第39回 四国こんぴら歌舞伎大芝居
本日は歌舞伎鑑賞記です。「第39回 四国こんぴら歌舞伎大芝居」会期 令和8年4月10日(金)から4月26日(日)まで、4月16日(木)は休演日。時間 第一部午前十一時開演 第二部午後三時開演。令和8年4月19日(日)、午前の部を見る。三月末、チケットweb松竹からメールが来ていて、こんぴら歌舞伎、まだ空席ありますと。それで調べてみると19日の日曜日の回にも空きがあった。こういう時、一人だと強い。現に前の方の良席が一席だけ空いているところがあったので、早速申し込んだ。弁当の申し込みもホームページに案内があったので、ついでに申し込んだ。地元高松の誇る名料亭、二蝶のお弁当。当日、朝9時半頃、自宅を出発。父が家から琴平の金丸座まで車で送ってくれたのだ。ありがたいことである。まあ、私を送りがてらドライブを楽しみたいという思惑もあったようではあるが。10時過ぎ、こんぴら金丸座到着。すでに大勢の人が来ている。入場も始まっているようだ。弁当を受け取って支払いを済ませ、ちょっと早目に会場に入ってみた。入り口のところで下駄を脱ぐのだが、下足番の人がちゃんといて、下駄を袋(一人一人に配られる)に入れてくれる。そして席までの案内も一人一人にちゃんと付く。筆者を案内してくれた人は若くてきれいな人で、まあ何だか殿様気分であった。正真正銘のバカ殿になってなけりゃいいんだけど。席は座椅子のような席に進化している。筆者は足の状態に不安があったので、これは嬉しいところ。席は真ん中の前目。めちゃくちゃの良席。ありがたい。それで座って辺りを見渡していると、近くにいたオバサン連中が早くも弁当を食べているではないか。それを見て、ふと閃くものがあった。幕間だと案外、時間がないのかもと。というわけで筆者もオバサン連中に倣って早弁した。朝が早かったので腹が減っていたのもあったしね。二蝶の弁当は料亭らしく、野菜の煮物は上品な薄味。魚やご飯もそれぞれ一工夫あって美味。そして特筆すべきは香の物の美味しさ。弁当においては意外と見過ごされがちな香の物だが、実はかなり大事なものなのではないのかと。11時、定刻通り開演。芝居は幕間の休憩を挟んで、前半と後半に分かれている。前半は、どもりの男(絵師)の話。絵の師匠である土佐家の名字を継ぎたいと願う主人公のどもりのヒラ絵師なのだが、師匠の返事はつれないもので。一方、弟弟子の方は手柄を認められ一足先に名字帯刀を許され、その上に允可の筆まで授けられる。その土佐家は絵師の家柄でありながら武家でもあるようで。物語の冒頭、弟弟子がその働きを認められる虎退治の場面で出てくる百姓衆が賑やかで面白かった。師匠の土佐将監、弟弟子の武家の若衆、主人公の又平、それぞれの年齢に応じた所作や動作、セリフの演じ分けが面白い。例えば、武家の若衆は背筋がピンと伸びていて惚れ惚れするような端正な立ち姿。対する土佐将監は床の間の前に座っても何の違和感も感じさせないような年老いた貫禄、重い動きにうやうやしいセリフ回し。主人公の又平は、どもりらしいセリフ回しで、あふれる思いが空回りするさまがなんともおかしい。最初はそんな又平のどもりは、ひたすら滑稽でしかないのだが、場面が進んでゆくにつれ、そのもどかしさが尽きせぬ情念を湛えて、深い感動を誘うように。詳しい話はこれ以上言うと野暮だからやめとくが、物語はハッピーエンドで終わる。感情の高まる場面では主人公の又平のどもりの、つっかえたような話しっぷりが却って表現に花を添えている。そしてそんな夫を気遣い、時には陰になり日向になり助け船を出す女房。しかし昔の女って賢いですね。敢えて一歩引くことで直情径行の単純な男の性(さが)を巧みに制御する。男は名字帯刀の望みが叶わぬと分かるとすぐに切腹しようとするのだが、その度に女房が必死に止めるわけで。そして一歩引いて男を立てながら、方便を繰り出して時間を稼ぎ、直情径行な男を救う。一歩引くことにより夫婦の関係性において却って主導権を握れることをちゃんと知っているのだ。げに男が持つべきは賢き女房と昔からいうが全くその通り。それにしても、金丸座は小さい箱なので、三味線や謡のセリフが本当によく聞こえる。生の声がちゃんと客席まで届いてきて、謡のセリフもいつもなら半分くらいしか分からないところが、今回は8割9割ちゃんと理解できた。ここら辺りはある意味、歌舞伎座より上なのかも。35分の休憩後、後半へ。後半の演目は狂言を歌舞伎に作り替えたものなので舞台セットも能舞台のような造りになっている。囃子方も舞台隅に座っていて、能狂言っぽい。シリアスな前半と打って変わって文句なしに面白いコメディー。しかし狂言というのは、本当にアホなことをやるもんで。もちろん、いい意味で。この「身代わり座禅」もそう。女房の目を盗んで浮気したい主人が一日だけ参禅したいと外泊許可を、やかましい女房から獲得する。そこまでのやり取りだけでも十分に面白いのだが。そして座禅をしている所には、絶対に見に来るなと女房に言うのだが、その実、女房はやってくるだろうと見越して、主人、ここで作戦を一つ立てる。太郎冠者に自分の身代わりとして座禅させておくのである。しかしその姿形は襖で覆い隠して。で、その隙に自分は浮気に出かけるという算段。その目論見、最初は上手くいくのだが、所詮は稚拙な嘘。やがて予想通り座禅の場に現れた女房にバレて。狂言を歌舞伎にした演目というのは筆者は初めて見た。舞台セットや小道具も能狂言のように最小限の構成で組み立てられていて。一番違うのは衣装の豪華さとセリフ回しだろうか。狂言の朴訥なセリフ回しとは一味違う江戸前の粋な口跡となっている。あと、舞踊と音楽も本家の狂言より華やかで見応えある構成となっている。主人公の旦那の人のいいマヌケっぷりと、おっかない古女房の対比。内の女房にゃヒゲがある式の古女房の貫禄と迫力。まさに笑いの要素がたっぷりつまった爆笑必至の一時間。ホント笑わせて頂きました。最後は囃子方の人数も一気に増えて音が分厚く豪華になって。いやあ、面白いのなんの。真面目な演目と軽い笑いの演目と。バランスよく駆け抜けた休憩込みのたっぷりの三時間。いやあ、いいもんですよ、こんぴら歌舞伎。また来年も来たいもんです。皆さんも機会があれば是非、絶対に損はありませんよ。最高の芝居を見せてくれた歌舞伎の演者さん役者の皆さんに感謝。その舞台を提供してくれた金丸座さんに感謝。金丸座さんの下足番さん、席の案内係さん、その他関係者の皆さん方に感謝。この日お世話になった皆様方に感謝。そして今日も最後まで読んでくれたあなたにありがとう。