本日は展覧会レビューです。

 

 

2024.1.2 (火)、第70回日本伝統工芸展、会場 香川県立ミュージアム、会期 令和6年1月2日(火)から1月21日(日)まで、時間 9時から17時まで(入館は閉館の30分前まで)、料金 一般650円、筆者はJAF会員割引で520円で入れた。

 

 

久しぶりに電車に乗って高松まで。

7時54分発の快速サンポート号。

 

 

高松駅に着くと、そこから歩いて県立ミュージアムまで。

例年の如く、玉藻公園が正月三が日無料開放となっているので中を通って行く。

 

 

毎年、何か新しい建物が追加されている玉藻公園。

今年はどこが新しく追加された建物なのか分からなかった。

が、公園の中は椿だったろうか山茶花だったろうかとてもきれいに咲いていた。

中の建物は年々新しくなっていっても、花の美しさ、こればかりは毎年変わらない。

 

 

そして展覧会。

まずは漆芸から。

今年も力作揃い。

特に目立っていたのは東北勢で、青森県勢にいい作品が多かった。

石川県勢も相変わらず良品を多数送り込んで来ているのだが、前日1月1日に起こった能登の大地震の影響で作家さん達にも被害が出ていないか心配である。

皆さん、ご無事だろうか。

 

それでは気になる作品の講評を。

 

 

「ひかり蒟醬合子」、山下義人、重要無形文化財保持者、香川県。

全体的にシンプルだが生で見るととても鮮やかな印象が残る作品。

色付きの輪っかの部分は七色の虹の色。

地の黒も深みと艶があって実に見事。

とてもいい作品。

 

 

「蒔絵箱、夏夕」、田中義光、鑑査委員、石川県。

誠に端正な美。

饒舌でもなく、かといって無口でもなく。

隅々まで溢れる気品と華やかさ。

 

 

「沈金箱、深海」、水尻清甫、石川県。

とても激しい表現。

日本海の荒波だろうか。

白い波しぶきの下に描かれているのは赤いズワイガニ。

この手の作品に描かれる絵としては、カニというのは意表を突いた題材かと思う。

面白い。

 

 

「変塗彩々箱、Twilight」、木村正人、青森県。

側面の色付きの部分が実に美しい。

それに比しててっぺんの黒はまだまだ改善の余地はあるようにも思えた。

でも全体の均衡には優れた良品である。

 

 

写真なし (作者の意向により)。

「沈金箱、初雪」、西勝廣、石川県。

きれいに並んだ花の文様に、降り積もる雪のように重なる花、花、花。

雪自体の表現は「初雪」とある通り、淡いのだが。

とてもきれいな作品。

 

 

 

「菊紋螺鈿蒔絵箱、秋韻」、江藤國雄、兵庫県。

これは渋いなあ。

金がふんだんに使われているにも関わらず、これ見よがしのところが少しもない。

かといって装飾の楽しみ、喜びは少しも失われておらず。

いや、参りました。

 

 

「堆漆象嵌幾何学文硯箱」、石原雅員、香川県。

とても知的で清潔感に溢れる作品。

それなのに得も言われぬ尽きせぬ魅力も溢れていて。

素晴らしい。

 

 

続いて陶芸。

今年も展示数は少な目だが、力作が揃っていた。

特にベテラン勢、有名作家処の作品に秀作が揃っていたように思う。

 

 

写真なし (作者の意向により)。

「染錦朝顔蝶文陶箱」、松尾優子、山口県。

白地に黒の朝顔。

まるで墨絵を思わせるような。

そして清冽な色気と気品。

一目見てぱっと目に焼き付いた作品。

 

 

 

「無名異練上線紋鉢」、重要無形文化財保持者、伊藤赤水、新潟県。

生で見ると絶品。

まるで木目のようにも見えてくる年輪のような渦巻が全面に。

それが中心を若干アンバランスに取りながら、渦巻いているところがまたたまらない。

 

 

「白器、無題」、和田均、千葉県。

白一色の作品だが、形態の面白さで見せる作品。

特に側面の切れ込みが重なる部分はまるで工業デザインのようで面白い。

 

 

「中野青瓷壺」、重要無形文化財保持者、審査委員、福島善三、福岡県。

まず緑と青の中間のような地の色の美しさに魅せられる。

そこにひび割れのような線描の文様が一面に。

味だねえ。

 

 

「色絵雪花薄墨墨はじき境躑躅文鉢」、重要無形文化財保持者、審査委員、鑑査委員、今泉今右衛門、佐賀県。

地の色の、まるで薄墨をたらし込んだかのような独特の灰色が素晴らしい。

そこに群青の地味ながら鮮やかな緑。

まさに絶品の至芸。

 

 

写真なし (作者の意向により)。

「瀬戸黒茶盌」、加藤孝造。

昨年、亡くなられた作家さんの遺作。

独特のいびつな形に得も言われぬ味がある抹茶茶碗。

生で見るとずっと見ていたくなるような滋味溢れる作品。

 

 

 

着物。

今年は例年に比べて展示数が多い。

しかも作品のレベルも高い。

ここで紹介したい作品が多すぎて困ったくらい。

 

 

「長板中形着尺、蔓草文」、重要無形文化財保持者、鑑査委員、松原伸生、千葉県。

まあ、なんと美しい文様の羅列たろうか。

白地に青のみというシンプルな色構成ながら、無数に連なる文様の美しさに魅せられる。

 

 

「小倉織絣入帯、水影」、遠藤聡子、福岡県。

これも素晴らしい作品。

生で見ると色のグラデーションの美しさが一層際立っている。

 

 

「花織帯、異国への扉」、楠光代、千葉県。

落ち着いた渋い色合いに、いかにも女の人が好みそうな可愛らしい文様。

いいねえ。

 

 

「煮綛芭蕉布帯地、黄地緯段花織」、平良敏子。

多くを語り過ぎることのない朴訥な美しさ。

巧言令色鮮し仁というがまさにその逆を行く作品。

この作者も既に亡くなられていて本作が遺作となっている。

 

 

「木版摺更紗着物、蒼晶」、鈴田清人、佐賀県。

鮮やかなんだけど落ち着いた雰囲気もあり。

なんとなく華やかで文様にも嫌味がなく。

 

 

「刺繍訪問着、晩秋晴天」、福田喜重。

見事としか言いようのない深い青と、裾の茶色の暖かい渋み。

そしてそこに展開する黄金色の銀杏の葉。

完璧に仕立てられた傑作の趣。

本作も亡くなられた作家さんの遺作。

 

 

「紬織絣着物、みなも」、大高美由紀、神奈川県。

鮮やかな青と白で奏でる色彩と文様のハーモニー。

 

続いて金工。

 

 

「呉呂太の釜」、鑑査委員、長野垤志、埼玉県。

少しいびつな形が珍しい。

側面のひび割れも味になっていて。

面白い作品。

 

 

「朧銀地象嵌匣、時」、奥村公規、東京都。

変形の五角形という珍しい形に、複雑な地金の文様。

汲めども尽きせぬ魅力にあふれた作品。

 

木竹工。

 

 

「鎧差し花籃、ひかり」、調喜美子、山口県。

色の落ち着きと形の優美さ。

編みの透かしも美しい。

 

 

「神代杉柾合わせ天目台」、重要無形文化財保持者、中川清司、京都府。

素朴な小品。

だが得も言われぬ味わいがある。

朴訥な中にもピンと張り詰めた美しさが。

 

 

「束編花籃、優気」、重要無形文化財保持者、鑑査委員、藤沼昇、栃木県。

深い赤茶の色の魅力。

そして開口部と全体に表された優美な曲線の美。

美しい。

 

 

「花籃、斑入り」、江花美咲、新潟県。

パッと目を引く面白い形。

編みも線が細くてエレガント。

 

 

「透網代花籃、遠野」、鑑査委員、河野祥篁、大分県。

均整の取れた美しい形と一糸乱れぬ編み込みの美しさ。

 

 

「欅拭漆飾箱」、松原輝、滋賀県。

美しい木目と張り詰めた形態。

まさに木工の華。

 

諸工芸。

 

 

「截金硝子器、雪降り積みて」、山本茜、京都府。

幾何学文様を青と黄金で稠密に表現。

そこにガラスの透明感が加わり全体として見事な作品へと昇華されている。

生で見ると殊の外美しかった。

 

 

「硝子水指、水匂う所」、大住美奈子、愛知県。

摺りガラスの地にくすんだ緑色で絵。

まるでガレのような味わい。

 

 

「截金飾筥、光彩万華」、藤野聖子、大阪府。

華麗で緻密。

複雑かつ整然とした秀作。

見ていて飽きることのない作品。

 

 

「硝子胎七宝皿 piece of nature」、塚原梢、石川県。

孔雀だろうか。

その文様が皿面にアンバランスに描かれている。

生で見ると粗削りだが、なんとなく面白い作品。

 

最後は人形。

 

 

「陶彫彩色、龍を待つ」、溝口堂央、福岡県。

素朴ながら、じっと眺めているとなんとなく後を引くような余韻のある作品。

 

 

以上、駆け足で巡ってきた今年の伝統工芸展高松。

ここに挙げた作品はあくまで筆者個人の主観に基づくもの。

現場に足を運んでいただければ、皆さん一人一人にそれぞれ違った好みの作品を発見できることと思う。

賞が付いている作品だからとか肩書が立派だからとかで見るんじゃなくて、虚心に見つめて自分が面白いと思うものを見つけられれば、展覧会を見る楽しみはもっと増えると思う。

どれが優れているとか劣っているとかではなく、ただ単に好みかどうかだけ。

そして今は好みの作品でなくとも、自分の見る目が進んで行くと今まで気づかなかった作品の魅力に新たに気づくようになったり。

それにしても生の展覧会はいいぞ。

 

 

 

明けましておめでとうございます。

今年初の投稿、楽しんで頂けましたでしょうか。

それでは今年もまた一年よろしくお願いします。

 

素晴らしい作品を見せてくれた作家さんたちに感謝。

その作品を企画展示してくれた日本伝統工芸展さんに感謝。

その作品の展示に携わってくれた香川県立ミュージアムさんに感謝。

安全運行のJR四国さんに感謝。

正月無料開放の玉藻公園さんに感謝。

その他、この日にお世話になった関係者の皆さん方に感謝。

そして今日も最後まで読んでくれたあなたにありがとう。