『鳥かごの大神官さまと侯爵令嬢』を試し読み♪ | 一迅社アイリス編集部

一迅社アイリス編集部

一迅社文庫アイリス・アイリスNEOの最新情報&編集部近況…などをお知らせしたいな、
という編集部ブログ。

こんにちは!
本日も4月刊の試し読みをお届しますо(ж>▽<)y ☆

試し読み第2弾は……
『鳥かごの大神官さまと侯爵令嬢』
鳥かご
著:佐槻奏多 絵:増田メグミ

★STORY★
ある日突然、王子との婚約内定が取り消しになってしまった侯爵令嬢のレイラディーナ(=レイラ)。ただでさえ落ち込んでいたのに、さらにいわれない非難を浴び、これから先の婚約も望めなくなってしまった。人生に絶望していたけれど、大神官アージェスに出会って考えは一変!? 素敵すぎる超絶美形な大神官様の傍にいたい! とレイラは聖女候補に立候補したものの、そこにはなぜか王子の新しい婚約者シンシアが!! 再び絶望の淵に立たされたレイラの前に現れたのは――?
そのためには聖女を目指すしかないわ!! 恋に落ちた面食い令嬢の神殿ラブコメディ★

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「私は悪魔だ」

 ……そんなあっさり認めるの? とレイラは拍子抜けした。しかもだ。

「悪魔です、なんで自己紹介する人、初めて見た……」

 心の声が口から漏れてしまったレイラに、悪魔と名乗った人物が笑う。

「なぜこのような場所に、いる? 理由によっては見過ごしてやっても……いいが」
「り、りゆ……う?」

 尋ねられて、レイラは困った。
 事情を話せば見過ごしてもらえるらしい。だけど口が震えて、上手く話せる自信がない。このままでは、悪魔に殺されてしまうかもしれない。
 死ぬ、と想像した時に……生きていてどうするんだろうという気持ちになった。
 アージェスの側にもいられない上、婚約者を奪ったシンシアが、恋する相手の隣に立つ姿を見なくてはならなくなる。不幸のどん底で、殺されても生きていても同じではないのか。

「そうよね、これ以上不幸になりようがないのだし」

 自棄になると、上手く声が出せるようになった。

「お話しますわ。そもそも私、王子との婚約が内定していたのに、突然解消されたのです。他の、もっと条件のいい女性と王子が婚約するために」

 レイラは、自分が神殿の片隅で絶望感に浸ることになった経緯を語った。

「それだけならまだ私が傷つくだけで済んだのです。けれど、王家が内定の話をほとんどの貴族に漏らしていて。私が婚約解消されたのは周知のものになっていました」

 レイラは一度唇を噛みしめてから、続けた。

「こうなってはもう、国内では結婚できる可能性はありません。相手が王子では祝い事がある度に皆が思い出してしまいますもの。噂は私が結婚できない年齢になっても消えないでしょう。だから神殿に入ろうと思ったのです」

 聞き終わった悪魔は、一つだけ疑問に感じたようだった。

「なぜ、聖女に? 三年ぐらいでは噂が薄れないのだろう?」
「私に神官になれるだけの能力はありません。だけど聖女なら、例年はあまり聖霊術の強さで選ばれないと聞きました。なんとか聖女になれば、任期後も神官として神殿に残れると聞いたのです。それに大神官様の……お側にいたくて」
「大神官の側にいたいのは、なぜだ?」

 もう、そんなことは不可能だと思ったレイラは、自分の気持ちを少しぐらいは悪魔に教えても構わないだろうと思った。

「優しくしてくれたんです。王宮で人に心ないことを言われて泣いていた私に。それが嬉しくて。あの方の姿だけでも見ていられたら、結婚できないような私でも、幸せな気持ちで生きられるのではないかと思ったのです……」

 言葉を口にしながら、レイラは自分でも泣けてきた。
 恋人になるなんて大それたことは望まない。嫌われずに、仕事仲間ぐらいの関係でもいいから近くにいて、見つめられれば良かった。そんなささやかな願いをかなえたかっただけなのに、高すぎる壁が立ちはだかる。

「でも王子の婚約者のシンシア嬢が、聖女に立候補していて……」
「その娘が、お前に代わって婚約者になった人間か」
「そうです。彼女はとても強い聖霊術が使える人です。しかも王子の婚約者となれば、神殿も彼女以外を選べませんでしょう?」

 むしろシンシアを選ばなければ、王家が強く抗議するだろう。神殿も王家と対等な立場とはいっても、諍い事を抱えたくないはずだ。他の聖霊術が得意ではない令嬢を、選ぶことなんてできない。
 考えるほど、無理だという気持ちが大きくなる。
 涙が溢れてきて、目の前にいる悪魔の姿も滲んでよくわからなくなった。
 でも元から顔もよく見えないし、問題はない。流れ出る涙を拭っていたら、悪魔がまた小さな笑い声を漏らした気がした。悪魔だから、きっと他人の不幸が面白かったんだろう。
 そう考えていたら、悪魔に妙な提案をされた。

「……もし、聖女に選ばれそうなほどの力を得られるなら、どうする?」
「力って……聖霊術?」
「悪魔なら、それが可能だと思わないか? 今の話が面白かったから、お前に力を与えてやってもいい。欲しいか?」

 レイラは目を見開いた。
 もっと強い聖霊術を扱えるようになったら、アージェスの側にいられる。聖女になるのを、諦めなくていいはずだ。
 心が浮き立った直後に「でも」という言葉が心をかすめた。悪魔の力で聖女になったら、優しいアージェスでもレイラを嫌うかもしれない。
 でもそこで、このままでは嫌われるどころか、側にもいられなくなることを思い出した。焦りがレイラの背中を押す。

「く、下さい!」

 悪魔が気を変えないうちにとレイラは急いで返事をした。すると悪魔はうなずいた。

「いいだろう。ただ代償は……そうだな。私の食事風景を見ただろう?」
「食事って、花を枯らしたことですか?」
「そうだ。私は生き物の中にある力を取り込んで糧にしている。だが毎回食事をするためにあちこち枯らして歩かなければならないので不自由している」

 悪魔の言葉を聞きながら、レイラは「ふむ」と納得した。花の力を食べていたのか。
 そんなことを言い出すのだから、この悪魔は食事の手伝いでもして欲しいのだろう。頻繁に庭の花を枯らしていたら、神官達に倒されそうになっているのかもしれない。
 とはいえ、レイラには花を枯らして吸収する、なんて真似はできない。

「そうしたら、代わりにごはんを沢山食べたらいいのかしら?」

 ごく自然に、食べる量を増やせばいいとレイラは思った。そう言った次の瞬間、食べるのは悪魔なのだから、自分が食べても解決しないことに気づいたのだけど。
 悪魔を取り巻く黒い煙のようなものが、うごめき出す気配がした。
 クスクスと笑い声が聞こえて身を縮めた瞬間、わっと煙が急に増え、レイラを取り巻いた。
 ランプの光も見えなくなる。
 目の前が真っ暗になって悲鳴を上げかけた時、何かがカチリと切り替わったような感覚がして、レイラの悲鳴が引っ込んだ。
 何? と思っているうちに、煙はいつの間にか周囲からなくなっている。
 目の前にいる悪魔は、どうしてか肩を震わせていた。まさか笑ってるのだろうか?

「代償は決まったようだな。お前は聖霊術を使うために、沢山食べなければならなくなったようだ」

 悪魔の言葉を頭の中で反芻し、吟味して、レイラはようやく気づいた。

「まさか沢山食べるのが代償だというの? うそ、決まってしまったの!?」
「お前が口を滑らせたからだ。もう取り消しは効かない」
「え……」
「ではな」

 そう言うと、悪魔はさっさと立ち去ってしまう。
 残されたレイラは、悪魔が持つランプの明かりも見えなくなり、足音も聞こえなくなってから、その場に座り込んだ。

「私、大食漢になったってこと!?」

 つぶやいて、レイラはとんでもない事態に呆然としてしまったのだった。

~~~~~~~~(続きは本編へ)~~~~~~~~