『メロディ・ベルと薔薇の騎士団-入団志願のはずが、公爵様の花嫁に!?-』を試し読み♪ | 一迅社アイリス編集部

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という編集部ブログ。

こんにちは!

アイリスNEO8月刊の発売日は、もうすぐ!
ということで、今月も試し読みをお届けしますо(ж>▽<)y ☆

試し読み第1弾は……
『マリエル・クララック』シリーズ、スピンオフ作品!! シリーズ登場のナイジェル卿の一族ー-シャノン公爵家の物語!
公爵様と武闘派令嬢の騎士団ラブコメディ、大幅加筆修正&書き下ろしを加え書籍化!!

『メロディ・ベルと薔薇の騎士団-入団志願のはずが、公爵様の花嫁に!?-』

著:桃 春花 絵:まろ

★STORY★
武の名門に生まれ、自らも騎士に憧れる伯爵令嬢メロディ。父の命を受けた彼女は、公爵の護衛士になるため王都へ向かうことに。女王の甥である公爵は異国から亡命してきた元王子で、今なお命を狙われているという。使命感に燃えるメロディだったが、到着早々大失敗をした上に、自分が護衛士ではなく花嫁候補であったと知り――!?
公爵様と武闘派令嬢の騎士団ラブコメディ、WEB掲載作を加筆修正&書き下ろしを加え書籍化!

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 ファラーは不快感を見せずに受け流した。団長同士までけんかをするわけにはいかないと、目の前の騒ぎを指摘する。
 言い合いをしているのは試合の当事者だけではなかった。双方の応援団からも野次と怒号が飛び交い、ついでに物も飛んでいる。いつものけんかとはいえ、大勢が見ている前でこれ以上みっともない真似をさらすわけにはいかなかった。
 ファラーは席から立ち上がり、騒ぐ部下たちを一喝しようとした。
 その時、人垣から飛び出した者があった。
 続いてもう一人、飛び出してくる。よく見ればその二人は騎士ではなく、先を行く方は小脇に荷物を抱えた庶民の姿で、後を追う者は旅装であることがわかるのだが、頭に血が上った騎士たちはそこまで冷静に観察していなかった。
 続けとばかり、一斉に飛び出してくる。たちまち両団入り乱れての殴り合い、取っ組み合いがはじまった。

「おやまあ」

 もう一人、並んで座っていた人物の口から、呆れ半分笑い半分の声が漏れた。

「ええい、やめい! やめんか馬鹿者どもが!」

 キンバリーも席を立って怒鳴った。しかし興奮した騎士たちの耳には届かない。ファラーはもう一度ため息をついて、かたわらに控えていた部下に命じた。

「来客の方々を誘導して、避難していただけ。巻き込まれてけが人が出てはいかん。閣下、あなたもお下がりください」

 同席する貴人にも声をかけるが、反応はない。まだ若い貴人は面白そうに、乱闘の中のある一点に注目していた。

「ほう、ずいぶんすばしこいね」

 暴れる騎士の群れの中、駆け抜けていく二人に貴人は笑う。

「あ、殴られた――ほう、それでも逃げるか。たいした根性だ。追手も見事だね。騎士たちを投げ飛ばしているよ」
「公爵閣下! どうか、お下がりください」

 ファラーにせき立てられて、ようやく貴人は立ち上がる。とたん、彼らの視線の高さが逆転した。
 並外れた長身の人物は、避難するどころかひょいと騒ぎの方へ踏み出した。

「閣下、どこへ行かれます。危のうございます!」
「ん、大丈夫」

 気負いもなくさっさと歩きだす。あわてて追いすがろうとしたファラーだったが、目の前に椅子が飛んできてのけぞった。

「誰だ、椅子など投げたのは! やるならせめて素手の殴り合いにせんか」

 そんなことを言っている間にも、長身の公爵は騒ぎの向こうへ姿を消してしまう。
 さらにその先には、春の陽差しにきらめく池があった。



 いくら逃げても執拗に食らいついてくるメロディに、盗人は今や恐怖すら感じていた。
 見るからに身分の高そうな連中や、いかつい男の集団に飛び込んでもためらわずについてくる。騎士たちが乱闘をはじめてくれたおかげで足止めできるかと思ったのに、その騒ぎすらすり抜けて追ってくる。なんなんだアレは、化け物か。見た目は普通の子供でしかないのがよけいに恐怖を煽る。逃げる理由が違うものになりつつあった。
 そろそろ苦しいと訴える身体を死にもの狂いで動かし、邪魔な着飾った女を突き飛ばす。悲鳴を背に盗人は公園の奥へと走った。
 やがて人工の木立の向こうから池が現れた。こちらも人工ながらかなり大きい。水遊びが人気で、日傘の貴婦人がボートからの眺めを楽しんでいる。彼は一直線に桟橋へ向かった。そこには使われていないボートが一艘残っていた。
 楕円形の池は、周囲を回るとそれなりの距離になる。追手が走って追いかけるうちに対岸まで漕ぎ着けてしまえと、階段を駆け下りる。
 しかし桟橋に足を乗せたとたん、背後に不吉な音と振動が響いた。
 メロディが階段を無視して一気に飛び下りてきたのだ。けっこうな段差をものともせず盗人の背後に着地し、抱えた荷物に手を伸ばした。

「返せ!」

 狭い桟橋の上でのもみ合いになった。
 この期におよんでもまだ荷物を手離そうとしなかった盗人は、意地というより混乱していただけである。離せば逃げられるという単純な答えに頭が回らず、なんとか振り払おうと暴れる。相手は自分よりはるかに小柄で細いのだ、力ずくで倒してやれと肘を打ちつけようとした。ところがまた目論見がはずれてしまった。
 攻撃をあっさりとかわしたメロディは、流れるような動きで脚を振り上げた。きれいに半回転しながら盗人を蹴りつける。見事な回し蹴りをくらって、とうとう盗人は荷物から手を離した。そのまま桟橋から吹っ飛んで、高々と水しぶきをはね上げた。
 ようやく荷物を取り戻したメロディは、体勢をしっかり維持したまま足を下に戻す――はずだった。
 その足元に、踏むべき地面がなかった。

「あ――」

 支えるもののない身体が傾く。
 途中までは上出来だったのに、最後の最後で失敗した。桟橋を踏みはずして池に落ちそうになった。
 すると腕をつかまれた。助けようとしてくれる人と、間近で視線がぶつかった。
 深い青色の瞳だった。海の色だと、とっさに思う。艶を放つ金褐色の肌と、驚くほどに長い黒髪が印象的だった。
 また腕をつかんだ方も驚いていた。
 フードの下からこぼれ落ちたのは、見事な蜂蜜色の巻き毛だった。同じ蜂蜜色の大きな瞳が、無垢な驚きを浮かべて見返してくる。
 両者は一瞬、状況を忘れて見つめ合った。
 そしてそのまま、池へ落ちた。
 ふたたび派手な水しぶきが上がった。

「公爵様!」
「あーっ、公爵閣下ぁっ!」

 見ていた人々が青ざめて桟橋へ集まってくる。彼らの目の前で、すぐに黒髪の公爵は水上へ顔を出した。

「うーむ、ちょっと間に合わなかったか」

 桟橋近くの水深は大人の男性がぎりぎり背が立つくらいだ。長身の彼は余裕で顔を出せたが、もう一人はそうはいかなかった。水の中でピョンピョン跳んでなんとか息継ぎしているのをつかまえる。腰の剣や荷物のせいで泳げなかったらしい。抱き上げてやると、少しの間咳き込んだ。

「大丈夫かね」
「は、はい……」

 ぜいぜいと息をつきながら顔を上げたメロディは、自分が巻き込んでしまった人の姿に青ざめた。
 ずぶ濡れだ。なんならまだ水の中だ。長い黒髪が顔に貼りつき、肩のあたりからフヨフヨと水の中をただよっている。なにかこういう怪物の話を聞いたような。

「ごっ、ごめんなさい……」
「うん。かっこよくは、決まらなかったな」

 のほほんと笑う彼に、駆けつけた騎士が桟橋の上から声をかけた。

「セシル様、おけがはございませんか?」
「ああ、大丈夫」

 答えた彼は、腕の中の子供が「セシル?」と小さくつぶやいたことにはかまわず、その身体をさらに高く持ち上げた。

「先にこの子を頼むよ」
「は」

 騎士は両手を伸ばし、強い力で小さな身体を引き上げる。その横からもう一人が手を伸ばした。

「セシル様」
「ん」

 少年めいた顔立ちの従者に手を借りて、公爵は身軽に桟橋へ乗り上げた。冷たいしぶきが周囲に散る。濡れた長い髪をかき上げ、己の身体を見下ろして苦笑した。

「あーあ、どうしよう」
「まあ、たいへん、公爵様」
「どうぞ、こちらをお使いくださいまし」

 貴婦人たちがわれ先にと、刺繍とレースで飾られた絹のハンカチをさし出してくる。気持ちはありがたいが全身ずぶ濡れの人間には足りないどころでない。公爵は微笑んで辞退した。

「ありがとう。でも濡らしてしまうから、あまり近寄らないで」

 そんな彼に、人垣を縫って現れた部下たちが声をかけた。

「よう、水もしたたる色男」
「あははー、見事に落っこちましたねえ。水泳にはちょっと気が早いですよ」
 主に対する敬意をかけらも見せずに若い二人は笑う。公爵は肩をすくめた。
「心優しい部下たちでうれしいね。さすがにこれじゃまずいんで、すぐに馬車を回してくれるかな。屋敷へ帰るよ」
「本当だ、たいへん。大丈夫?」

 そう言った若者は主の横を素通りし、桟橋の上でへたり込むメロディに駆け寄った。
 ここまでのやりとりを、メロディは驚きながら黙って見ていた。どうにか落ち着いて状況を呑み込むと、巻き添えにしてしまった人におそるおそる尋ねた。

「あ、あの……もしかして、シャノン公爵様でいらっしゃいますか?」

 黒髪の男性と、その部下らしき人々がそろってこちらを見る。メロディのそばに膝をついた若者が「そうだよ」と答えてくれた。
 はじかれたように立ち上がったメロディは、音がしそうなほどビシリと姿勢を正した。

「たいへん失礼いたしました! わたしはアラディン・エイヴォリーの娘、メロディ・ベルと申します。父の命で公爵様にお仕えするため、オークウッドよりまいりました!」

 元気よく言ったとたん、あたりに沈黙が落ちる。
 名乗りに驚いたのはそばの人たちだけではなかった。野次馬の人垣からもザワザワと声が上がった。

「オークウッドのエイヴォリーって……」
「アラディン卿の、ご息女?」
「たしか末のお子様が女の子だったかしら」
「そう聞いているけど、ではあの方がエイヴォリー伯爵令嬢?」
「え、ご令嬢? あれが?」
「というか、女だったのかあれ」
「今ありえないことが聞こえたような」
「まあ、エイヴォリー家だし……」
「エイヴォリー家だものね……」

 漏れ聞こえてくるやりとりにまったく同感だと公爵の部下たちも思う。驚きや疑念を抱きながらメロディを見つめるなか、一人黒髪の公爵だけが力なくつぶやいた。

「やっぱり……そうだと思った」

 濡れた二人は、同時に小さくくしゃみをした。


~~~~~~~~(続きは本編へ)~~~~~~~~

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