなかったことにすることを求めるのが、取消訴訟です。
取消訴訟は、処分後にやることです。
取消訴訟が提起されて、その判決が出る前に、どうしても処分を停止してほしいことを申し立てるのが、執行停止です。
具体的な事例を考えてみましょう。
例えば、営業停止処分を受けたとします。
処分後ですね。
この営業停止処分が違法なものだったとします。
この場合は、営業停止処分を取り消すため、取消訴訟を提起します。
この取消訴訟に期間を要しているせいで、お店の経営が悪化して、倒産の危機を迎えているとします。
その場合、判決が出る前に、営業停止処分の執行停止を申し立てればいいです。
これが認められれば、判決がでるまでもなくお店の営業は再会できます。
判決後に、正式に、営業停止処分を取り消してもらえばいいわけですね。
次に、自らの住民票が、抹消されようとしているとします。
処分前ですね。
この場合、処分を取りやめさせるため、差止め訴訟を提起します。
差止め訴訟に勝訴すれば、住民票の抹消は行われません。
ただし、市議会議員の選挙が近づいていて、原告が投票したいと考えているとします。
住民票が抹消されると、選挙する資格を失うことになるような状況です。
差止め訴訟を提起されても、抹消手続きの続行は可能です。
執行不停止の原則です。
この抹消手続きがあっという間に完了して、訴訟中に選挙が終わるようなことになれば、選挙で投票できません。
これは取り返しがつきません。
というわけで、こんな状況下では、差止め訴訟だけではなく、同時に、仮の差止め訴訟を申し立てるべきなんです。
というわけで、差止め訴訟の仮の差止めは、処分前にやることです。
取消訴訟の執行停止は、処分後にやることなんです。
それから、
②訴訟要件も異なります。
差止め訴訟の訴訟要件は、以下のとおりです。
①処分又は裁決がされることにより重大な損害を生ずるおそれがある場合
②その損害を避けるため他に適当な方法がない
この差止め訴訟を提起した上で、仮の差止めを申し立てるわけですが、その要件は、以下のとおりです。
①処分又は裁決がされることにより生ずる償うことのできない損害を避けるため緊急の必要がある
②本案について理由があるとみえるとき
③原告の申立て
④公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがない。
一方、取消訴訟の執行停止の訴訟要件は、以下のとおりです。仮の差止めは、償うことのできない損害を避けるものです。
①処分、処分の執行又は手続の続行により生ずる重大な損害を避けるため緊急の必要がある
②本案について理由あるとみえるとき
③原告の申立て
④公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがない
仮の差止めも執行停止もほとんど一緒です。
最大の相違点は損害のレベルです。
執行停止は、重要な損害を避けるものです。
仮の差止めの方が、ハードルが高いわけですね。
※問33はこちら http://ameblo.jp/ichiro213/entry-12090209255.html
※問31はこちら http://ameblo.jp/ichiro213/entry-12089707699.html
条文は以下のとおりです。
(差止めの訴えの要件)
第三十七条の四
差止めの訴えは、一定の処分又は裁決がされることにより重大な損害を生ずるおそれがある場合に限り、提起することができる。ただし、その損害を避けるため他に適当な方法があるときは、この限りでない。