本日はバレエ鑑賞記です。

 

 

令和6年8月25日(日)、多度津町民会館、開場12時半、開演13時、全席自由一般2500円。

知り合いが近藤バレエ研究所の創業者一家の息子さんと高校で同級生だったらしく、無料招待で観ることができた。

ありがたいことである。

 

近藤バレエ研究所について。

1940年(昭和15年)創業。

香川県丸亀市平山町。

四国ではもちろん、日本でも有数の歴史あるバレエ研究所。

 

12時半会場入り。

時間と共にいい具合に客席が埋まってゆく。

最終的には9割くらいの入りとなった。

さすがである。

 

13時5分過ぎ開演。

最初の演目はチルチルミチル。

研究所に通う子供たちだけで構成された舞台。

 

技術の巧拙だけで言えば、ツッコミどころは満載ではあるものの、子供の舞台というのはそれだけでは語り尽くせない魅力があったりするわけで。

一番小さい子(保育園くらいか)が出てくるパートでは子供たちの邪気のない踊り姿に心癒される思いがする。

集団で踊っているのを見ていると、明らかに一人だけ振りが違う子がいたりとか、回転するところで逆に回っている子とか、まあそれもご愛敬。

 

もっとすごいのになると舞台上でじっと固まったまま一切踊りはせず、「みんな何してんの」という風情でじっと一点だけを見つめている子とか。

そんな芸当が許されるのは子供か、よっぽど達した年寄りだけだろう。

良寛様ではないが、そんな子供の演技というのはずっと見ていられる独特の魅力に溢れている。

 

続いてモーツアルトの楽曲による演舞。

こちらの方は先ほどの小さい子供たちより上級の中学生とか高校生とかで構成されている演目。

ヨーロッパの爽やかな朝のイメージのするモーツアルトの楽曲にのせて、確かな技術に裏打ちされた堅実な踊りが光る。

下界の喧噪とむせかえるような残暑を忘れさせてくれる、実に涼し気な舞台。

そこはかとなく漂う気品と身体の軸のブレなさ加減に年長さんの余裕を感じる。

 

ここまでが第一部。

続いて第二部。

第二部は短い楽曲に合わせた短い演舞をまとめて5、6本見せてくれるという趣向。

子供たちの可愛らしい演舞が入った後、上級者のソロが入ってきたりと全体的なバランスが練られている実に起伏に富んだ構成。

子供は子供らしく、あまり細かいことは言わず大らかに。

しかしその子供たちの衣装のかわいらしさときたら。

そして続くベテランは巧みな演技で客席を魅了し、場の空気を引き締める。

 

例えば男女二人の青年の恋の演舞を見ていると、かつてはあんな子供だったのが何年か経って成長するとこうなるんだと感ぜられて見ていてウルっと来るものがあった。

それほど青年らしさがよく出ていた演舞であった。

そう、青年と言えば恋、それも純真な恋。

筆者のように中高年になってからの恋は、たいていドロドロの不倫である、あはは。

だから若い内にきれいな恋をしっかりしとかないとね。

人生における「美しい今」は一度過ぎ去ってしまうと二度とは戻ってこないんだから。

 

第二部の最後を〆るのは研究所の出世頭、三宅兄妹。

イギリスの名門バレエ学校を首席で卒業し、今はアメリカで踊っている文字通り世界一の称号を持つ三宅啄未君。

まずはそのジャンプの高さにびっくり。

そして回転の時、全く芯がブレない。

これが世界レベルかという圧巻の演舞。

とにかく段違いの演技に圧倒される。

 

妹さんの方も上手で、動きを止める時、きれいにピタッと止まる。

ただ残念なのは回転の時に若干芯がブレること。

でもまだだいぶ若いみたいなので今後が楽しみだ。

 

最後の第三部は、コッペリア全三幕をたっぷりと。

ドラマ性の強い演目なので、踊りの技量だけではなく、表現力や芸術性なども必要とされる。

その点において主役の男女は秀逸。

無駄のない動きの踊りと、決して一本調子ではないメリハリの効いた演技。

特に女性の方(研究所の先生、向井くるみさん)は我々と同じくらいの年齢の方だそうだけど、その内容の充実ぶりに驚かされる。

 

話の内容は、変わり者の職人が作った最高傑作の人形(職人はそれを人形ではなく自分の実の娘だと言い張っている)に横恋慕する男とその婚約者との三角関係から始まる。

 

二幕目では人形の女の子の家に婚約者の女の方が忍び込んでゆく展開に。

一方、人形に横恋慕する男の方は梯子を使って二階から夜這いに入ろうとする。

しかし男の方は職人に見つかって、ワインをしこたま飲まされ魂を吸い取られ、その吸い取った魂を職人は自慢の人形に吹き込む。

ところがその魂を吹き込んだはずの人形は実は隠れて忍び込んでいた婚約者の女であって。

勘違いとすれ違いが生む爆笑のコメディー。

 

その人形に化けた女の人形らしい動きの再現も見事。

そしてそこから魂を吹き込まれて人間らしく動き出す部分の再現も見事。

あと、職人の部屋に放置されている無数の人形役の一貫してピクリとも動かない(全部生身の人間が演じている)その動かない演技(15分か20分もの長さを)の見事さ。

 

しかし女の渾身の人形演技も最後には職人にバレて。

そして人形に横恋慕していた男も、それが人間の娘ではなく人形なんだとようやく気付いて。

皆、落ち着く所に落ち着いて、主人公の二人もようやく現実に目が覚めてめでたく結婚と相成る。

最後、第三幕は総花的に出演者全員がかわるがわる祝福の踊りを踊る。

 

主演の向井くるみさんの演技は、先の三宅啄未君の演技が「時分の花」なら、長い修練の果てに辿り着く「まことの花」の様相。

勢いに勝る三宅君とは全く違うアプローチでバレエの真髄を極めているように思われる。

その豊饒な全体性の勝る練りに練られた演技に感動した。

 

最後の最後は皆で踊って。

このコッペリアの舞台はセットも豪華で見応え十分。

休憩込みでここまでたっぷり4時間半。

かなりの長丁場だが、半日どっぷりとバレエの沼に入り込める愉しみを堪能できる。

これで2500円はかなりお得。

最高の舞台ありがとうございました。

 

 

至高の舞台を見せてくれた近藤バレエ研究所の皆さんに感謝。

その会場となった多度津町民会館さんに感謝。

その他、関係者の皆さん方に感謝。

この日、お世話になった皆さんに感謝。

そして今日も最後まで読んでくれたあなたにありがとう。