『転生乙女は恋なんかしない』を試し読み♪ | 一迅社アイリス編集部

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こんにちは!

本日は6月刊アイリスの試し読み第2弾の登場ですラブラブ

転生乙女は恋なんかしない 
~俺様王様間に合ってます!!~』


著:小野上明夜 絵:松本テマリ

★STORY★
尊敬する上官に捨てられ、好きになった王子に振られ……前世で散々な目にあい、「もう恋は卒業」と、気合を入れて森に引きこもっていた異能の少女、フルール。
そんな彼女の元に、かつての上官である俺様転生者・ナイトレイがやってきて――?

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 植物たちに先導されるままフルールがやって来たのは、森の南の端だった。事前に得ていた情報通り、きらめく緑の天蓋の下、フードを被った男を中心に五人が一塊になって歩いている。
 名家に仕える執事のように、ベストを着こなした口ひげの紳士もいれば、幅広の帽子が小粋な軽装の男もいる。かと思えば人目を気にしない性格なのか、よれよれのシャツを羽織り何かを抱えて歩く猫背の青年もいる。軽装というより単に露出の激しい青年もいる。
 統一性のない衣装に身を包んだ男たちは、やはりスターリー王家とは無関係に思えた。しかし、どこか、既視感を覚える。

「……まさか」

 もっとよく見ようと、隠れていた茂みから身を乗り出した瞬間だった。
 きょろきょろと辺りを見回していたフードの男と、ばっちり目が合った。深紅の瞳が、大きく見開かれる。

「――フレイア!」

 迷いなく前世の名前で呼ばれ、飛び上がりそうになった。
 フルールの見た目が前世とほとんど変わっていないとはいえ、フレイアが死んでから五十年経っているのだ。躊躇のない呼び方はもちろん、その声に、姿に、瞳の色に、心当たりがあった。

「やはり……貴様か。貴様も……転生していたのだな。『外れ』は転生の可能性が高いのか、それとも……」

 フードの下から覗く濃い色の銀髪、真っ赤な瞳。彫りの深い顔立ちも、冷気を含んだ低い声も、マントの下から見える豪奢な服装も、間違いなかった。

「……アルカード様……?」

 己を裏切ったフレイアの全身の血を沸騰させ、蒸し焼きにして殺した男が目の前にいる。彼が連れた男たちの前世名も次々と浮かんできた。いずれも役立たずのフレイアを歯牙にもかけず、冷たかった者たちばかり。

「それに……あなたたち、もしかして……オルビー、デクス、ヴァン、ヘルムート……」
「ふんっ! こいつらのことは、後回しだ!!」

 アルカードの部下の名を次々と挙げていると、フードの男が話に割り込んできた。

「アルカードは過去の名よ。我が名はナイトレイ・バルクス!! 貴様ら『環から外れしもの』の王!!」

 バサリ、と華麗にマントを翻したアルカード改めナイトレイだったが、次の瞬間「うあっち!」と叫んで手の甲を押さえた。途端に彼の部下と思しき男たちが渋面になる。

「ナイトレイ様、いけませんよ。思いきり陽が照ってるんですから、ちゃんと木陰を選んで手を突き出さないと」
「マントをバサバサやるのは、確かにちょっとかっこいいですけど……時間帯を考えればどうです? あと、側でやられると邪魔……」
「ええい、黙れ! こういう演出が大事なんだ!!」

 前世名はオルビーとデクス、通称ダニエル兄弟と呼ばれていた二人に口々に忠告されたナイトレイが、二人に向かって怒鳴り返した。……そういえばアルカード様は血を扱う能力のためか、まるで伝承にある吸血鬼がごとく陽の光に弱かった、とフルールが思い出している間にナイトレイは体勢を立て直す。

「あー……こほん、改めて名乗ろう。私はナイトレイ・バルクス!! 貴様ら『環から外れしもの』の王!!」
「あ、ええ、はい」

 片手でフードを押さえ、片手で持ち上げたマントの角度を調整しつつの口上を聞いて、フルールは居住まいを正した。気圧された訳ではなく、なんとなく気の毒に思ったからである。

「小娘、貴様の今生の名を教えろ。貴様も、もう……フレイアではあるまい?」
「えーと……フルール・ティーナと申します」

 他に応じようもない。ためらいがちに名乗ると、腕を下げたナイトレイが意外そうな顔をした。

「……お前、姓があるのか」
「ええ、一応」
「前世では聞いたことがなかったが……」
「はあ、まあ、前世でもあるにはあったんですけど、私を捨てた親の名前だと思うと嫌で、使っていなかったので……そもそもアルカード様は、私に興味をお持ちではなかったし」

 ついしゃべってしまったところ、ナイトレイの目元がぴくりと動いた。今さらの話で馬鹿にされるのも嫌だったので、本題に戻すことにした。

「アル……じゃなかった、ナイトレイ様でしたっけ。一体この森に、何のご用ですか?」
「ふん、こんなしょぼくれた森になど用はない。用があるのは貴様だ、フレイア……いや、フルール」

 さり気なく木陰に移動したナイトレイは、記憶にある洗練されたしぐさで前髪をかき上げた。

「臆病な使えない小娘だとばかり思っていたお前が最期に見せた、意外な大胆さに興味を惹かれ、ずっと探していたのだ。フルール・ティーナよ、また私の部下になれ」
「……え?」

 意外なのはこっちである。まさかの訪問理由に度肝を抜かれているフルールに、ナイトレイは「驚くのも無理はない」と甘ったるく微笑んだ。あの最期の夜、フレイアをかわいそうだとささやいた時と、そっくり同じ声だった。

「前世で果たせなかった目的を果たすのだ。『外れ』の力を恐れて差別する愚か者どもに教えてやろう、我々の価値を……!!」

 ばっと両腕を広げると同時に、フードが肩に落ち、跳ね上がったマントが大きな鳥の翼のように広がった。
 夜の結晶のような美貌には似合いの演出ではあったが、いかんせん木漏れ日の差し掛かる真っ昼間の森の中である。たとえ今が真夜中であっても、フルールの答えは決まっていたが。

「あ、もう、そういうのは間に合ってるんで」
「――は?」

 いたって冷静な返答に、ナイトレイの眼がまん丸く見開かれた。

~~~~~~~~(続きは本編へ)~~~~~~~~