一迅社アイリス編集部

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一迅社文庫アイリス・アイリスNEOの最新情報&編集部近況…などをお知らせしたいな、
という編集部ブログ。

こんにちは!

本日は今週、3月19日発売の一迅社文庫アイリスの新刊をお届けいたしますウインク

新刊は……
キラキラ二カ月連月刊行キラキラ
『転生令嬢は推しキャラのために…!!2』

著:森ノ宮 明 絵:柊酸

★STORY★
前世で愛読していた物語の中に転生した子爵令嬢セルディ。彼女は、非業の死を遂げる推しキャラ・近衛騎士隊長レオネルの死亡フラグを折るために前世の知識を披露していく。その結果、セルディは気づかないうちに物語の裏事情に巻き込まれはじめて――。  
転生令嬢の推し活ラブファンタジー第2弾💖

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「セルディ、待たせた」

 そして夜になって夕食の準備を終えた頃。レオネルとサイロン、更にはサーニア公爵夫人までもがセルディの部屋へとやってきた。

(どうりで皿の数が多いと思った!)

 どうやらレオネルがセルディの部屋で一緒に食事をするという話を聞きつけ、夫人がついでに謝罪をしたいと申し出たらしい。
 サイロンは夫人に引っ張られてきたのだろう。
 渋々やってきたと顔に書いてあった。
 公爵夫人を上座に、セルディとレオネルは隣同士に座った。サイロンはレオネルの対面だ。

「セルディ、今回の事は本当にごめんなさいね」
「えっ、いえ、そんな! こちらこそ私の問題で騒動が起きてしまったみたいで……」

 薄い水色の綺麗なドレスを着た夫人に、申し訳なさそうに眉を下げながらそう言われてしまい、セルディは両手を顔の前で何度も振った。

「いや、もともとセルディをここに連れてきたのは、こういう騒動を懸念していたからだ。対応しきれなかったこちらに問題がある。兄上にも伝わっていると思っていたんだがな……」
「私は聞いていなかった」

 申し訳なさそうな夫人とは違い、サイロンは相変わらず偉そうに見える。
 そのサイロンの態度に夫人は眉を寄せた。

「聞かなかったの間違いでしょう? 私は話そうとしましたよ」
「そもそも母上がだまし討ちのような事をするからいけないのでしょう」
「あなたがさっさと結婚していればこんな面倒な事には……」
「母上、セルディの前で言い合うのはやめてください。兄上は謝る気がないなら出ていけ」
「……こちらの不手際であんな目に合わせた事を謝罪する」

 レオネルにきっぱりと言い切られ、不貞腐れたように横を向いて言ったサイロンの頬には大きな痣が出来ている。

(あれって、もしかしてレオネル様に殴られたんだろうか……)

 よくよく見れば唇も切れたような跡がある。
 レオネルがセルディの代わりに思い切り殴ってくれたのだろう。
 その事実だけで、セルディの溜飲がいくらか下がった。
 確かにあの夕食会がなければあんな目には遭わなかったかもとは思うが、セルディはサイロンの事を非難するつもりはない。
 悪いのは実行したブルノーだし、サイロンもわざとこんな事を起こした訳ではないだろう。
 たかが夕食を一緒に食べたくらいであんな事が起きるなんて、誰も思っていなかったに違いない。
 パールとセルディは初対面だったのだから、何かするにも時間が早すぎる。
 それに、情報の伝達不足があった事は否めないが、あのまま実家に居たとしたら野外で襲われていたかもしれないのだ。
 その可能性にブルリと寒気が走ったセルディは、嫌な気持ちを追い払うように顔を横に振った。

「今回の顛末を話す前に、まずは食べよう。セルディ、どれが食べたいんだ?」
「ふぇっ⁉」

 夕食は時間を気にせず食べられるようにとすべての料理が大皿に並べられていた。
 取り分けるのは使用人だと思っていたセルディは、予想外のレオネルの問いかけに固まる。

「これとかおすすめだぞ。脂がのっていて美味い。あとはコレと……」

 あれとそれと、とたくさんの種類を皿に盛られるのを、セルディは戸惑いながら見つめる事しか出来ない。

「あ、あの、レオネル様! もう、もう一杯です! そんなに食べられません!」

 さすがにそれ以上は無理だと止めると、レオネルは「そうか?」と言いながらセルディの前に皿を置いてくれた。
 小山のうちに止められた事に、セルディはホッとする。

「そんなに気に入っていたのなら最初から手紙に書けばよかったでしょう」

 一度口元をナプキンで拭ってから、夫人がそう切り出した。
 レオネルは自分の皿に好きな食材を乗せながら、苦々しげな口調で返す。

「……だからといってまさか兄上に紹介するとは思いませんでしたよ」
「私はこの街が発展するならどちらでもよかったんですもの」

 顔を横にツンと逸らして言う夫人は、さっきの拗ねたサイロンとそっくりだ。

「はぁ……、母上も少しは自重して下さい。兄上はあなたに似て頑固なんですから、決められた結婚に従う訳がないでしょう」
「それとこれとは話が別です。サイロン、早く結婚して跡継ぎを作りなさい」
「母上がもう一人お作りになればよろしいのでは?」

 話を振られたサイロンはレオネルと同じように苦々しげに言い返す。

「出来る事ならそうしたいところですけれど、子供は一人では作れないのですよ」
「二人とも……、子供の前でやめてください……」
「……だからここにはあまり帰ってきたくないんだ」

 使用人が注いだワインを飲み干し、サイロンが呟く。
 セルディは三人のやり取りを見て、なんだかダムド家の親子関係がわかってきたような気がした。

(サイロン様は母親似で、レオネル様はきっと父親似よね。それで、サイロン様はサーニア様に同族嫌悪のような感情を抱いてるって感じかしら……)

 あまり顔を合わせたくないサイロンはたびたび視察に出かけ、ダムド領はサーニア夫人がほぼ一人で切り盛りをしてきたのだろう。
 そんな二人の間を取り持てるレオネルは王都に、父親は辺境地で睨みを利かせていて帰る事が出来ないでいる。そのため、家族間での情報共有が上手くいかなかったのだろう。

「セルディ、美味いか?」

 黙々と食べていたセルディは、レオネルの言葉に慌てて頷いた。

「あ、はい! とっても美味しいです!」
「それはよかった」

 こんなに甘い人だっただろうか。
 ちらりと横目で見たレオネルは、頬を緩ませながらセルディが食べる様子を見ている。
 見られているという事実がなんだかとても恥ずかしいが、セルディは食べるしかない。

(心臓に悪すぎる! 早く食べ終えよう!)

 セルディは頑張って口を動かした。

~~~~~~~~(続きは本編へ)~~~~~~~~

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こんばんは!

本日も来週3月3日に発売するアイリスNEOの新刊の試し読みをお届けですニコニコ

試し読み第2弾は……
『貧乏国の第四王女、大国の王子と結婚することになりました』

著:あさづきゆう 絵:御子柴リョウ

★STORY★
北の小さな国の第四王女デルフィーナ。18歳になったら結婚して平民になることが決まっている彼女は、仲が良い姉夫婦のような幸せな結婚をしたいと思っていた。ところがある日、大陸の南に位置する大国の第二王子クラウディオから求婚される。抜群の容姿と魔力に恵まれた大国の王子がなんで私なんかを!? 平民になるつもりで育ったから王族の正妃なんて絶対ムリ! けれど弱小国がこの婚姻を拒めるはずもなく、しぶしぶ嫁いだ先には陰謀が待っていて――この結婚、すごく訳あり!? 
貧乏弱小国王女と大国王子の政略結婚ラブファンタジー♡

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「デルフィーナです。お呼びと伺いました」
「ああ、待っていた。こちらに」

 お父様が複雑な表情で声をかける。手招きされて、ゆっくりと移動した。お父様とお兄様の間に立つと、目の前の武人に紹介する。

「この子が第四王女のデルフィーナです」
「初めまして。ダラシア国、第二王子のクラウディオだ」

 彼は小さく頷くと、名乗る。クラウディオ様は暑い国の王子らしく、精悍な顔立ちをしていた。黙って立っているだけでも、存在の強さを感じる。この場にはオスウェル国の人間の方が多いため、とても異質に見えた。
 初めて接する強い存在にじっと見つめられると、居心地が悪い。自分でも情けないと思うが、狙われた獲物のような気分になる。どうしたらいいのかと、視線を彷徨わせた。お兄様が気づかれない程度に、私の腕を掴む。はっとして、背筋を伸ばした。

「デルフィーナです」

 慌ててクラウディオ様に名乗った。とてもではないが、国の賓客に対する挨拶の仕方ではなかった。自覚はあるが、もう時は戻らない。
 恥ずかしいことであったが、それで縁談がなくなるならいいとまで考えていた。だが、彼は私の振る舞いなど気にせず、お父様へと目を向ける。

「少し、デルフィーナ王女と話しても?」
「もちろんです」

 お父様が承諾すると、すぐさま宰相が口を開いた。

「それでは、庭にどうぞ。ちょうど今、花が満開です」
「わかった」

 クラウディオ王子は私に手を差し出した。大きくて固い手だ。南の国の人らしく、少し日に焼けている。
 この手を取るべきなのか、それとも断っていいのか。エスコートされる経験がほとんどない私は戸惑う。
 どうしようかと思いめぐらせながら、視線をうろつかせた。……お兄様が助けてくれないかとちらりと隣に視線を送るが、諦めろとその目が告げていた。同時にその手を取れという圧力もかかってくる。

(ううう、ひどい。無礼と言われたら、責任取ってほしいわ)

 おずおずと、彼の手に自分の手を重ねた。彼の大きな手に自分のを置けば、その大きさの違いがよくわかる。男の人の手はこんなにも大きかったのかと驚く。
 クラウディオ王子は強引な雰囲気とは違って、そっと優しく包み込むように手を握った。固いごつごつした手の感触に、びくりと体を震わせた。
 さすがにこの反応は失礼だったかと、彼を見上げる。とても近い距離に立っていて、彼との身長差が驚くほどあった。

「申し訳ございません」
「気にするな」

 今にも食われてしまいそうなほどの笑みを見せられて、震えそうになる。それを意識して抑え込んだ。そうしている間にも、クラウディオ王子はお父様に何かを告げてから、私を見下ろした。

「では、行こう」

 クラウディオ王子はさも自分の国にいるかのように振る舞う。
 これが大国ダラシアの王子。堂々とした態度にどうしても気後れする。預けた手を抜き取りたい気持ちが湧いてくるが、ぐっと堪えた。
 握られている手のひらに変な汗が出ていないことを祈りながら、努めて感情を出さないように歩く。

(王族の教育など受けていないのに……こんな高度な社交をさせないでほしいわ)

 お父様とお兄様を恨みながら彼の歩調に合わせて歩いた。共通する話題も見つからず、二人の間には沈黙しかない。ただ伝わってくる空気から機嫌は良さそうだが、それだけだ。彼が何を考えているのかわからないまま、大人しく歩いた。
 エスコートされた先はバラが咲き乱れている庭園だった。テーブルと長椅子が用意されていた。それを見て、顔が引きつる。一人用の椅子なら距離が取れるのに、長椅子なのだ。明らかに並んで座れるように用意されている。
 そもそも、初対面の相手と並んで座るなんて、非常識すぎる。そう思ったのは私だけではなく、隣から押し殺した笑い声が聞こえた。

「あの?」
「いや、悪い。あの要望で、長椅子が用意されるとは思っていなかったから」

 どういうことだろうかと、疑問ばかりが頭に浮かぶ。クラウディオ王子はニヤリと笑った。

「王女と親しくなれるように準備してほしいと言ったんだ」

 ここを整えた誰かを内心罵りながらも、座る場所はその長椅子しかない。しぶしぶ二人で腰を下ろした。近い距離にクラウディオ王子の体温を感じて、少しだけ恥ずかしさがこみ上げてくる。エスコートもそうだが、この微妙な距離感が本当に慣れない。
 少しでも距離を持とうと、脇に寄ったが移動できたのは気持ち程度だった。私の行動がわかっているのか、彼は笑みを見せた。

「デルフィーナ王女。俺の求婚を受けてもらえて光栄だ」
「そう……ですか」

 受けたんじゃない、断れなかっただけ。言葉は正しく使ってほしいと心の中で大いに嘆いた。ここは北の小国。軍事的にも強い大国と縁を持とうなんて誰も望んでいない。
 わかっていて言っているのだろう、クラウディオ王子は目を細めて笑った。

「心配するな。お前は俺の側にいればいい」
「……私は王族の妃になれるほどの教育を受けておりません。ですから、クラウディオ王子の求める妃になれると思えません」

 やっぱり間違いだったと、撤回してほしくて彼を見つめる。彼は作りものでない笑みを浮かべた。ちょっと肉食獣のような今にも食いつきそうな獰猛な笑みだ。何か間違った、そんな気持ちになる。

「いいや。君ほど俺の目的にぴったりな女は他にいない。俺が選んだんだ、文句は言わせない」
「え?」

 理解ができずに、呆気に取られた。クラウディオ王子は続ける。

「後ろ盾のない小国オスウェルの第四王女。王位を望んでいないと周囲に示すにはとても適している。はは、馬鹿どもの悔しがる顔が見えるようだ」

 あまりにも当たり前のように本心を告げてくる。初対面の私が聞いていい話なのか、不安になる。
 するりと頬に手が当てられ、顎を掬われた。クラウディオ王子の強い瞳は光の加減で、金色に光って見える。見つめられただけで、体がこわばった。べられてしまいそうなほどの眼差し。でも、不思議と視線を逸らせなかった。

「――その目、いいな。気に入った」

 頬に添えられていた手が離れて、膝に置いていた私の手を持ち上げた。少し冷たい私の指先に、そっと唇が当てられた。
 時間にしたらほんの一瞬。
 恐ろしいほどの熱が指先から伝わってくる。それは、彼の体温だけではありえないほどの熱量だった。強引に彼の存在を知らしめるように、私の体に魔力が注ぎ込まれる。

「抵抗するな。受け入れろ」

 彼は指先に口づけをしたまま、そう囁く。流された魔力に体が痺れたが、すぐに心地よいものに変わる。他人の魔力を受け入れて、心地よいと思えるのは、すべての相性がいいということでもあった。

(この王子、先祖返りだ)

 大陸では血が薄まって魔力を持つ人間はほんの一握り。わずかに魔力を持つだけでも、尊いとされているらしい。魔法をほとんど使わない、とオスウェル国にやってくる商人たちが言っていたことを思い出す。
 オスウェル国は閉鎖的に婚姻を繰り返していたから、すべての民が魔力を持っている。誰もが普通に生活に魔法を使う。だから、厳しい寒さの北国でも生きていける。特に私は王族の中でも桁違いに魔力が高く、大抵の魔法は使えた。私との結婚のメリットは、魔力の多さしかない。
 でも、王位に関係ない妃が欲しいと言っていたのと矛盾する。ただ、私は政治的なことが苦手だから、何がおかしいのかわからない。

「デルフィーナ王女……いや、デルフィーナ。俺のこともクラウディオと」

 呼び捨てで呼ばれて、思わず赤くなる。彼の、名前を呼べと促す視線に、躊躇いながら彼の名前を口にした。

「クラウディオ……様」
「様はいらいないけどな。まあ、今はそれでいい」

(呼び捨てなんて、できる気がしない)

 突然の近い距離間に、心がどうにかなりそうだった。でも、それが彼なりに歩み寄ろうとしていることであるのなら、逃げてばかりはいられない。私は大きく息を吸うと、背筋を伸ばして、隣に座る彼をまっすぐ見つめた。彼も私の真剣な目に、面白そうな顔をした。

「クラウディオ様、どうぞよろしくお願いいたします」
「俺の手を取ったこと、絶対に後悔させない」

 クラウディオ様はふっと力を抜いた笑みを見せた。
 私の立場を考えれば、クラウディオ様の言葉はとてもありがたいことだ。この国から遠い、はるかに大きな国の正妃になるのだ。どんなことが起きるかわからない。

(でもね。できれば普通にこの国で庶民になりたかったわ)

 私は諦め半分、これからのことに期待半分な気持ちでクラウディオ様を見つめていた。

~~~~~~~~(続きは本編へ)~~~~~~~~
こんにちは!

本日は来週3月3日に発売するアイリスNEOの新刊の試し読みをお届けいたします爆  笑

試し読み第1弾は……
『皆様、答え合わせをいたしましょう』

著:楽歩 絵:まち

★STORY★
「殿下、答え合わせをいたしましょう」
王太子に婚約破棄を突きつけられた大聖女である公爵令嬢シルヴィ。聖女たちに仕事を押しつけ、王太子が心を寄せる男爵令嬢に嫌がらせをする傍若無人な女として、シルヴィは国外追放処分にするとも言い放たれた。しかし、護衛騎士アランの傍で彼女は微笑み、王太子が見ようとしなかった真実を告げはじめ――。
答え合わせから始まる断罪劇&苦しみ抜いた令嬢が祝福の道を進むラブファンタジーが書き下ろし番外編を収録して書籍化!

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「シルヴィ・ウィレムス! 貴様は、公爵令嬢の権限をかざして傍若無人なふるまいをした。大聖女だというのに仕事のほとんどを他の聖女に押し付け、さらにここにいるミラに数々の嫌がらせをした。大聖女にも国母にもふさわしくない。よって、婚約破棄を宣言する」

 きらびやかな光に満ちた学院の大広間。その中央に立つのは、婚約者であるウィレムス公爵令嬢ではなく、別の女性を伴って現れた王太子殿下だった。
 その瞬間、学院の卒業パーティーは止まった。笑い声も音楽も消え、残ったのは心臓の鼓動だけ。
 卒業生の私はグラスを持ち上げたまま固まる。友人たちも同じだ。私のパートナーの婚約者は、場の空気など意にも介さず、きらきらした目で前を見つめている。
 星を散らしたようなシャンデリアの光が天井から降り注ぎ、大理石の柱は冷たく沈黙している。深紅のタペストリーがわずかに揺れたのは、風のせいか、それとも空気の緊張に震えたのか。
 誰もが息を潜め、目を逸らすこともできずに見守っていた。その視線のすべてが、一人の女性に集まっている。

「かしこまりましたわ、セドリック殿下」

 白磁のような肌に、陽光を閉じ込めたような金の髪。宝石めいた深緑の瞳は、在学中ほとんど感情を映したことがない、はずだった。
 今、その顔には、気品をまとった微笑が確かに浮かんでいる。

「婚約破棄だぞ! わかっているのか」

 こてん、と首を傾げたその仕草は愛らしい。けれど、口ぶりにはあからさまな侮蔑が混じっていた。
 こんなシルヴィ・ウィレムス公爵令嬢は見たことがない。彼女といえば、目立つことを避け、余計なことは言わず、一歩引いて周囲を見守る女性。傍若無人な面など一度として見せたことはないし、そもそもこんなに明るい空気を纏う人でもなかった。
 ……そして、今、微動だにしない彼女の前で、婚約破棄を宣言した殿下のほうが明らかに動揺している。

「ふふ、嫌ですわ、殿下。簡単に言えば『結婚するという約束を一方的に取り消す』ということでしょう? わからない方がいるのですか」

 子どもの戯言でも聞いているかのように、愉快げに微笑む。私は、なぜか背筋を冷たくした。

「そ、そうだ、貴様の有責でだ。すべて認めるということでよいのだな!」
「ええ、傍若無人なふるまいも、皆様への嫌がらせも、心当たりがありますもの」

 華々しい会場は、緊張感に満ちた。皆様? 今、皆様って言ったか?
 ウィレムス公爵令嬢の言葉を受け、勝ち誇った表情を浮かべる殿下。しかし、隣にいる男爵令嬢の瞳は、なぜか揺れ動き、焦りの色が隠しきれなかった。

「ならば、今、この時点で婚約破棄を決定する。既に王家並びに公爵家の許可は取ってある。慰謝料の請求は、公爵家ではなく貴様個人にだ。そして、これからの処遇も既に決定している」

 ああ、新たな人生の門出を祝うはずの卒業パーティーで、今、まさに一人の令嬢の人生が終わろうとしている。公爵家という恵まれた家に生まれても、人生とはわからないものだな。

「処遇云々は後にして、やはり取り消すとごねられても困りますので、先に婚約破棄の書類にサインをしてしまいましょう。用意してあるのでしょう、殿下?」

 おかしい、追い詰められているはずなのに、なんだこの、ウィレムス令嬢の前向きさは。

「なっ! ごねるのは貴様の方だろう!! 当然用意はしている。書類をここへ!」

 背筋を伸ばし、まっすぐ前を見据えて。まるで優しい風がそっと吹き抜けるかのように令嬢は歩いた。
 従者が差し出した書類に手を伸ばし、ペンを取り滑らかに筆を走らせる。書き終えた書類を丁寧に整え、静かに置いた。
 その一つ一つの優雅な所作に、会場の視線は釘付けとなる。
 二人のサインが静かに終わると、王太子は誇らしげに書類を高々と掲げた。

「今、このときをもって、シルヴィ・ウィレムス公爵令嬢との婚約が破棄された。そして、私は愛するこのミラベル・ルメール男爵令嬢と婚約を結ぶ。ミラは聖女としての力はないものの、自分にできることをと神殿の手伝いをし、民に寄り添い、愛されている。他の聖女の信頼も厚い。博愛の精神を持ち、私の心の支えだ。ミラ、今日から君は私の婚約者、未来の王妃だ」

 殿下に寄り添い、その胸に顔をうずめながら涙ぐみつつも微笑むミラベル嬢。まるで劇的な恋物語の最後を迎えたヒロインのようだった。周囲の貴族たちは歓声を上げ、祝福の拍手を惜しみなく送る。
 そして――笑顔でひときわ大きく拍手をするシルヴィ・ウィレムス公爵令嬢の姿。
 徐々に周囲の拍手が静まりゆく中、「まあ、素敵ね」と言いながら拍手を続けるその姿に、会場はざわめき立った。

「……貴様は、なぜ拍手をしている?」

 王太子の冷たい声が響くが、ウィレムス公爵令嬢は、微笑を崩さぬまま優雅に答えた。

「拍手の意味も御存じない? 愛し合う二人を祝福しているのです。私、殿下にまったく興味がございませんでしたから、本当に愛し合える方と結ばれたことを心から嬉しく思っておりますのよ」
「なんだと! ……いやもういい。最後の強がりだろう? では、貴様の処遇を言い渡す。公爵家からの除籍、並びに国外追放、慰謝料の支払いのため……」
「あっ! 殿下? 失礼ながら、発言の許可を」
「なんだ! いまさら何を言っても貴様の処遇は変わらないぞ!」
「国外追放などは全く構わないのです。ただ、私の嫌がらせは高度すぎて、本当に殿下に御理解いただけているかどうか疑問で……」
「証拠はそろっているし、全て把握済みだ。何が理解だ。笑わせるな」
「ふふふ。では、殿下、答え合わせをいたしましょう」

 シルヴィ・ウィレムス公爵令嬢が胸の隙間から小さな冊子を取り出す。

「お、お前は、今どこから何を取り出した!」

 王太子の表情がこわ張る。

「見ていらっしゃらなかったの? ドレスの胸元から冊子を取り出したのですわ。ドレスのどこに物をしまうところがあるというのです」
「……なんて、はしたない」
「殿方の前でやらないだけで、皆、ハンカチなどはここに入れているはずですわ」

 そして、ウィレムス公爵令嬢は、ちらりとミラベル令嬢に視線を向ける。

「殿下の隣にいらっしゃる可憐ぶった令嬢も……あっ! 失礼。物を挟むには少しばかり足りないようですね。ええ、そちらの方は、そのようなはしたないまねはしておりませんわ。よかったですわね、殿下」
「なっ……! ひどい!」

 ミラベル嬢の顔が真っ赤に染まる。そうか、令嬢はあんなところに物をしまうのだな。ミラベル嬢……確かに、確かにストン、だな。
 ウィレムス公爵令嬢は楽しげに微笑みながらも、一切の迷いなく、冊子を差し出した。

「さあ、こちらは殿下にお預けいたしますわ。殿下が把握している私の嫌がらせとやらをお話していただいた後、こちらを御覧いただきますわ。書ききれなかったものもありますが、補足は後でしますので、御安心を」

 声音には明るさがあり、周囲から見れば彼女が心から楽しんでいるようにも思えた。彼女の鮮やかなドレスの裾がふわりと揺れるたびに、場の空気はより不穏なものに変わる。対する王太子は、険しい表情のまま彼女を睨みつけていた。二人の間には、異なる温度差が生まれている。
 私は、この状況をただただ見守るしかなかった。誰か、この場において全貌を理解できている者がいるのだろうか。私の友人たちも視線を交わしながら、興味と困惑が入り混じった表情を浮かべている。
 卒業パーティーとは、もっと穏やかで和やかなものではなかったのか。

「ああ、いいだろう。まず、貴様は大聖女としての力を有しながら、神殿の中でただ祈りを捧げるだけ。ほかの聖女はその間、民の治療をし、貧しい民や孤児などに対しての炊き出しも行う。魔物が出た場所に赴いては、危険な場所で浄化も行う。聖女たちからの不満の訴えが、このミラを通して王宮に上がってきている。聖女代表、ここへ」
「はい!」

 王太子が発した言葉は冷ややかだった。その声音が会場の隅々にまで響き渡ると、周囲の貴族たちは息を飲み、視線を交わし合った。
 呼ばれた聖女が一歩前に進み出る。彼女の表情には、自信と使命感が浮かんでいた。彼女の証言が、この場の空気を左右するのだろう。
 私は、静かに語り出した聖女の姿を見つめた。

~~~~~~~~(続きは本編へ)~~~~~~~~