第5章 韓国朝鮮の社会
20.韓国訴訟社会突入の原因
 
 
 
 
今回はいつにも増して長文です。
お付き合い下さる方、よろしくお願いします。
 
ドラマ・映画のコマで書きましたが、最近、韓国ドラマで『ウヨンウ弁護士は天才肌』『僅か1000ウォンの弁護士』『離婚弁護士シン・ハンソン』など弁護士ドラマが人気です。

 

 

なぜこの様に弁護士ドラマが増えているのでしょう?
増えた理由は多様ですが、総論として韓国社会が完全なる訴訟社会に突入した事を挙げられます。
 
記事はコチラ
近年韓国社会は、まさにアメリカにも似た純然たる「訴訟社会」に突入しました。
 
検察統計によると、1985年に100万9411件だった処理事件は2004年に260万2171件に増加、民主化と犯罪化が一緒に行われて居ます。
訴訟もやはり急増、2002〜2004年の訴訟件数は52万件、58万件、63万件と増加しました。
日本の告訴・告発事件数が多くて年間1万5千件未満なのに対し、2014年の韓国の告訴、告発事件数は49万5,436件で、おおよそ30倍以上にあたります。

 

 

この原因としては否定的な面:マイナス面肯定的な面:プラス面が存在します。
一編の論文が書けそうな深奥なテーマですが、試論として幾つか箇条書きして見ましょう。
 
❶まずは社会の「不正義」感の増大です。
2011年の法意識に関するアンケートで、「韓国社会では法がちゃんと守られていると思うか」という質問に対し、77%の人が「否」と答えて居ます。
そして、42%の人が「法を守れば損をする」と答え、81%が「有銭無罪、無銭有罪」(お金があれば無罪となり、お金がなければ有罪になる)と答え、67%が「ポピュリズム的な、また不当な裁判結果が多い」と答えて居ます。
「社会の不正義」感が訴訟を招いて居ると言えます。

 

 

❷次にやはり、急速な近代化・先進国化、そしてIMF危機などの国難に伴うコミュニティと伝統社会の喪失、それによる犯罪の増加を挙げられるでしょう。
 
韓国では、通常窃盗犯罪が犯罪率1位を占める他国とは異なり詐欺犯罪が1位を占め、OECD国家でもワースト1位を記録しています。
「2018犯罪現況」によると、2015年の詐欺発生件数が25万7620件を記録し、窃盗発生件数(24万6424件)を上回った以後、2017年の詐欺発生件数は24万1642件とワーストワンを走って居ます。

 

 

2017年の刑事公判事件1審受理件数26万2815件の中で「詐欺と恐喝の罪」で起訴された事件が4万1025件と最も多かった事を見ても、世界的に見て韓国は詐欺犯罪発生率が最も高い国に属します。
14歳以上の国民10万人あたり1152.4件の詐欺事件が発生した事になり、実に100人に1人は詐欺に遭う計算になります。

 

 

現在(2023年4月26日)、チョンセ(チャーター住宅制度)詐欺が日夜ニュースを騒がして居ますが、急速な先進国化やIMF危機などを経て、お金に対する過度な執着が社会制度の未備を突いた犯罪行為、資本主義社会特有の「黄金万能主義」を招いて居ます。
倫理意識よりもお金をより重要視する風潮、世知辛(せちがら)い世相もやはり詐欺犯罪率を高めるのに一役買って居ると言えるでしょう。

 

 

この件については余談ですが、専門家は韓国の特殊な状況も詐欺犯罪率が高い原因になると指摘して居ます。
いわゆる「民事の刑事化」です。
コレは民事問題で解決すべき事件を刑事問題で解決することを言いますが、時間が長くかかる不確実な民事問題を避けるため、債権者が債務者を詐欺で告訴して問題を解決しようとする場合が少なくない事情が有ります。

 

 

❸社会的関係での訴訟のみならず、家族間でも訴訟が急増して居ます。
これは、人間関係と家族関係が私的財産関係に変転したことを意味しますが、日常生活が殺伐とした「司法化」「非人間化」となってしまった事を物語ります。
 
❹ここに、韓国では民主化がむしろ司法化を促進した面が有ると言えるでしょう。
❹-①「国家保安法」案件、「大統領弾劾」事態、イラク派兵、行政首都移転問題、戸主制など…政策と政治の領域で解決されるべき議題が全部法律的・憲法的訴訟と決定の問題に帰結して居ます。
 

 

❹-②また、犯罪被害に遭った時に告訴・告発を通じて是正を求めるのは国民の重要な基本権と言え、確実に加害者を処罰して事態を正すには法的措置方法しか無いと言えますが、庶民が無権利だった軍事政権を経て1987年の民主化以降、訴訟件数は飛躍的に増大しました。
今や弱者たちは、訴訟という手段で悔しさを訴えて是正を要求して居るのです。

 

 

❹-③90年代半ば以降、参加連帯や民主社会のための弁護士会のような市民団体が、様々な公益訴訟を提起しました。
市民団体の訴訟は、立法を促したり政策変化を圧迫したり、弱者の無力感を解消することに大きく貢献できる重要な社会運動手段であることを示したと言えます。

 

 

性暴力事件、戸主制から最高裁の日本企業の強制徴用判決まで、庶民が声を挙げる事で民主化以前には想像も付かなかった成果を挙げて居るのです。
 
❺日本と異なり、韓国に存在する『憲法裁判所』の存在も、正義判断の尺度として人々の価値判断を担当する最重要な機関として運営・機能して居る事が司法化に寄与して居ると言えます。

 

 

❻訴訟社会への突入が、一概に否定的な面のみでは無い事が韓国司法の先進的な仕組みを見れば分かります。
 
詳しくは省略しますが、
❻-①刑事手続面で、人質司法からの脱却・無罪推定の徹底  (身柄不拘束の原則の徹底)
❻-②民事手続面で、民事執行の実効性確保(銀行口座の差押えの容易さなど)
❻-③ 法律事務所形態・弁護士の職域の多様化、法曹一元(個人事務所、弁護士法人など多様な組織形態を選択でき、数人の小規模事務所でも法務法人形態を採用することが出来る。
公証認可を受けた合同事務所や法務法人は、公証業務を担当する事が出来るので、日本と比べて公証制度の利便性・普及度が高い)などです。

 

 

❼先に述べたシステムは、一言で司法を使用し易い条件が揃って居るとも言えます。
これは、日本では訴訟したくても訴訟に掛かる費用やリスクがべらぼうに高く、効果が薄いせいで、訴訟を躊躇(ちゅうちょ)して泣き寝入りするしか無いケースが多く散見される実情と極を成すモノです。

 

❽IT強国の韓国では、2010年よりインターネットを通じ訴状や証拠資料などを提出し、裁判を進める「電子訴訟」が導入されましたが、開始から約6カ月間で10万件を突破し、2011年には14.9%、2012年には37.3%、2013年に43.5%、2014年に53.7%を記録するなど着実に増え、2019年には何と82.9%に達したと有りました。
とりわけ、少額の民事訴訟で活用されている事が指摘されており、庶民の強い味方となって居ます。

 

 

この様に、訴訟社会への突入にはプラスとマイナス、「光と影」が存在し、韓国は良くも悪くも緊張を強いる世の中に変化して居ると言えますが、もちろん弊害も多いです。
 
❶それは、はるかに強大な力を持った権力側が自分を批判したり、利益を脅かす弱者たちに向かって告訴・告発を乱発する事実です。

 

 

つまり告訴・告発が弱者の武器ではなく、企業、行政、司法の最高地位にある強者が弱者の口を塞ぐ武器として使われる事が頻繁に現れる様になって居ます。

その代表的な例が、企業側が労組活動家たちにかけた民事上の損害賠償請求訴訟でしょう。
企業側が労組活動を統制するために新型の弾圧手段で始めた賠償請求は、労働者たちの命を奪って家族を破壊する恐ろしい武器として使われて居ます。

 

 

❷現在、ドラマ『ザ・グローリー』に見える様に学校のイジメ「ハクポク学暴」が大きな社会問題化して居ますが、イジメ加害者側の「イジメ事実の無い事の証明」訴訟が頻発し、被害者に対する2次被害が彼らをより苦しめて居ます。
 
❸こうして韓国は今や、強者であれ弱者であれ、企業であれ政府であれ、さらには家族や隣人の間でも、ほぼ全ての葛藤事案と不満、敵対感を訴訟で解決する訴訟万能社会、訴訟共和国になって居ます。

 

 

怒れる韓国人、不当に悔しい目に遭ったと感じる韓国人は、それを解く方法がコレしか無いと思うのでしょう。
告訴と告訴がメチャクチャに絡み合って、1つの事件に3〜4個、さらには10個以上の訴訟が溜まる事も有ると言います。

 

 

行き過ぎた民主主義が、決して人々の幸せをもたらすモノでは無い事を、我々はアメリカの現在の姿を以って身に染みて感じて居ます。
司法化の肯定的な面は充分生かしつつ、真摯な対話と努力、そして双方の信頼に基礎を置いた成熟した社会への更なる飛躍を、世界の片隅から強く願いつつ、文を終えたいと思います。
 
長文のお付き合いありがとうございました。

 

 

<参考文献>
NEWS INSIGHT 대한민국 국민이 고소를 좋아하는 이유
대한변호사협회  전자소송 선호도 높아진 만큼 개선 목소리 높아

한겨레 [김동춘 칼럼] 소송공화국

JBpress 韓国の訴訟件数は日本の100倍以上、偽証600倍
日本弁護士会 韓国法曹事情
 
#韓国ドラマ #韓国時代劇ドラマ #韓国映画