『無能で悪女な妹は冷徹無慈悲な副団長様のお茶汲み係』を試し読み♪ | 一迅社アイリス編集部

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まもなくアイリスNEO6月刊の発売日音譜
早速試し読みをお届けします爆  笑ラブラブ

試し読み第1弾は……
『無能で悪女な妹は冷徹無慈悲な副団長様のお茶汲み係』

著:海空里和 絵:ぽぽるちゃ

★STORY★
濁った魔力を吸い出す特殊な力を持つ男爵令嬢のレナ。彼女はその力に目をつけた聖女の姉とその婚約者によって、姉のものを欲しがる無能な悪女に仕立てあげられ、利用されてきた。虐げられたまま生きていくんだと諦めていたある日、かつて救ってくれた冷徹無慈悲と名高い騎士団副団長のエリアスと再会し、彼が呪われていることに気づく。彼を助けるため騎士団に潜入したレナだったけれど、あっさり拘束され、なぜかエリアス付きのメイドとして働くことになって!? 2年前命を救ってくれた憧れのあなたを今度は私が救ってみせる!! 落ちこぼれ令嬢と無自覚に溺愛する騎士のお仕事ラブファンタジー!

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「……この前神殿には、王太子殿下の命もあって赴いたんだ。騎士団の遠征に派遣される聖女の視察という名目で、呪いについて何か神殿が掴んでいないかを探るために」

 殿下の説明に、私の隣にいるエリアス様が付け足す。

「そうだったんですか……」

 貴族の抗争とか神殿とか、上の争いに国民が巻き込まれることに納得がいかない。
 王太子殿下も気苦労が絶えないんだろうな……と思っていると、正面のアクセル殿下が嬉しそうに口の端を上げて言った。

「まあ、嬉しい誤算だったよね。まさか、エリアスの呪いを治せるかもしれない子が自らやって来てくれるなんて」
「俺の問題に巻き込んですまない。だがこれを治す術があるのなら、それに縋りたい」

 申し訳なさそうに、でも真剣な表情でエリアス様が訴える。

「巻き込まれてなんて……私昔、魔物討伐でエリアス様に命を救っていただいたんです。だから恩返しがしたくて……」
「そうだったのか……」

 私の説明にエリアス様はわずかに目を見開いた。

(驚いてる? ……エリアス様は覚えてないよね)
「騎士が民を助けるのは当然のことだ。君が恩義を感じることはない。でも、来てくれて助かった。ありがとう」
(私が絶対にこの人を助けるんだ)

 エリアス様の凛とした姿に想いを強くした私は改まって言った。

「エリアス様、どうか私にあなたの呪いを治療させてください」
「ああ。よろしく頼む、レナ」

 エリアス様は即答した。しかも名前まで呼ばれて、何だか気恥ずかしい。

「ああ、すまない。命を預けるのだからとつい気安く呼んでしまった」
「いくらでも呼んでください!!」

 そんな私の様子を気遣ってくれたエリアス様の言葉に、今度は私が力いっぱい即答した。

「そうか。ではよろしく頼む、レナ」
(笑った!!)

 無表情だった彼の瞳が優しく細められ、整った唇も弧を描いている。その笑顔を見られただけで、今まで耐えてきた苦しみを全て回収してしまえるくらいの幸せに包まれた。

「盛り上がっているところ悪いけどね、お二人さん。レナ嬢は騎士団で拘束するからね?」
「「は!?」」

 アクセル殿下の言葉に、私とエリアス様の声が重なった。

「いや、だってエリアスを治してもらうのに万全の態勢で臨まないとね?」

 声をハモらせた私とエリアス様が同時にアクセル殿下の方を向くと、殿下は呆れたように言った。

「それはそうだが……騎士団で拘束とは穏やかじゃないな」
「だって、レナ嬢が虐待を受けていたのも、お姉さんに力を利用されていいように使われていたからでしょう? それでエリアスの薬作りに影響が出たら困るし」
「でも、姉とメイソン様が許すでしょうか」

 今日は一か八かで薬を渡しに来た。思いがけず成功したし、これからも任せてもらえるのは嬉しい。
 でも家に帰らないとなると、二人が黙ってはいないだろう。エリアス様に迷惑をかけることだけはしたくない。それに、チェルニー領の無料薬を引き上げられてしまっては、領民が困る。

「メイソン? シクス伯爵家の?」
「はい……うちはシクス伯爵家の援助で成り立っておりますので」
「チェルニー男爵領の政策……大聖女候補の婚約者……なるほど、そこも繋がっているのか」
「どういうことだ?」

 全てを悟った様子のアクセル殿下にエリアス様が眉をひそめる。

「わからない? レナ嬢はどうやらシクス伯爵家の息子にも利用されていたようだ」
「本当か?」

 私に視線を移したエリアス様に頷いた。

「なら、なおさらレナ嬢はここにいて。私たちが守るから」
「でも……」

 ためらう私にエリアス様が続く。

「もう我慢しなくていい。辛かっただろう?」 
「そうそう。あんな悪評をレナ嬢が受け入れることはないよ」
「レナがこの先も薬師として誇りを持って働けるように、あの家には絶対に渡さない。だから安心してくれ」

 お二人がそこまで考えてくれるなんて思わなかった。エリアス様を治したら、また姉とメイソン様の奴隷に戻るのだと覚悟をしていた。

「ありがとう……ございます」

 気づいたらポロポロと涙を溢していた。エリアス様が困った表情で私を見る。

「人に一生懸命なのは良いことだが、自分のことも労れよ?」
「はい……!」

 涙を拭いエリアス様に笑顔を向ければ、彼は安堵したようだった。

「どの口が言うんだか……」

 アクセル殿下が呆れたように呟いていたけど、私は聞き逃していた。

「まあ、私はこれでも国の重鎮だからね。君んとこの政策も手を回しておくから安心して。エリアスを治す報酬ってことでいいからね」

 こんなフラットに権力をかざす人がいるだろうか。私はおかしくて、つい笑ってしまった。頼もしすぎる。

「まあとにかくレナ嬢、君は今日から騎士団の預かりだ。名目上はエリアス付きのメイドとでもしておこうかな?」
「はい! あ、でも……」

 殿下の言葉に元気よく返事をしたものの、心配事もある。
 言いづらそうな私の顔を、エリアス様がどうしたのかと覗き込む。

「また愛人だと噂になったりしないでしょうか?」
「……は?」

 愛人という言葉にエリアス様が眉根を寄せる。
 でも大事なことだ。姉とメイソン様のせいで世間での私の評判は悪い。エリアス様は女性をも寄せ付けない冷徹無慈悲で有名だけど、私のせいで彼の評判を落とすことはしたくない。

「ああ、何を言い出すかと思えば……気にしないよね、エリアス?」
「ああ」

 アクセル殿下は今にも吹き出しそうな顔で言うと、またしてもエリアス様は即答した。

「噂なんてくだらない。俺は見たものしか信じない」

 でも、と言おうとしたところでエリアス様に遮られる。

「レナも堂々としていろ。君が悪いことは何もない」

 エリアス様は凛々しいその金色の瞳をまっすぐに私に向けて言った。

「それでも君を傷付けて来る奴がいるなら、俺が守ってやる」
「ありがとうございます……」
「はい、じゃあこれ、潜入衣装ね!」

 話が終わり、アクセル殿下はどこから取り出したのか、メイド用のお仕着せを私に手渡した。

「……準備がいいな?」
「何事も先回りが大事ってね」

 アクセル殿下はエリアス様にピースサインをした。

(もしかして、本当は最初から私のことを知っていた……? 薬のことも?)

 そろりと殿下を見れば、唇に指を当ててウインクされてしまった。
 こうして私はエリアス様付きのメイドになることとなった。

~~~~~~~~(続きは本編へ)~~~~~~~~