『乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…5』を試し読み♪ | 一迅社アイリス編集部

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5月刊アイリスの試し読み第2弾は……
『乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…5』

著:山口 悟 絵:ひだかなみ

★STORY★
乙女ゲームの悪役令嬢カタリナに転生した私。破滅エンドを回避したはずが、なぜか最大の破滅フラグだったジオルド王子との婚約は継続中。「私、いつでも身を引きますから!」そう本人にも宣言しているのだけど……。
ジオルド王子の婚約者の座を狙う令嬢が現れるライバル登場編、ニコルのお見合い編ほか、カタリナたちの日々や意外な人物にスポットをあてた過去編も収録。大人気★破滅回避コメディ第5弾はコミック大増量で登場!

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「ぶへくしょん、ぶへくしょん……う~ん。風邪でも引いたかしら? 最近、寒くなってきたからな~。アン、何か温かい飲み物をお願いしてもいい」

 くしゃみとともに出てきた鼻水を啜りつつ、部屋に控えていてくれるアンにそう頼むと、

「かしこまりました」

 うやうやしくそう言って準備を始めてくれる。しかし、その後には「しかし、カタリナ様そのくしゃみは淑女としていけません」と小言もつけてくれた。

「はーい」

 と返事はしたものの、じゃあ、淑女らしいくしゃみって一体どんなものかしら?
 くしゃみのあとに『ですわ』とつければいいのかしら? 『ぶぇくしょんですわ』う~ん、これで淑女らしく聞こえるかしら? よし、次からはそうしてみようかな。
 そんなことを考えていると、アンが温かい紅茶を淹れて持ってきてくれた。お茶うけに美味しそうなクッキーもついている。さすがアン、できるメイドだ。
 お礼を言って、お茶を受け取り、口をつけると身体がほんわりと温まった。
 最近は室内にいても段々と肌寒くなってきている。秋が終わりもうすぐ冬がやってこようとしている。
 そして、その冬が終わり春になれは魔法学園に入学し寮での生活がスタートする。
 それまでに準備しなければならないことは多い。
 特に私の場合は向かう魔法学園に破滅が待ち受けているため、よりしっかり色々と準備しておかなければならない。
 それにしても過ごしてみればあっという間だったなー。
 八歳で前世の記憶を思い出し、そのままジオルドの婚約者に決まりはや七年。破滅フラグを一つでも少なくするために、なんとか婚約者という立場から逃れようと色々とあがいてみたが、結局いまだにジオルドとの婚約は継続されたままだ。
 幼い頃から美しく完璧な王子様と言われていたジオルド、それは成長しても少しも変わらなかった。
 むしろその美しさに磨きがかかりさらに多くの女性を引き付ける存在になった。
 勉強だって運動だってできるし、魔力も高い。その評判は年々あがる一方だ。
 それに比例して、婚約者である私に対する世の女性たちからの妬みも年々ひどくなっていく。
 まぁ、でも実際には公爵家の令嬢である私に表だって何かしようという者は現れないのか実害をこうむったことはない。
 少々嫌みや、冷たい目で見られるくらいでなんてことはない。でも、これから学園に入ったら……どうなるかわからない。
 年々、人気があがるジオルド、ゲームでは腹黒くて、攻略が進むまでは主人公にも愛想笑いしか見せないような王子様だった。
 しかし、実際の彼はお飾りの婚約者にも親切で、よく笑ういい奴である。
 そんな彼とゲームの主人公が出会ったのなら……主人公も他のたくさんの女性たちのようにジオルドに恋をするのだろうか?
 それにジオルドはどうなのだろう。たくさんの女性に言い寄られ、とても人気者の彼だが、彼の口から特定の女性の名前が続けて出てきたことはない。
 そういえば好みの女性のタイプなんかも聞いたことがない。
 ゲームでは主人公の他の令嬢たちとは違う破天荒なところに興味を持ち、その前向きで明るい性格に惹かれていくという設定だった。
 現実ではどうなのだろう、やはりジオルドは主人公に会ったら興味を持ち、やがて恋に落ちるのだろうか。
 もし、二人が恋に落ちたら、婚約者であるカタリナは邪魔な存在になる。
 今の私に二人を邪魔する気なんてさらさらない。むしろ心から応援する所存である。
 しかし、それでも学園に入ってゲームが始まったらどうなるかわからない。
 主人公に邪魔だと思われたら……今はよい友人であるジオルドだって、初めての恋に溺れて我を忘れてしまうかもしれない。前世のマンガやアニメ、最近読んだロマンス小説にもそういった話は多々あった。
 だからこそ、学園に入るまでにしっかり準備しておかなくては!

「よし! トムじぃちゃんの所にいって、ヘビの玩具の調整をしよう!」

 クッキーをかじりながら、そう言って立ち上がると。

「カタリナ様、遊んでばかりいないで、そろそろ学園に入るための準備を始めたほうがよろしいと思いますよ」

 アンがぴしりとそう言ってきた。

「何を言っているのよアン、ヘビの玩具作りも大事な準備よ、学園に入るまでに完璧なものを完成させないといけないんだから!」
「え! まさかカタリナ様、あのトムさんと作っている妙なものを学園に持っていかれるつもりですか?」
「もちろんよ! あれは大事な武器になるんだから」
「武器って、一体なんの武器ですか!」
「破滅を防ぐための大事な武器よ!」
「また、わけのわからないことをおっしゃって……」

 そう言って額に手をあて、ため息をついたアンの元を後にし、私は庭師であり私の農業の師匠でありまた、ジオルド対策のヘビの玩具製作の協力者であるトムじぃちゃんの元へと向かう。
 よ~し! 魔法学園入学までにヘビの玩具をより完璧にしよう!
 私は鼻息荒く、さらに気合をいれて駆け出そうと踏み出して……一歩目でドレスの裾に引っかかって、ひっくり返った。

「はぐっう!」

 なんとか持ち前の運動神経を駆使して手をつき、顔面から床にダイブすることは免れたが、なんとも幸先が悪い感じとなってしまった。
 うぬぬ、なんでこの世界は普段着もこんな長くて動きにくいドレスなのかしら、普段着といえばジャージでしょうに! 日々、ジャージで過ごした前世が懐かしい。
 私はひらひらして無駄に長ったらしいドレスの裾を、ぐっと膝までたくしあげる。
 これでとりあえずはダッシュできる。このまま部屋に行って作業着に着替えてから庭に行こう。
 そうして、再び気合を入れ直し一歩を踏み出した。
 丁度その時、目の前の扉が開き、中からお母様が出てきた。
 がっつりと目が合ったお母様は初め『あらまぁ』という感じの少しびっくりしたような顔を見せた。
 しかし、その表情は私の全身を眺めた後に段々と険しくなっていった。
 お母様にはいつも『淑女はスカートの裾を翻して歩いてはいけない』と注意されている。
 だが、今の私は裾を翻すどころか、がっつり膝まで全開に捲りあげている。
 普段はお母様の目に付くところでは、(怒られるので)こういうことをしないように気を付けていたのに、気合を入れすぎてついそんなこと忘れてしまっていた。
 もともときつめな顔つきがどんどん険しくなり、般若に変身していくお母様。
 これはまずい……私は本能的に後ろに下がり、逃亡を試みたが……そこはお母様も長年、私の母親をやっているだけあって、私の行動をしっかり読んでいたらしく、さっとドレスの首元をつかみ瞬時に捕獲されてしまった。そして、

「ちょっと、私のお部屋へいらっしゃい」

 お母様の部屋という名の説教部屋へと連行されてしまった。
 そして結局その日はヘビの玩具作りどころか、庭にさえたどりつけなかった。
 しかも、学園へ入学してからの素行が心配だというお母様にまたマナーの勉強を増やされてしまった。
 こうして私の学園への入学準備はなかなか進まないまま時が過ぎていく。



「舞踏会ですか?」
「そう、舞踏会だよ。もうすぐ学園に入学だろう。その前に交友関係を広げるためにもそろそろいくつか出ておいた方がよいと思ってね」

 家族四人で夕食をしている時にお父様から出た言葉をそのまま聞き返すと、そう返された。
 そして『招待状がきているものからいくつか選んでおいたからよいと思うものに行ってみなさい』と言われた。
 今年で十五歳になった私は誕生日に舞踏会デビューをはたし、その後にはジオルドとアランの誕生日パーティーの舞踏会に出席したが、その他のちゃんとした舞踏会にはまだ出ていなかった。
 理由としてはジオルドたちの誕生日の舞踏会でパクパクとご飯を食べ、ごくごくとジュースを飲んでいたら、間違ってお酒を飲んでしまい、酔って会場でひっくり返り記憶をなくすという事態を引き起こしてしまったためである。
 それでも幸いにもパーティー会場の端っこでの出来事だったことと、その後の義弟や友人たちが迅速に対応してくれたことで、社交界の人々には知られずにすんだのだが……さすがにお父様たちのところにはしっかり知らせがいった。
 そのため、舞踏会はしばらく禁止、そしてお母様のマナー教室の強化が行われていた。
 そうしてこの時期まで日々、マナーマナーマナーと言われ続けてきたが……ようやく舞踏会オッケーがでたのだ。
 これでお母様のスパルタマナー教室もおしまいだと、とても喜んだが……そこはそこで継続らしい。というより、私のマナーが合格したから舞踏会がオッケーになったのではなく、そろそろ学園に入学するからいい加減に舞踏会にいくつか出しておかないとということらしい。
 魔法学園に入ると寮生活でなかなか貴族の社交界に出ることができなくなるのでというのがどうも大きいらしい。
 私のマナーが認められたわけではなかった。
 なぜだ、もう何年もこんなに真面目に淑女らしくしているのに、一向にお母様マナー教室の合格が出ない。きっとお母様が完璧主義すぎるからなんだろう。
 まぁ、そういったわけでマナー教室は継続だが、舞踏会には参加できることとなった。
 舞踏会は子どもたちのお茶会とは違ってお菓子じゃなくて、美味しい食事がたくさん出るから楽しみだ。
 キースにも相談して、お父様がピックアップしてくれたいくつかの舞踏会から、参加するものを選んだ。



「どうして、この舞踏会を選んだんですか?」

 いつものようにうちに遊びに来ていたジオルドに、さっそく久しぶりに参加することにした舞踏会のことを話すと、なんだか微妙な顔をされ、そんな風に聞かれた。

「ああ、私は特にどこでもよかったんですけど、なんかキースが、これがいいらしくて」

 私はあまり社交界のことはわからないし、そもそもすでに私でも大丈夫そうなところをお父様が選んでくれているわけで、本当にどこでもよかったのだが、キースには好みがあったらしく、ここがよいと強い希望があったためにそこに決めた。

「キース、君、わざとですね」

 ジオルドがなぜか眉をよせ、キースにどこか冷たい視線を向けた。

「なんのことですか」

 対するキースは、そう言って微笑んだ。

「何か問題があるんですか?」

 どうも微妙な顔のジオルドにそう聞いてみれば、

「舞踏会自体には問題はないんですが、この日、僕は隣国からの客人を迎える役目があって抜けることができないんですよ」
「そうですか、それは大変ですね。それで何がいけないのですか?」

 王族であるジオルドにはまだそれほど多くないが外交の仕事があることがある。王族は大変だ。
 でも、それでジオルドが抜けられないからなんなのだろう、舞踏会に出るのは私なのだから別に何も問題ないと思うのだが。

「はぁー、カタリナ。舞踏会にはエスコートが必要でしょう。そしてエスコートは基本的に婚約者がするでしょう」
「あ、そうだった!」

 そういえばお茶会と違って舞踏会にはエスコートが必要だったんだ。しばらく出てなかったからすっかり忘れていた。
 舞踏会に出る時は婚約者であるジオルドの都合も確認しなければいけなかったのだ。

「ごめんなさい。すっかり忘れてて……でももう出ますって返事しちゃったのよね。どうしよう」

 困ったな~、一度、出ますって言ったのにキャンセルって大丈夫なのかな?

「大丈夫だよ義姉さん、エスコートは、一応は婚約者ってことになってるけど、家族でも構わないんだから、この舞踏会では僕がエスコートするよ」

 困る私に優しい義弟がそう言ってくれた。

「よかった。ありがとうキース」

 喜ぶ私とは、対照的にジオルドはなぜか不服そうな顔をしていた。

「やってくれましたねキース」
「なんのことでしょうか。まぁ、今回の舞踏会では僕が義姉さんのエスコートをしますから、ジオルド様はお客様のお相手を頑張ってください」

 そう言ったキースはとてもいい笑顔だった。
 こうして、私はキースのエスコートの元、人生で三回目の舞踏会に望むこととなった。


~~~~~~~~(続きは本編へ)~~~~~~~~

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