本日は展覧会レビューです。

 

 

「中園孔二 ソウルメイト展」、2023.7.1(土)。

会場 丸亀市猪熊美術館、会期 2023.6.17(土)から9.18(月・祝)まで、休館日 月曜日(ただし7月17日、9月18日は開館)、7.18(火)、開館時間 10時から18時(入館は17時半まで)、観覧料950円(JAF割引等あり)。

 

 

それではここで中園孔二さんのプロフィールを簡単に。

1989年 横浜生まれ。

2012年 東京芸大油画専攻卒業。

2015年 香川県瀬戸内海沖にて消息不明となり他界。

東京芸大卒業後、関東を拠点に制作活動を行ったのち、瀬戸内をのぞむ香川県の土地柄に魅かれ2014年末に移住したが、その翌年に25歳の若さで生涯の幕を閉じた。

死因は海難事故だったようである。

 

 

まず全体を見終わっての印象から。

基本的に絵の上手な人だなと。

かなりの手練れとお見受けした。

その美の手練れが近代絵画の洗礼を受け、単なる上手を捨てて下手と上手の微妙な境に入って行く。

しかし君子が随所で隠し切れない教養が露わになるように、至る所で絵の上手さが顔を出してくる。

 

 

大きな画面の作品では猪熊さんを彷彿とさせるようなスタイルを取っているが、総じて本家の猪熊さんより洗練されている。

だからポップで親しみやすい中にほんのちょっとのヘンとか、侘しさとかが混ざっているのである。

そのさじ加減が絶妙なわけで。

 

 

大作もいいのだが、筆者がより強く惹かれたのは何気ない小品。

暗い雰囲気のものだったり明るかったりと様々な表情の作品を遺してくれているのだが、そのような小品の中にこそ作者の素の部分が一番よく出ているように思った。

 

展覧会を見るまで名前も知らなかったような人だが、これだけのレベルの作品をこれだけの数残しているのは凄いことだと改めて。

そういう意味においては、もっと高い評価を受けていい人なんじゃないかと率直にそう思った。

 

写真撮影は一部の動画作品を除いて全てOKだったので以下に気になる作品を写真と共に紹介していくことにする。

 

 

入ってすぐの所に展示してあるこの作品。

モノクロで描かれた人の顔、顔、顔。

不気味ではあるが嫌味ではなく、静謐の中にほんのわずかな狂気すら感ぜられる秀作。

 

 

沈鬱なる錯綜。

黒い影の男が少しナナメに立っている。

つられて地平線も少し歪んでいる。

 

 

これは幸せな風景なのか、或いは不幸の象徴なのか。

竜巻のような大災害にも見えるし、しかし一方では幸せの歓喜の渦のようにも見える。

 

 

少ないタッチで巧みに描かれた女性像。

きっと美しい人なんだろうなと。

瞳に愁いを感じる。

こんな少ない線で描いているだけなのにね。

でも醸し出された表情はとても複雑。

 

 

モノクロのタブローの上からマジックのような筆記具で落書きのような線描を上書きしている。

現場に立ってこの画をじっくり眺めていると、その上と下の二つの絵の絡みがまるで3Dかのように見えてくるから不思議。

 

 

作者の中にもやはり心の闇のようなものがしっかりと存在していたのかと思わせるような作品。

暗い空を背景に痩せた一本の裸木がうねるように立っている。

言葉にするとただそれだけなのだが実際の絵画を見るとその内容の深さに頭がくらくらしてくる。

 

 

チェスの駒、西洋のキャッスルのような。

でもよく見ると人の顔。

 

 

燃えるような二人の情熱?

それとも頽廃。

背景の暗い赤がよくきいている。

 

 

ピエロだろうか。

盛り上がった絵具が独特の味を醸し出している。

 

 

キノコのような人のような。

明るい背景にも関わらず、どこか淋し気。

いや、むしろ明るいからこそ却って淋しさが際立つのか。

 

 

これは幸せな記憶なんだろうか。

それとも・・・。

小さな家族の幸せな思い出のようにも見えるが、一方ではたった三人でなにか途轍もなく大きな抗い切れないものに対峙しているようにも。

だからじっと見ていると切なくて涙が出て来そうになる。

 

 

魚か人か。

はたまた、ひしゃげたクラゲのようにも。

ここにも抗えない波の力、水の力というものが背景に強く存在していて。

 

 

赤い花が上からストンと落ちてきているような。

それとも火山の噴火だろうか。

いずれにしてもただならぬ雰囲気が画面全体を覆っていることだけは確か。

 

 

暗い絵である。

画面手前で一人しゃがみ込んでいる人があり、奥には暗い闇と森が広がっており、何か底知れぬ漠然とした不安らしきものが全体に充溢している。

 

 

焦土を行く少年か少女か。

静寂に満ちた地獄の一歩手前のような。

 

 

先の絵の隣に飾ってあるのがこの絵。

こちらは一転して天国の象徴のような。

しかしこちらの絵もよく見ると天国的なのは背景の色だけで実態はどこか孤独で淋しそうに見える。

 

 

黒い騎兵隊。

義経の亡霊か。

手前の海のような所には死体の残骸が。

曰く言い難い暗く深い慟哭。

 

 

アラジンの魔法のランプだろうか。

この絵もやはりどこか孤独で哀しい。

 

 

以上でレビューは終了だが、最後に一言。

現代美術にありがちな知の袋小路に決して落ち込むことなく、そのスタイルのいいところだけを借りて小手先ではない表現の本質に迫っている様は見事と言う他ない。

久しぶりに本物を見たという思いで会場を後にした。

皆さんにもこの感動を生で味わってもらいたい。

さんざん写真を撮っていながら言うのもなんだけど、写真だと生の作品の3割か4割落ちくらいの伝達度しかないように思う。

今日、この記事を書いていてずっとそう思っていた。

やはり絵は生に限る。

 

 

 

最高の作品を遺してくれた中園孔二さんに感謝と追悼を。

その偉大な作品を紹介してくれた丸亀市猪熊美術館さんに感謝。

企画に深く関わってくれている小山ギャラリーさんに感謝。

その他、関係者の皆さん方に感謝。

この日、関わってくれた全ての皆さん方に感謝。

そして今日も最後まで読んでくれたあなたにありがとう。