ママはサバサバしてる感じの人だけど優しい人だっった。
毎日ご飯もちゃんと作ってくれて、「たくさん食べなね!」と言ってくれて。
お店が休みの日には一緒にショッピングに行って私に服を買ってくれた。
お店に出た日はおこづかいで5千円がもらえた、衣食住を面倒みてもらっている私にとっては充分な金額だった。

お店に勤めている他のお姉さんたちやお客さんと話したりするときに年齢を偽って話を合わせるのがちょっと気を使ったけど、私が一番嫌だったのは

ママの彼氏だった。

ママのマンションに1日おきくらいの頻度で訪ねてくる彼氏はママの寝室に泊まって行くときに何の話でもめているのかは私にはわからなかったけれど、
ケンカが始まる事があった。
その時はすごい怒鳴り声と家具が揺らぐようなガタガタとすごい音がして、ママの「やめて!」とか言う悲鳴みたいな声が混じって明らかに彼氏が暴力を奮っている様だった。
私はとても怖かったけれどママの寝室のドアを叩いて「何してるの?大丈夫?」と声を掛けたのだがママが「大丈夫だから、部屋に戻りなさい」って言われてしまい、何もしてあげられなかった。

彼氏は帰って行きお店の出勤の支度をママとしていたときママの腕にアザがあったから、蹴られたか殴られたかした様子だったけど外傷は他には見当たらなかったからちょっとホッとした。

2週間目を迎えた夜だったお店が終わりお店の片付けをしていたらママの彼氏が入ってきた。
ママはお客さんと近くの他のお店へ行っていてお店に私は一人だった。
「ママは?」と聞かれ「今ちょっと外出中です」と答えた。
「そっか、おまえだけか、ちょっと頼まれてくれる?」って言われて「何ですか?」って言ったら彼氏は私の腕を掴んで携帯を取り出し誰かと話し始めた。
話し始めてすぐに裏口が開いて知らない男の人が入ってきた。
彼氏よりは若いであろうその男の人は、たぶん30才前後だと思われた。
彼氏は私の腕をかなり強く掴みながらその男の人とこそこそ話し始めた。
男の人が財布を取り出して彼氏にいくらかのお金をわたしていた。

「何してるんですか?腕痛いですよ~?離して下さい」と言った途端、彼氏にすごい力でソファーに押し倒された。
「!!!???」頭が真っ白になって薄暗いはずの店内のライトだけがやたら眩しく見えた。
彼氏が私の両腕を押さえ付けて男の人が私の上におおいかぶさってきた。
!レイプされようとしているんだ!?
全く知らない人からレイプされるとかって言う痴漢行為の注意や話は聞いたことがあったけれど、2週間くらいの間を一緒に暮らしたり会話もたまには交わして、たまには冗談を言い合ったりもしていたママの彼氏にこんな事をされるとか、考えてもみない事態で放心状態になった。
さっき男の人が財布を取り出して彼氏にお金をわたしていたのは私を売ったお金だったんだ!って気付いたら私は精一杯の力で足をバタバタさせて「いやあああああ!」って叫んでた。
彼氏は「静かに!」って言いながら私の顔を一回はたいた。
低い声で「やったことあるんだろ?」と言った。
もちろん私はそんなことしたことなかったし、ここでこんな事をされたら本当にもう一生立ち直れなくなるような気がして必死で抵抗した。
「いやだ!いやだ!いやだ!」と叫んで力一杯抵抗していたら今度は顔面を拳で殴られた。
暴れたり叫んだりしていて興奮しているせいか痛みは感じなかったけど口の中が切れて血の味がして喉の奥に血が流れてきた。
喉が血で詰まりそうで咳が出た。
なんで?なんでこんな事をされなくちゃいけないんだろう?って思った。
私のワンピースを下から胸までまくり上げられた時に、裏口が開いてママが帰ってきた。
この光景を見てママはすぐに悟ったらしくて、無表情のまま無言で、でもすごいガツガツガツガツと床を蹴っ飛ばしてるような音を立てて凄い勢いで近づくと私を抱き起こして解放させてくれた。

彼氏は気まずそうな顔をしてママから目を反らしていた。
ママが「この子にはやめて!」とだけ言いながら私にハンカチとマンションのカギをわたして裏口から「先に帰ってなさい!」と私を追い出した。

ハンカチで顔を押さえながら一人でマンションに帰って鏡を見たら口の横がアザになっていて唇が晴れ上がってお化けみたいな顔になっていた。
浴室に行ってシャワーで体を流しながらしゃがみ込んで声を出して泣いた。

「この子にはやめて!」とママが言った事を思い出した。
この子にはって言った。
今、ママが私の変わりに何かされているんだろうか。
もう考えたくもなかった。

昼頃目が覚めた。
ママはもう起きていてリビングでコーヒーを飲んでいた。
なんて話しかけていいか少し躊躇しながらのろのろと歩いていると「おはよ~」ってママの方から声を掛けられた。
「おはようございます」小さな声で答えた。
ママは私の顔を見て「ああ、ひどいな」って言いながら駆け寄って来て私の歯が折れたりしてないかとか鼻の骨とか折れてないか触って確かめていた。
幸い骨とか歯は無事だったらしい。
それから傷の手当てをしてくれて目立たないキズテープでアザを隠してくれたから少しはマシな顔になった。