『出稼ぎ令嬢の婚約騒動2』を試し読み♪ | 一迅社アイリス編集部

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という編集部ブログ。

こんにちは!

来週早々には一迅社文庫アイリス4月刊の発売日!
ということで、今月も試し読みをお贈りしますо(ж>▽<)y ☆

第1弾は…… 
『出稼ぎ令嬢の婚約騒動2
 次期公爵様は婚約者と愛し合いたくて必死です。』


著:黒湖クロコ 絵:SUZ

★STORY★
信じられないことに、憧れの次期公爵ミハエルと婚約した貧乏伯爵令嬢イリーナは、彼の屋敷で花嫁修業をすることに。彼に相応しい女性となるためなら、血反吐を吐いてでも食らいつく! そう意気込んでいたけれど――。
臨時の武官となって婚約者の浮気調査に乗り出した少女と、婚約者に振り回される青年のすれ違いラブコメディ第2弾!


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「ああ。ミハエル様、今日もありがとうございます。これで一日頑張れます」

 後ろにいるオリガから若干引いたような空気を感じるが、許して欲しい。この部屋に飾られている大きな家族の肖像画は、まだアセル様が乳幼児の頃のミハエル様、つまり六歳のミハエル様が描かれている。もう二度と見ることができないこの天使のような可愛らしい姿を見て尊さを感じないなど、ミハエル教の使徒ではない。

「イーラ姉様、またお兄様の絵姿に感動しているの?」
「あ、アセル様。おはようございます」

 振り返れば、ミハエル様の妹君である、アセル様が立っていた。蜜色の髪は下ろしたままだけれど、それが窓から入る太陽の光によりキラキラと輝き眩しい。宝石など必要としない美しさだ。ドレスがピンクなのがさらに可愛さを引きたて、まるで妖精のよう……おっと。妄想している場合ではなかった。
 扉を開けてすぐに見える肖像画を真正面からじっくり見るために入口の所で足を止めていたので、私は慌てて邪魔にならないように部屋の中に移動した。

「アセル様じゃなくて、アセルだって。また様が付いているよ?」
「失礼しました。……えっと、アセル、おはよう」
「うん。おはよう。オーリャもおはよう」
「おはようございます」

 拗ねた様に唇を尖らせた姿も可愛らしいが、アセルが笑うとまるで花が咲いたかのように一気に場が華やかになる。実は妖精なのと彼女に言われたら、私は信じるだろう。
 公爵家に花嫁修業に来て、私が真っ先に矯正させられたのはマナーや習慣ではなく呼び方だった。ミハエル様――じゃなくて、ミハエルと結婚する予定の私は、ディアーナやアセルの義理の姉という立場になる。そのため名前は略称、もしくは呼び捨てにするようにと言われていた。正直私ごときが呼んでいいのだろうかと、いまだに思う。

「お兄様の絵姿が飾ってある場所に来ると、いつも見惚れているよね? 個室がある廊下に飾られた肖像画の前でもよく立ち止まっているし。そろそろ飽きない?」
「全然。むしろ何時間でも見ていられます」
「そっか。でも気を付けないとお兄様がまた拗ねるよ」

 その言葉に苦笑いしか出ないが、絵を見るたびに体が反応してしまうのだから仕方がない。
 テーブルにつき朝食を待っていると、公爵と公爵夫人、さらにディアーナが一緒に入ってきた。私は慌てて椅子から立ち上がると頭を下げる。

「おはようございます」
「おはよう。一緒にいいかな?」
「はい。もちろんです」

 公爵はミハエルと同じ銀髪に、少し青みを帯びた灰色の瞳をしている。年相応に目じりにしわがあり、髪も幾分かミハエルより少ないものの、整った顔立ちはミハエルによく似ている。さらにお年のわりに体が引き締まっており、細身だが貧弱と言う感じはない。年を取ると太る方が多いというのに。ミハエルの将来はきっとこんな感じだろうかと妄想がたぎる。
 その後ろにいらっしゃる公爵夫人は、茶色の髪に、ミハエルの瞳と同じ澄んだ青い瞳の持ち主だ。おっとりとした雰囲気は、どちらかといえばアセルに似ているかもしれない。そしてミハエルと同じ銀髪と青い瞳を持つ美少女のディアーナがそろうともう、素晴らしい以外の言葉が出てこない光景だ。

 神様、今日もお恵みをありがとうございます――。

「イーラ姉様」
「はっ。すみません」

 こそっとアセルに名前を呼んでもらえたことで、我に返った私は慌てて椅子に座る。アセルとディアーナは私がミハエル教の信者であることを知っているが、公爵夫妻の前ではまだ猫をかぶっていた。下手に知られてミハエルとの婚約を反対されても困るので、かぶれるものなら、猫はかぶり続ける予定だ。
 ただ……。

「私の顔ならいくらでも見たまえ。うんうん。私の顔で新しい娘が元気になるなら、どれだけでも貸すよ」

 バチンとウインクする公爵を見るたびに、隠す必要があるのかなと思わなくもない。むしろすでにバレている気がするし、公爵からはミハエルと同じ匂いがする。

「うふふふふ。若い娘からしたら、もう、いいおじさんなんだから。それぐらいになさって。イーラが困ってしまうわ」
「おじっ……サーシャ?! 私はまだ君の心を奪えているかい? おじさんになっても、私のことを愛してくれるかい?」
「ええ。私も一緒に年を重ねておりますもの。いつまでも若いままでしたら、私が恥ずかしくて隣に立てなくなってしまいますわ」
「何を言っているんだい。サーシャはいつでも美しいよ。それに若ければいいというものではない――」
 
 そしてすごい夫婦仲がいい。初めてこの馬鹿ップル的なやり取りを見た時はどうしたらいいのかとオロオロしてしまった。しかしディアーナとアセルが普通に聞き流しているのを見て、公爵夫妻の甘い空気は壊さずそっとしておくようにしている。そしてそれはたぶん正しいのだろう。この流れは公爵家に来てから何度も見ているし、使用人達も気にせず朝食の準備をしている。用意された朝食を姉妹が食べ始めたのを見て、私も食事をいただくことにする。

「そういえば、イーラは毎日欠かさず走っているようだね」
「す、すみません。五月蠅かったでしょうか?」

 一応、ミハエルを通してお許しはもらっているが、貴族の令嬢としては普通ではない行為だ。しかしミハエルを支えるためには、やはり体力は必要だと思う。そして筋肉は一日にしてならずだ。日々の積み重ねが大事なので、この訓練は自分のストレス発散という意味だけではない。
 できればこのまま続けたいけれど……。

「そんなことはないよ。実は庭師がね、君がランニングして庭を見てくれるから張り合いが出ていいと喜んでいたんだ。私達はあまり庭に出て散策をしないからね。これからも庭師のやりがいになってあげなさい」
「あ、ありがとうございます」

 そして庭師の皆様も、本当にありがとうございます。
 私が庭を見たところで、公爵家の皆様に見てもらえなければ張り合いはあまり出てこないだろう。それでも顔見知りのよしみで、前向きな意見を公爵に言ってくださったに違いない。

「ランニングをしているから、イーラはそんなに細身なのね。コルセットなしでもちゃんとくびれがあるみたいだし、羨ましいわ」
「サーシャは少しふっくらしているぐらいが、可愛らしくていいよ。それに君がこれ以上美しくなってしまったら私の心臓がもたないじゃないか。これ以上誘惑しないでおくれ」

 息をするように妻を褒める公爵は流石すぎだ。しかし姉妹の目が、親のラブロマンスを前に濁っていた。居たたまれない気持ちになるのは分からなくもない。
 私も親が目の前でこんな会話をしだしたら、虚無顔になりそうだ。

「そう言ってくださるのは、貴方ぐらいですわ。イーラのおかげで、使用人達も色々やりがいが出ていると他の場所でも聞くし。これからもよろしくね」
「こ、こちらこそ、お願いします」

 やりがいとは、一体何のやりがいなのか。よく分からないけれど、それを公爵夫妻に伝えるとか、使用人達の心遣いに感謝だ。ありがとうございます。おかげで今のところ、嫁と姑問題は起こっていない。



 拝啓ミハエル様。
 
 私は公爵家でとてもよくしてもらっています。義両親も妹君も使用人でさえやさしく、至らないことばかりの私を手助けしてくださりありがたいかぎりです。さらに屋敷のいたるところにミハエルの絵姿もあり、毎日天国にいる気分です。むしろ、今までのミハエル成分からするとミハエル成分過多になって死にそうなぐらい幸せです。……幸せすぎて、最近思うのですが、私、一体どのタイミングで血反吐を吐いたらいいのでしょう? 血反吐ではなく鼻血が出そうな日々に困惑しています。
 
~~~~~~~~(続きは本編へ)~~~~~~~~

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