本日は展覧会レビューです。
2021.10.30(土) 「大・タイガー立石展 変幻世界トラ紀行」、高松市美術館、会期 2021.9.18(土)から11.3(水・祝)、休館日 月曜、開館時間 9時半から17時まで(入室は閉館30分前まで)、ただし金曜、土曜は19時閉館、観覧料 一般1000円。
それでは今回の展覧会の作家・芸術家、タイガー立石さんのプロフィールを。
1941年、九州筑豊の伊田町(現・福岡県田川市)生まれ。
絵画、彫刻、漫画、絵本、イラストなどのジャンルを縦横無尽に横断しながら独創的な世界を展開した立石紘一ことタイガー立石。
1963年、読売アンデパンダン展でデビュー。
翌年には中村宏(1932-)と観光芸術研究所を結成、時代のアイコンを多彩に引用して描かれたその作品は和製ポップアートのさきがけとして注目される。
1965年からは漫画も描きはじめ「タイガー立石」のペンネームで雑誌や新聞にナンセンス漫画を連載。
1969年3月、突如としてミラノ移住。
イラストレーターとしての活動が多忙になった立石は1982年に帰国。
1985年から千葉、市原を拠点に活動。
1998年4月、56歳の若さで逝去。
今年、生誕80年を迎える。
200点以上の作品、資料によってその多彩な活動を振り返る今展覧会。
その最初に飾ってあるのが、ネオンの富士山。
ちょっとパチンコ屋っぽいような銭湯っぽいような、悪趣味スレスレの作品。
でもなんだか面白い。
このように初期の作品には、日本的なキッチュの感性が存分に盛り込まれている。
俗っぽい戦後日本の猥雑さをそのまま詰め込んだような。
やがて展示はイタリア時代へと移るが、そこで特徴的なのはコマ割り絵画というもの。
これは絵だけで描かれた漫画という感じで、画面を分割して同じようなシーンの細部をわずかに変容させて描くことで、物語性を持たせた絵画世界が成立している。
こういう絵は他ではまずお目にかかることがないので、強く印象に残った。
解説によると、アメリカの風刺漫画のスタイル(サイレントと言うそう)に強く影響を受けているとか。
全体的な画風としては、厳密な遠近法を用いてないのに、絵に妙に遠近感を感ずるシュールレアリスムの画法の影響が強く見られるように思う。
そんなイタリア時代の特徴のもう一つは、作者特有のモチーフが初期のいい意味での泥臭さから抜け出してヨーロッパ風の洗練が顕著になってきていることである。
それから漫画の展示へと移る。
確かな描写に裏打ちされたコマ割り絵画のさらなる進化が見られるのもこのころ。
そして晩年の絵本の展示では、この作家が長年積み重ねてきたモチーフと技法が最大限に駆使されて得も言われぬ美しい絵画空間を構築している。
しかし絵本になっても持ち前のシュールさとナンセンスな物語展開の奇抜さは一向に衰えない。
むしろ一周回ってさらなる深みを醸し出している。
そして80年代に入り、帰国してからは初期のキッチュな俗日本的モチーフが再び現れてくる。
更に特筆すべきは、伝統的な純日本絵画の美意識も作品の中に現れてくることである。
それら様々なモチーフがないまぜになって、洗練がその極みを見せる。
もちろんシュールな悪趣味、バカバカしいナンセンスも健在だが。
そして展示の白眉が、東洋と西洋が一つの画面の中に何の違和感もなく共存する絵巻物「水の巻」。
この作品が圧巻で、風神、雷神、アダムとイブが何の衒いもなく一つの画面に収まっている不思議な構成ながら、技法的にもシュールあり、伝統的な日本画の技法あり、西洋のアカデミズムありと多彩な展開を見せる。
まさにこの作家の集大成の趣。
作品の数は多く、見応えは充分。
彫刻作品もあり、これも面白い。
有名画家をモチーフに、表には画家の肖像、が裏に回ると中はくり抜かれており、そこにはその画家の画業が緻密に再現されている。
その完成度の高さは必見だ。
残念ながら、高松での展示は11月3日までなので、もうやってないのだが、皆さんの街に回ってくることがあったなら是非一度、生でご覧になってほしいと思う。
絶対に損のない展覧会です。
保証します。
正直言うとこの展覧会を見るまで、タイガー立石、誰それという感じだったのだが(ものを知らないってコワいですね)、こうやって改めてその全貌を見てみると戦後日本を代表する芸術家の一人なのだということがよく分かった。
己の不勉強を改めて反省である。
最高の作品を遺してくれたタイガー立石さんに感謝。
その作品を集めて展示してくれた高松市美術館に感謝。
その他関係者の皆さんに感謝。
今日もまた最後まで読んでくれたあなたにありがとう。