本日は続けて来週2月3日発売のアイリスNEOの新刊をお届けいたします
試し読み第2弾は……
『空読み姫の結婚』

著:橘ハルシ 絵:由貴海里
★STORY★
王命で辺境の痩せた領地に嫁ぐことになった、地の加護を持つ空読み姫・ネイリッカ。それは領主のお飾りの花嫁になって、その地を豊かにするためだったのに、領主は年の差を理由に拒否! そこで年が近い領主の息子アルヴィと結婚することになったのだけれど……。彼と出会ってから加護の力が暴走するようになってしまって!?
暴走気味な空読み姫と次期領主のほのぼの政略結婚ラブファンタジー。
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(私は、アルヴィ様にとって押し付けられた花嫁ですし、誰かに可愛いと言われたこともありませんし、気に入ってもらえる所がない気がします)
スカートを両手でぎゅっと握り締めて審判の時を待っているネイリッカの頭の上から、予想外の明るい声が降ってきた。
「初めまして、ネイリッカ様。僕がアルヴィです。僕らは今初めて会ったばかりで、まだお互いよく知らないのにいきなり夫婦だと言われても困りますよね。だから、友人か兄妹という関係から始めませんか?」
それは想像していたよりずっと幸せな提案で、ネイリッカはパッと顔を上げ、笑顔で頷いた。
「はい! ぜひ、お願いいたします。アルヴィ様、私を嫌わないでくださって嬉しいです。ありがとうございます!」
勢いよく頭を下げて喜ぶネイリッカに、ぽかんと口を開けたアルヴィが不思議そうに首を傾けた。
「会ったばかりなのに、嫌うも何もないでしょう。……ええまあ、『空読み姫』様が贅沢好きだという噂は聞いていましたけど、だからと言ってまだよく知らないうちからいきなり嫌いやしませんよ」
穏やかな彼の言葉に、ネイリッカは心の底からホッとした。
「それでは、アルヴィ様。私をこのヤルヴィの地の『空読み姫』とする契約を行わせてくださいませ」
「え? 領主の父さんじゃなくて、僕が契約するの?」
張り切ってそう告げると、アルヴィは戸惑った声を上げ、つられてネイリッカも困惑した。
確かにアルヴィの言う通り、通常なら『空読み姫』の契約相手は夫である領主だ。だが、自分は特例なので夫は領主ではない。そしてその場合、どうすればいいのか誰も教えてくれなかった。
今から王都の空読みの塔へ問い合わせても返答が来るのは半月以上先になる。契約が終わらねばこの土地へ『地の加護』を使うことはできない。見渡す限り痩せ細ったこの大地を豊かにできる力があるのに、無駄に半月以上も放っておくなんて耐えられない。だけど、領主と夫、どちらと契約するのが正しいのか、ネイリッカには判断しかねた。
(どうしましょう、どうしましょう! ええと、夫と領主のどちらが優先されるべき……)
「領主でないといけないと決まってないの? それなら、いずれ代わるのだし、今からアルと契約しておけば途中で変えなくて済むわよね?」
自分が今すぐ決めなくては、と思い詰めていたネイリッカの耳にユッタののんびりとした声が聞こえてきた。その意見は理に適ったもので、ネイリッカは成る程と飛びついた。
「ユッタ様の言う通りですね! そういたしましょう、アルヴィ様。私は貴方と契約いたします!」
そう宣言して、善は急げとばかりに肩から下げていたカバンに手を入れ、ヤルヴィの地図を取り出し地面に置くと、アルヴィにその前に立つように指示した。それから地図を挟んでアルヴィと向かい合い、両手を繋ぐ。
「私、ネイリッカは次期領主アルヴィ・ユハナ様のもと、この地図の領域において空を読み大地を富ませる力を行使いたします」
アルヴィもネイリッカに教えられながら誓いを唱える。
「私、アルヴィ・ユハナはネイリッカを庇護することを誓い、彼女がヤルヴィの地において力を使うことを認めます」
二人が述べ終わった瞬間、足元の大地から天空へ向けて眩い光の柱が突き上がり、置いてあった地図が消えた。光に包まれた二人の衣服や髪が下から風に煽られたようにはためく。
話には聞いていたが初体験のネイリッカと、このようなことが起こると全く想像していなかったアルヴィは、この不思議な光の中で揃ってぽかんと口を開けて顔を見合わせた。その時、アルヴィの長い前髪が風で上がり、今まで見えなかった顔の上半分が現れた。
(あら、思っていたより随分と整ったお顔です。それに瞳が緑と黄色が混ざっている不思議な色でとてもきれいです。私はこの方の花嫁になったのですね……)
ネイリッカがぼうっと見惚れたところで光の柱が消失し、アルヴィの顔も元のように前髪で隠された。
「終わり、なの?」
「そうだと思うのですが……」
何処か変わったところはないかと両手を広げたり閉じたり足を振ったりしているアルヴィの側で、ネイリッカは一番近くの畑の前まで行くとしゃがみこんで手のひらを地面につけた。
「きちんと契約が成されていれば、私が力を使えるようになっているはずです。試しにこの畑に地の加護を加えてみましょう」
つぶやきながら、えいっとおもいっきり気合を入れた。
(今ここで、私がお役に立てるということを証明しなければ!)
必死で念じて加護の力を大地へ送る。塔の訓練ではこれで鉢植えの球根がひとつ咲いたから、この広い畑に対してだと葉の色艶が良くなってちょっぴり元気になるくらいしかできないだろうと、持てる力をめいっぱい注ぎ込んだ。
「えええっ!?」
「あらまあ」
「ネイリッカ殿っ!?」
「はい! ご領主様、いかがなされました? ……ファッ!?」
驚きに満ちた声で名を呼ばれて、うまくいったかと笑顔で頭を上げたネイリッカは、目の前に広がる光景に絶句してそのままの表情で固まった。加護を加えた畑は作物がむくむくと成長し、見上げるほどの高さに葉や蔓が密林のように生い茂り、一抱えもあるような豆がどかんどかんとぶら下がっていた。
「あああ。これは、その、少しやりすぎました……申し訳ありません」
(おかしい、こんなはずでは。どうしてこんなことになっているのでしょうか!?)
初めて見る巨大な豆に混乱しつつも、ネイリッカ以上に困惑しているだろう領主一家へ、この状況について説明しなければ、と、ぎゅっと手を握って自分へ活を入れた。それから、目を限界まで見開いて固まっているオリヴェルへ、元に戻すことはできないのです、と消え入りそうな声で告げた。
(初めて加護の力を披露する場だったのに、とんでもない失敗をしてしまいました……)
オリヴェルとユッタが戸惑ったようにこちらを見ているのも落ち込みに拍車をかけ、悲しくて泣いてはいけないと思えば思うほど目には涙が溜まっていった。
(ご領主様たちを驚かせてしまいました。もしかしたら、役に立たないと失望されてしまったのでは)
涙がぽとんと落ちそうになった時、側の空気が動いて硬い手がネイリッカの両手を握ってきた。続けて勢いよく振られ、アルヴィの弾んだ声が耳に飛び込んできた。
「ネイリッカ様、凄いよ! この時期はいつも食料が少なくて困ってたんだ。この大きさなら皆がお腹いっぱい食べられる! 君が来てくれてよかった」
彼の心からの言葉に、ネイリッカの落ち込んでいた気持ちが天まで駆け上がった。
「アルヴィ様にそう言っていただけるなんて、もう今直ぐ儚くなってもいいくらい嬉しいです!」
嬉し涙をこぼせば、彼が慌てたように繋ぎっ放しの手を引き寄せた。
「ついさっき来たところなのにもういなくならないでよ。これからこの土地をよろしくね、ネイリッカ様……うーん、様づけだとよそよそしいからリッカって呼んでいいかな?」
(いきなりそんな可愛い愛称で呼んでもらえるなんて! 夢じゃないでしょうか)
ネイリッカは大喜びでぶんぶんと首を縦に振った。長い前髪の向こうでアルヴィの顔が綻ぶ気配がして、更に驚くべき提案が続いた。
「それで、リッカは僕のことヴィーって呼んで? リッカだけの呼び方だよ」
なんだか二人だけの秘密のようなささやき声とその内容に、頭の中が沸騰した。
~~~~~~~~(続きは本編へ)~~~~~~~~

