『魔法使いの婚約者13』を試し読み♪ | 一迅社アイリス編集部

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という編集部ブログ。

こんにちは!

アイリスNEO3月刊の発売日は、もうすぐ!
ということで、本日もアイリスNEOの新刊試し読みをお贈りいたします(〃▽〃)

試し読み第2弾は……
『魔法使いの婚約者13 きらめく四季の宝石箱』

著:中村朱里 絵:サカノ景子

★STORY★
夏のある日。王宮筆頭魔法使いで最強の旦那様であるエディとともにフィリミナは頭を抱えていた。それは双子達の「おつかいがしたい」という、可愛らしいお願い事をどうしたら叶えられるかという難題のせいだった。その解決のため、フィリミナが考えたことは――。
思わぬ事態に陥る「はじめてのおつかい大作戦」、他2編を収録した大人気シリーズ第13弾!

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「……手筈はいかがですか?」

 何の、とは言わずとも知れている。男は神妙に頷いた。

「今のところ問題はないな。ほら、お前も着けろ」
「はい」

 差し出されたのは、静謐に満ちた湖畔の水をすくい取ったかのような青の魔宝玉が輝くイヤリングだ。片耳だけのそれと同じものが、男の右耳で揺れている。私も同じように右耳に着けると、耳元で愛らしくはしゃぐ声が聞こえてくる。

 ――えっとぉ、えっとぉ、エリー兄しゃまがギルドで、エルがえうねしゅとおじいしゃまなのよ?
 ――そうだよ! エリーがお手紙で、エルがクッキーなんだよ。
 ――道はまっすぐなのよ?
 ――ラッパのかんばん!
 ――それで、お花屋さんの道を……あれぇ?
 ――えっとぉ、あのね、ほら、お菓子屋さんの道のほうに曲がるんだよ。
 ――わかってるのよ! それからまっすぐでむらしゃき色の屋根なのよ!

 口々に先程私が教えた内容を確認し合うその声に、思わずグッと拳を握った。流石エディの息子と娘で、エストレージャの弟と妹だ。完璧である。ふと気付くと、男もまたうんうんと深く頷いている。解る、解るぞ。私達の子供達はこんなにも賢く素晴らしい。
 何度もおつかいの内容を繰り返す双子の声を聴きながら、うむ、と私と男は改めて頷き合った。

「流石ランセントのお義父様ですこと。集音機の調子は良好のようですね」
「当然だ。お前の言う……ジーピーエスだったか。そちらも問題なく作動している」

 見ろ、と男が懐から取り出した紙には、双子に渡したものと同じような、解りやすい地図が描かれている。異なるのは、双子の地図が市場からランセント家本宅までのものであったのに対して、こちらの地図はこのランセント家別邸から道が始まっており、ついでにその道に、二つの朝焼け色の光が明滅しながら市場へと向かって移動している点である。これらは、エリオットとエルフェシアを示しているのだ。
 そう。実はエリオットとエルフェシアに被せたあの新しい麦わら帽子。正確にはその蝶の形の飾り石。あれは、この男とランセントのお義父様が今回のために作った、とっておきの魔宝玉である。朝焼け色の石にはGPS機能、青の石には盗ちょ……ごほごほ、そう、マイク機能というか、集音機としての機能が備え付けられている。こちら側のイヤリングは、その集音機機能の受け皿である。
 今回の件において、エリオットとエルフェシアのわがままを叶えてあげたいと思えども、本当は私だって、それがどれだけ危険なことなのかは解っていた。二人がまだ二歳だから、という理由ばかりではない。二人はこの国の王宮筆頭魔法使いの子供達であり、先達ての大祭において爆弾発言をかました元異世界人の子供達でもあるのだ。そしてそればかりではなく、妹であるエルフェシアの方は、精霊に愛されすぎるきらいのある、とびっきりの“黒持ち”なのである。よからぬことを考える輩がいないとも限らない、というか、いて当たり前であると考えるべきだろう。アディナ家とランセント家の男性陣が、こぞって心配するのも至極当然の話なのだ。
 だからこそ、本当に双子がおつかいをするとなった時、誰もができる限りの力を尽くそうと誓ってくれた。エストレージャは小犬、もとい子狼の姿になってくれた。そして目の前のこの男は、こうしてわざわざ休暇をもぎとって、私とともに二人の様子を見守る所存であると言ってくれた。朝、登城するふりをしたのは、長男坊だけではない。この男もまた同様だったのである。こっそり部屋に転移して、ずっと私と双子のやりとりを見守っていてくれた。
 エディもエストレージャも、そこまでしてくれたのだ。ならば私だって同じことだ。できることをできる限りし尽くしたい。とはいえ、私にできるのは、“前世”における知識を披露するくらいである。
 “はじめてのおつかい”において、何が必要なのか。考えた末に、私が出した案は、前述のマイクとGPSだ。どちらも魔宝玉で可能であることは解っていた。何せエディが贈ってくれた、かつてはブレスレット、今は指輪となっている魔宝玉にも、同じ機能が備わっているのだから。
 そして、私が提案したのはそれらばかりではない。

「エディ、ビデオカメラの方はいかがですか?」
「こちらも問題ないな」

 必要以上の装飾品を、基本的にこの男は好まない。私のことはやたらと飾り立てたがる傾向があるくせに、私よりももっと飾り立て甲斐があるはずのこの男は、自身についてはどちらかというと無頓着である。まあ装飾品なんてなくても十分どころか十二分、いや、二十分に美しい男なので、別に必要なんてないのだろうけど、それにしてももったいない……と、話がずれた。
 とにかく、そう装飾品を好まないこの男は、普段はせいぜい私と子供達が贈った髪留めと、後は魔力を制御するためのイヤリングくらいしか身に着けない。だがしかし、本日のこの男はいつもとは少し異なっている。イヤリングは前述の通り、いつもの金属製のものはない。代わりに右耳だけに、ランセントのお義父様お手製の魔宝玉が揺れるものがある。そして、その左目には。

「このビデオカメラとやらも、いずれ一般的に実用化したいが……」
「となると、規制も必要になるかと思いますが」
「まあそうなるだろうな。あらぬ場面を撮影されて困る奴らが大勢出てくるのが目に見えている」

 ――それは一見、モノクルにしか見えないものだ。男の左目の上にかけられた、一枚のレンズ。けれどそのレンズが、なんと魔宝玉を薄く削り出すというとんでもない御業によって作られた特別なものであるとは、一体誰が想像するというのだろう。花弁が散るような装飾がなされたフレームに添えられた魔宝玉が、レンズに映る映像をそのまま録画してくれる仕様になっているのだという。

「お前にはこれを。撮影機……こちらはカメラ、だったか。お前の言う通りの仕様にしたぞ。ここを押せば撮影できるようになっている」
「ありがとうございます」

 差し出されたのは、手で持つための棒がついた双眼鏡だ。オペラグラスのようなものである。おそらくこれのレンズも魔宝玉を削り出して作られているのだろう。値段を考えると空恐ろしくなる。丁重に取り扱わなくては、と誓いつつ、手持ちの棒の、ちょうど人差し指があたる部分にある突起を確認する。なるほどこれがシャッターか。
 ではさっそく。双眼鏡を覗き込み、ぽちっとな。

 ――パシャッ!

「……俺を最初に撮ってどうする」
「ふふふ」

 男が半目になって見下ろしてくる。いいではないか、一枚くらい。
 そうこうしている内に、男が広げている地図の上の朝焼け色の光が、どんどん市場に近付いていっている。右耳からは、はしゃぎ声に対して、楽しそうに「もうすぐですよ」と助言する御者の声が。

「やはりいつもの御者の方にお願いして正解でしたね」
「ああ。だが使い魔は飛ばしておいたぞ」
「存じておりますわ」

 馬車の後を追って飛んでいった小鳥。長い尾が美しかったあの小鳥は、この男が魔法で生み出した存在である。この小鳥は、追跡機能と同時にカメラ機能を備え付けられており、その視界がそのまま男のモノクルに映し出されているのだとか。よしよし、ここまでの仕込みは完璧……と、言いたいところなのだけれど。

「まさか別々のおつかいをしたがるとは思いませんでした……」
「……そうだな。商業ギルドなら、俺達のこともエリオット達のことも解っているだろうから、滅多なことにはならないだろうが……」
「そう、ですね」

 事の経緯を隠れて聞いていてくれた男も、おそらくさぞかし慌てたことだろう。商業ギルドは私もこの男も顔が知れているし、子供達も同様だ。顔見知りの誰かが何かしら子供達を手助けしてくれることを願わずにはいられない。こうなることが解っていたら、商業ギルドにも根回しをしておいたのに。
 ああ、大丈夫だろうか。今回の件はほとんど私のわがままで進めてきたものなのに、その私がこんな風に不安がるなんて。溜息を吐いている場合ではないと解っている。それでも込み上げてくる溜息をこらえられない。右耳から聞こえてくる楽しげな声が、やがて泣き声に変わったらどうしよう。
 考えれば考えるほど思考がドツボにはまっていく。そんな私を、ぐいっと男がその胸に引き寄せてくれた。続けざまにこめかみに口付けを落とされて、思わず声を上げれば、男は私の顔を間近から覗き込んでくる。
 左目がレンズ越しであったとしても、その美しさにはなんら遜色がない朝焼け色の瞳が、私を捕らえた。

「大丈夫だ。そのためのエージャと、俺達だと言っただろう?」

 頷くよりも先に、男が私を抱き寄せたまま、懐に地図をしまった。私に手早く、自分が羽織っているものと似たような日除けの外套を被せ、更にそのフードを頭にかけてくれる。そのまま男の片手に、愛用の杖が召喚された。
 あ、と思う間もない。杖の魔宝玉が美しい朝焼け色の光を放ち、私達を包み込む。続いて感じたのは、奇妙な浮遊感だ。そうして気付いた時には、私達は市場の、人目を離れた木陰に転移していた。

「着いたぞ。そろそろ馬車があの停留所に着くはずだ」
「――――はい」

 ……まあ、つまりは、そういうことである。今回の件、エリオットとエルフェシアの“はじめてのおつかい”は、エストレージャが一緒に、そして私とこの男が影からついて回る、という最終手段にて決着が着いたという訳だ。これこそが今回最大の計画である。

~~~~~~~~(続きは本編へ)~~~~~~~~

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